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オーストラリア紀行

第二部:クランダ編
  1. オプション・ツアーの正しい利用法?
  2. 高原鉄道とスカイ・レール
  3. レイン・フォレスト・リゾート
  4. クランダでの出会い
  5. ディジリドゥとブーメラン
  6. 野生動物たち
  7. 熱気球飛行
  8. カヌー、蝶の楽園

オプション・ツアーの正しい利用法?
まず、海沿いのケアンズに一泊した後、翌日から クランダへの2泊3日の小旅行をすることになっていた。 スーツケースは、その小旅行から帰ってきた後に泊まる予定のホテルに預けて、 2泊分の着替えとギターのみを持って行くことにした。
このクランダという所は、レイン・フォレスト (多雨林)の中にあるが、通常のパックツアーなどでは、日帰りの オプションツアーとして組み込まれるようなところである。 ここへのアクセス手段として、高原鉄道とスカイ・レールがある。 高原鉄道はケアンズの駅からクランダまで直通だが、本数に制限があった。 スカイ・レールは1997年に完成したばかりのロープ・ウェイだが、乗り場まで バスでいかなければならない。通常ならば、高原鉄道とスカイ・レールを 組み合わせてクランダへの往復を計画するところだが、僕らはかなり変わった 旅程を計画した。
まず、高原鉄道でクランダへ向かう。そこで、2泊する間にクランダから スカイ・レールを往復で乗る。そしてクランダからケアンズへの 帰りには、なんと「ドキドキ動物ツアー」という現地のオプションツアーを 利用する。このツアーは、もともとケアンズからの日帰りツアーだが、動物を 観察する場所がクランダに近いため、通りがかりに拾ってもらうことにした。
こうした変則的なプランを現地で考えられるのも、手配旅行のおもしろさだ。 というか、列車の時刻などの情報はガイドブックにはけして載ってないので 現地で調べて詳細を決めるしかない。3日後にチェックインする予定のホテルに スーツケースを預けたり、「ドキドキ動物ツアー」を申し込むときに、クランダで 拾ってもらえるよう頼んだりする必要はあったが、まあ、何とかなるものだ。 それにしても、オプション・ツアーさえも交通手段 として利用してしまうというのは、なかなか良いアイデアだった。

高原鉄道とスカイ・レール
ケアンズ−クランダ鉄道は、 古き良き時代のなかなか味わいのある列車が山肌に沿って1時間半ほどかけて 登っていく。昔は汽車で牽引していたようだが、今はディーゼルが牽いている。 自然の中を走りながら、次第に眺めの良い高原に登っていくのはかなり気持ち いいものだ。
今は完全に観光列車として、のどかに走っているが、架設された当時は大変 だったようだ。1882年から1891年にかけて10年近い歳月を 費やして架けられた鉄道は、開拓時代にすず鉱夫達が沿岸からの物資の供給を 得るための手段として建設されたらしい。しかし、100年以上も前の話なので 建設はすべて素手で行われ、急斜面や密林、さらに敵意ある原住民達のために かなり危険なものだったようだ。実際、途中には滝を避けるための橋なども あって、どうやって建設したのか想像できない所も何個所かあった。疫病が流行 したりという過酷な労働条件の元で、これを建設した人々の苦労がしのばれる。
1997年に完成したばかりのロープ・ウェイ、 スカイ・レールの方は、自然環境に配慮して架設されたという ところが現代らしい。架設のために伐採された木は、木造の家にして4軒分 だという。こちらも熱帯雨林の真ん中に支柱が立てられていて、どうやって 建設したのか不思議だ。建築資材はヘリコプターで運んだらしい。 空から見下ろすレイン・フォレストは迫力がある。樹木のキャノピーの間に 青い蝶が垣間見えた。色鮮やかなので 遠くからもはっきり見えた。
スカイ・レールは途中に何個所か中間駅があり、降りて辺りを散策することも できる。深いレイン・フォレストの自然を空と地上の両方から楽しめる。 スカイ・レールのケアンズ側の駅を降りたところには、 ジャプカイ博物館があり、 アボリジニの文化を紹介している。特にジャプカイ・ダンスと、アボリジニの伝説を 表現した劇がお勧めだ。裏の広場ではブーメラン講座などもやっていて、 スカイ・レールの最終の時間を気にしながらも、ちょっと投げさせてもらったりした。

