映画館がやってきた! | 映画鑑賞記 |
1862年、西欧帝国主義の圧力にさらされるアジア諸国の一つシャム。 その王(=チョウ・ユンファ)(史実としてはラマ四世(1804-68年)は、西欧の 脅威をはねのけるためにはシャムの近代化、 学問こそが重要だと考え、子供達の教育係としてイギリス人のアンナ(ジョディー・ フォスター)を招いた。 英国とシャムの文化の違いに衝突を繰り返しながらも、アンナと王は心を 通わせもっとも信頼しあえる友になり、あるいは愛と呼べる優しさを共有する までになるが、それでもなお越えられない壁のためにアンナはシャムを去る ことになる。 映画は、子供達の優しい父としての王と、国際政治、国内の争乱と戦う 厳しい王の二つの側面を等しく描く。 |
さて、肝心の内容だが、まずこってりくっきりした発色に「おぉ」っと思う。
テクニカラーでコダックフィルムの色だなぁと思ったらその通りだった。
シャム国の光と湿度が伝わってくるような発色。豪華な宮殿や衣装の
凄さ、すべてこのフィルムのコクが伝えている気がする。
サウンドの作りも素晴らしく、常にリアリティーのある環境音で
映画館が満たされている。熱帯の国で、風通しの良い建物が多いので
水音や、風のそよぐ音が常にあり心地よい
ストーリーは、実在の英国人教師アンナの手記を元に極力史実に忠実に
作られていると言い、確かにミュージカル映画の「王様と私」のように
アジア人から見たら噴飯物の描写というのは無い。
逃亡した女と若者を処刑するシーンでさえ、国王としての統率力を維持
するための「罰」と、一人の男として「道義」に苦しむ姿が描かれていて
「一国の父親として厳しく生きる男」というスタンスで描かれているのは
素晴らしい。
そして、演じるチョウ・ユンファがまたその王のイメージに
ぴったりの気品溢れる男なんだな。これは、ユル・ブリンナーの王様が
どう見たって「頑固で専横な感じ」をぷんぷん発散させているのと
段違い。アンナも惚れます。
ユル・ブリンナーにはあまり知性を感じないけれど、チョウ・ユンファの
王様は、前半生の僧院暮らしで猛勉強して英語はペラペラ、知識欲に燃える
インテリの王様という描写にピタリとはまり、実に格好いい。
そしてアンナのジョディー・フォスターも、夫を亡くして教師として
ひとり頑張っている英国女性の、気品とか心の壁とか、そういう物をよく
表していた。教師としての立場故、輝く美しさ…という類の魅力を発揮する
機会がほとんど無かったのは惜しいけれど。
ストーリーの流れは、アンナと王様の異文化交流に加えて、一夫多妻制
の家族の愛、外国の干渉との戦い、内乱の危機という社会的な要素も非常
に大きく、屋外の大爆発シーンなども盛り込まれている。
それぞれ見所豊富で山また山の連続であるが、逆に散漫になった感じも
否めない。つまり、全体の半分でアンナと王様の心の交流を描き、
残りの半分で当時の政治的背景を描くとすれば、当然内乱の決着シーンと、
アンナと王様の実ることのない愛の結末もあり、複数の映画を見たような、
中結末が二つ並んだような、そんな感じ。
とはいえ、2時間半という長尺でそれぞれのエピソードをきっちり書き込ん
ではいるので、繰り返し見ればさらに楽しめることは確実だ。
ホームシアターで、仔細に鑑賞したいタイプの映画だ。
一つ気が付いて面白かったのは晩餐会で子供らが歌う曲がどうも 2001年のHALが歌っていた「デイジー、デイジー …」と同じのような ことで、とすると、相当昔から有る英国のフォークソングの一節なん だろうか?
文:唐澤 清彦 | 映画館がやってきた! |