映画館がやってきた! 映画鑑賞記

アンナと王様

■DATA
キャスト:チョウ・ユンファ,ジョディー・フォスター

Story

 1862年、西欧帝国主義の圧力にさらされるアジア諸国の一つシャム。
 その王(=チョウ・ユンファ)(史実としてはラマ四世(1804-68年)は、西欧の 脅威をはねのけるためにはシャムの近代化、 学問こそが重要だと考え、子供達の教育係としてイギリス人のアンナ(ジョディー・ フォスター)を招いた。
 英国とシャムの文化の違いに衝突を繰り返しながらも、アンナと王は心を 通わせもっとも信頼しあえる友になり、あるいは愛と呼べる優しさを共有する までになるが、それでもなお越えられない壁のためにアンナはシャムを去る ことになる。
 映画は、子供達の優しい父としての王と、国際政治、国内の争乱と戦う 厳しい王の二つの側面を等しく描く。

感想

[2000.2.15 ヴァージンシネマズ市川コルトンプラザ#5]
 平日7時の回でお客さんは30人くらいか。vc市川の#5は、約280席のTHX劇場です。 開演前はごく微少なハム音があるなあと思ったのだけれど、始まってしまえば完璧。
 本編の前に、dtsと "LET IT SEE THX"のロゴ。
 dtsのロゴが、どかん、ずがん、がっしゃん、シャラシャラ…と、異様に喧しい。 シャープで凄い音だとは思うのだけれど、これから見る映画が「アンナと王様」だと 思うと合わない(本編音声もこのセンスで整音されているとしたらやだな〜と思って しまう)。そのわりに、THXのロゴは意外なほど低音がマイルドで品があり、 自宅でLDのPCMトラックのTHXロゴを聴くより静かな感じ。不思議…。

 さて、肝心の内容だが、まずこってりくっきりした発色に「おぉ」っと思う。 テクニカラーでコダックフィルムの色だなぁと思ったらその通りだった。
 シャム国の光と湿度が伝わってくるような発色。豪華な宮殿や衣装の 凄さ、すべてこのフィルムのコクが伝えている気がする。
 サウンドの作りも素晴らしく、常にリアリティーのある環境音で 映画館が満たされている。熱帯の国で、風通しの良い建物が多いので 水音や、風のそよぐ音が常にあり心地よい

   ストーリーは、実在の英国人教師アンナの手記を元に極力史実に忠実に 作られていると言い、確かにミュージカル映画の「王様と私」のように アジア人から見たら噴飯物の描写というのは無い。
 逃亡した女と若者を処刑するシーンでさえ、国王としての統率力を維持 するための「罰」と、一人の男として「道義」に苦しむ姿が描かれていて 「一国の父親として厳しく生きる男」というスタンスで描かれているのは 素晴らしい。
 そして、演じるチョウ・ユンファがまたその王のイメージに ぴったりの気品溢れる男なんだな。これは、ユル・ブリンナーの王様が どう見たって「頑固で専横な感じ」をぷんぷん発散させているのと 段違い。アンナも惚れます。
 ユル・ブリンナーにはあまり知性を感じないけれど、チョウ・ユンファの 王様は、前半生の僧院暮らしで猛勉強して英語はペラペラ、知識欲に燃える インテリの王様という描写にピタリとはまり、実に格好いい。
 そしてアンナのジョディー・フォスターも、夫を亡くして教師として ひとり頑張っている英国女性の、気品とか心の壁とか、そういう物をよく 表していた。教師としての立場故、輝く美しさ…という類の魅力を発揮する 機会がほとんど無かったのは惜しいけれど。

 ストーリーの流れは、アンナと王様の異文化交流に加えて、一夫多妻制 の家族の愛、外国の干渉との戦い、内乱の危機という社会的な要素も非常 に大きく、屋外の大爆発シーンなども盛り込まれている。
 それぞれ見所豊富で山また山の連続であるが、逆に散漫になった感じも 否めない。つまり、全体の半分でアンナと王様の心の交流を描き、 残りの半分で当時の政治的背景を描くとすれば、当然内乱の決着シーンと、 アンナと王様の実ることのない愛の結末もあり、複数の映画を見たような、 中結末が二つ並んだような、そんな感じ。
 とはいえ、2時間半という長尺でそれぞれのエピソードをきっちり書き込ん ではいるので、繰り返し見ればさらに楽しめることは確実だ。
 ホームシアターで、仔細に鑑賞したいタイプの映画だ。

DVD

[2000.10.8](レンタルDVD) ★★☆
 作品はタイタニック以後にFOXが送る期待の超大作という感じでリリース された割には日本ではそれほどのヒットにはならなかったような気がするの だが、公開当時冗長かな?と思ったエピソードもこうして繰り返し見てみると アンナと王様の関係、シャムの国情を描くのにやはり欠かせないかという 気にもなるし、美術の美しさ、野山の美しさのすがすがしさなどは言うまで もなく素晴らしい。
 ストーリーの細やかさも良くできているのに加え、主役の二人が、 なかなか繊細な演技をしていると改めて感心する。
 「夫を亡くして良家の出ながら女手一つで子どもを育てなければ ならなくなり、見知らぬ土地で身構えている」というアンナと、彼女の 目から見た「生徒の国の王様」という関係が、様々なエピソードによって 変化して行き、しかし人間的に理解は出来ても越えられぬ壁…というもの を非常にくっきりと表現していて、つい感情移入させられてしまうような 所がある。
 非常に伏線の多い映画でもあり、二度目もまた楽しいというのも嬉しい。
 伏線は、これを見落としていると話が分からないというような大物では ないけれど、さりげないエピソードが有機的に織り込まれていると 「丁寧に作られた脚本なんだな」とそれに気付いたときに嬉しくなる サービスみたいなものだ。

 一つ気が付いて面白かったのは晩餐会で子供らが歌う曲がどうも 2001年のHALが歌っていた「デイジー、デイジー …」と同じのような ことで、とすると、相当昔から有る英国のフォークソングの一節なん だろうか?

■画質・音質

 映画館で見たときには強烈に赤かった印象だが、DVDでは比較的中庸な 色合いになっている。ともあれ、コントラスト感がしっかりしており、 圧縮臭さも少なく、画質的には良くできたDVDだと感じた。
 レンタル専用品の為か、オマケ映像は予告編しかない。これはちょっと 寂しいのでセル版には是非特典点満載でお願いしたい

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文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!