レイン・フォレスト・リゾート
クランダの宿の情報は、ガイドブックにもなかなか載っていなかった。 しかし、レイン・フォレスト・リゾートというホテルがあることがわかり、 そこに2泊することに決めた。日本でガイドブックを調べているときは、 写真や説明など参考になる情報がほとんどなかったので、リゾート・ホテル とは言え、一体どんなところなのか少し不安があった。しかし、実際に行って みると、そこはレイン・フォレストの豊かな自然に囲まれた最高のリゾート だった。部屋はコテージ・タイプで4人くらい泊まれるようになっていた。 クランダの中心からは、やや離れているのが少し不便だったが、 マウンテン・バイクを借りたので、 さほど問題はなかった。
レイン・フォレスト・リゾートでは数匹のワラビーを飼っていて、餌付けも できる。その中の一匹は人によく慣れていて、おなかの袋から子供が顔を出して いた。ときどき、袋から外に出てきたりもする。しかし、触るとすぐに 袋の中に飛び込む。子供の体はかなり柔らかいらしく、袋から顔を出すとき、 同時に頭の上に足が出ていたりする。
また、この宿にはきれいなプールもあり、泳ぐこともできる。しかし、 残念なことにケアンズから水着を持ってくるのを忘れたので、結局泳ぐことは できなかった。
ここの宿を中心にして、スカイ・レール の他、夜行性動物観察ツアー や、熱気球ツアーを楽しむことができた。 また、川ではカヌーもできるし、 バタフライ・サンクチュアリ夜行性動物園もあって退屈しない。
とにかく、クランダに宿泊するというプランは大正解だった。ここはかなり お勧めの場所と言える。

クランダでの出会い
クランダに着いて、宿に向かう途中でレズリー と名のる男性に「君たちはミュージシャンか?」と声をかけられた。 僕らがギターを抱えて歩いていたからだ。趣味で持ってきたということを 説明したが、彼は「今夜、僕の店に来て演奏しないか?ディナーもごちそう しよう。」と誘った。彼はディジリドゥ(アボリジニの民族楽器)などを 売ってる店をやっているようだった。しかし、僕らは突然の話でちょっと 気持ち悪かったのも手伝って、結局、連絡先だけを聞くだけにした。 彼は僕らがレイン・フォレスト・リゾートに向かうところだというと、 「それは遠い。2kmくらいある。迎えを呼んであげよう。」とまで 言ってくれたが、それさえも断ってしまった。 彼はあきれた顔をして、額の汗をふき、ため息をつくゼスチャーをした。 そのとき手元に持っていた簡易の地図では、とてもそんなに遠いようには 思えなかったのだ。しかし、実際に歩いてみると、レズリーの言ったとおり 本当に遠かった。その晩も夜行性動物ツアーに行く予定を入れてしまって、 それっきり、彼と会うことはなかった。
宿に着いてすぐの昼ごろ、レストランで昼食を食べようとしていると、 今度はたまたま近くに座っていたオーストラリア人の女性、 サリーが声を掛けてきた。 彼女はシドニーから来た学生で独りで旅行しているところだった。 大学ではジャーナリズムを勉強していると言っていた。その晩の 夜行性動物観察ツアーには彼女も一緒に行った。翌朝も一緒に朝食を食べたが、 彼女はフィッツロイ島へスキューバ・ダイビングをしに行く予定だったので別れた。 シドニーの自宅の電話番号と、E−mailアドレスを教えてもらったが、 結局、彼女ともそれっきり会わずじまいに終わってしまった。
旅先では、本当にいろんな出会いがあって楽しい。ただ、どちらも中途半端な 別れかたをしたのが、ちょっと残念だった。

ディジリドゥとブーメラン
オーストラリアの原住民をアボリジニ というが、彼らは独特の文化を持っている。 それを代表するものが、ディジリドゥ と、ブーメランだろう。 ディジリドゥとは、1.5mくらいの木の筒で、一種の縦笛のような独特の 民族楽器である。太い「ボー」という低音の上に複雑な「ミョー」という高音が 重ねられたような不思議な音色がする。それはとてもその素朴な楽器から 出るとは思えない、シンセサイザーか何かで作られたような音だ。 モンゴルにホーミーと呼ばれる独特の歌い方があるが、それに少し似た 感じがある。
ブーメランは言わずと知れた「く」の字型の狩りの道具だ。「く」の字型 以外にも十字型のものなどもある。持ち方だが、通常は右手で、 内側から見た場合に「く」の字の反対になるように下の部分を持つ。 そして風に向かって約30度右の方向に手首を効かしながらほぼ垂直に投げる。 うまくいくと、自然に水平な角度になりながら手元に帰ってくる。 もちろん、そう簡単にはいかないが…。なお、左手で投げる場合は、 左利き専用のブーメランを使う必要がある。投げ方はもちろん左右反対 となる。
ディジリドゥやブーメランを始め、石細工のようなものまで、 アボリジナル・アートと呼ばれる 茶色を基調とした繊細な点描で、動物や自然を描いた図柄の装飾が施されている。 それは恐らく、神話や伝説を描いたものだが、素朴さの中にも神秘的な魅力を 秘めている。

野生動物たち
今回のツアーのテーマは「自然と触れ合う」ということだったが、 「野生動物と触れ合う」ということも多かった。オーストラリアは本当に 野生動物の宝庫で、そこら中に動物がいる。特によく目にしたのが、 ワラビーだった。 ワラビーとカンガルーは見た目はほとんど同じで、体重が20kg以下の 種類をワラビーと呼び、それ以上の大型のものをカンガルーと呼ぶそうだ。 本当に犬とか猫のような感じで、至る所で見ることができる。ただ、 警戒心は強いので、人間に慣れているものを除いては、近づくとすぐ 逃げてしまう。
クランダでは夜行性動物観察ツアーに出かけたが、そのとき見たのは 木の上のリング・テイル・ポッサム だった。ポッサムというのは、リスのような感じの動物で、危険を感じると 死んだふりをするらしく、木の上で目を丸くしたまま固まっていた。 近づいたり、写真を撮っても身動きもせずにじっとしていた。 その他にもコウモリなども見た。夜のレイン・フォレストは深い霧に包まれて 幻想的な空気が漂っていた。
後にケアンズに帰る際に利用した「ドキドキ動物ツアー」でも多くの動物を 見ることができた。至る所にある白蟻塚 には2mを超す巨大なものもある。白蟻塚は岩のように堅い。雨季に洪水に なっても大丈夫なように地面から高くしているらしい。白蟻塚が1m成長する のに約10年かかるという。有名なエリマキトカゲ も見ることができた。意外に大きくて体長50cmくらいあった。 残念ながら襟を広げているところは見れなかったが、あの独特のコミカルな 歩き方は見ることができた。それからカモノハシ も見ることができた。カモノハシは単孔類と呼ばれる爬虫類と哺乳類 の中間の動物で、「アヒルのくちばし」という別名がある。川で泳いでいるところを 岸辺で観察したが、ほとんど背中しか見えなかった。雨が少し降っていたので、 雨ガッパを来てみんなで岸辺に並んで息を殺して立ち尽くしている様子は、 まるで信仰宗教か何かのようだった。
ちょっと不思議だったのは、コアラを見かけなかったことだ。確かに動物園には いたが、野生のものは全く見なかった。オーストラリアでもやはり珍しい動物なの だろうか?

熱気球飛行
熱気球に乗るツアーは、とにかく朝が早い。朝5:00くらいに出発して アサートン高原に出かける。気球は風に弱いので、空気の安定している 早朝でなければ飛べないらしい。バスがなかなか来なくて心配した。 ホテルのフロントもしまっていて、連絡や確認のしようもなかった。 結局、20分遅れでやってきた。
現場に向かうバスに途中で半身麻痺の障害を持った人が介助の人と一緒に 乗り込んできた。バスはほぼ満席だったが、新婚旅行のカップルが夫のひざの 上に妻を乗せて席を空けた。微笑ましい光景 だった。
現場に着くと、4、5人のスタッフが気球の組み立てを始めた。 5〜10分で見る間に気球が膨らんだ。その作業を見ているとき、中国人の カップルが「あなたは日本人ですか?」と声をかけてきた。何かと思ったら、 シャープ製のハンディ・ビデオが トラブっていて、表示されている日本語の意味を読んで欲しいというという ことだった。「カセットを取り出して下さい」とモニタには表示されていたが、 引っかかってなかなか出てこなかった。 しかし、電源を入れたり、切ったりしてるうちに、何とか治ったようだった。
そうこうしているうちに、すっかり気球の準備は整った。気球はパイロット を入れて17人乗れるゴンドラだった。バーナーを吹かすと、ゆっくり上昇を 始めた。風がないので全く揺れることもなく、とても安定していた。まるで クレーンか何かで上から吊り上げられているような感じだ。飛行機のように エンジン音もなく、加速も感じない。ときどき、バーナーを吹かす「ゴー」と いう音があるだけだ。ただバーナーを吹かしている間はとても熱い。
見る間に高度をあげて、恐らく300mくらいの高さまで上昇した。 遠くには、別の会社の気球が見えた。コアラの頭の形をした気球も見えた。 しかし、それはコアラには全然似ていない。夜はすっかり明けていたが、 満月に近い月もまだ浮かんでいた。半径100mもあるかと思われるような 巨大な円形の畑が見えた。スプリンクラーか何かが中心から外に向けて まっすぐ一本のびている。その機械が一周できるように円形になっているのだ。 高いところからは、広大な高原が一望できた。
しばらくすると高度を下げて、2、30mくらいの低空飛行を始めた。 民家の屋根や生えている木をかすめるように飛ぶのは、地上の様子がよく 見えるので、それはそれでまたおもしろい。30分間の飛行の後 一度、着陸した。離陸が静かなのにくらべて、着陸は結構、衝撃がある。 気球に引きずられてゴンドラがかなり傾いた。 30分コースの人はそこで乗り換えたが、僕らは60分コースだったので そのまま、再び空へ舞い上がった。やはり60分コースにして良かったと 思いながら…。
飛行が終わった後、気球の片づけを手伝わされた。みんなで空気を抜きながら 気球をたたんだ。楽しかったが、結構な労働だった。その後、移動して 朝食を食べた。昔、気球を初めて飛ばしたとき、農場に着陸し、 驚いた農夫と一緒にシャンペンで乾杯したという古事 にちなんで、朝からシャンペンを飲んだ。 オーストラリアはシャンペンが安いので、今回の旅行では、この他にもよく シャンペンを飲んだ。

カヌー、蝶の楽園
朝から気球に乗った日は、チェックアウトしてケアンズに帰る日だった。 しかしチェックアウトした後、時間があったので、マウンテン・バイクを 借りて、クランダの中心に出た。夜行性動物園 で、またしても動物の餌付けを見た後、川で一時間ばかり カヌーを借りた。 川を少し下ると、昨日乗ったスカイ・レールが下から見えた。 川には遊覧船も走っていて、たまたま近くを通りがかった。 手を振ってみると、手を振り返してきた。 なぜか日本人ばかりが乗っていて、誰が音頭を取ったのか、声をそろえて 「こんにちは〜!」と挨拶してきた。クランダでは、それまでほとんど日本人を 見かけなかったので、ちょっと不思議な感じがした。
その後、バタフライ・サンクチュアリ(蝶の保護区) に寄った。蝶を放し飼いにした建物の中では、熱帯の 色とりどりの蝶が舞っていた。スカイ・レールから垣間見えたあの青い蝶もいた。 太陽の光を受けて、不思議な光を放っていた。
その日はマーケットも開いていたので、少し覗いたりして時間をつぶした。 昼すぎに宿に引き返すと、もう「ドキドキ動物ツアー」のバスが来ていた。 急いでマウンテン・バイクを返し、荷物とギターを持って乗り込んだ。
こうして、クランダを後にしたのだった。

第三部へ続く〜

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