「英雄の生涯」と「巨人」

94年5月号執筆(新)

 皆さん今日は、お元気ですか、今回はオーケストラの作品で、コントラバスが素敵に見える重要なパッセージから取り上げてみました。

そんな場面は、山のようにありますが、まず、R.シュトラウスの「英雄の生涯」からポジション移動の練習のために都合の良い譜面を断片的に掲載しました。

 そして、オーケストラ作品の中で、首席奏者がプレッシャーとの戦いをするSoloのパッセージと言えば、なんと言っても、マーラーの交響曲第1番「巨人」の第3楽章の冒頭に出てくるこの旋律(戦慄)でしょうね。

 掲載する楽譜は、ウイーン・フィルの主席を長年勤められたシュトライヒャー先生のフィンガリングです。

 すべての人に合うかどうか分かりませんが、何故、この運指にしているか考え、音楽的に理解すべきだと思います。

 まず、英雄の生涯の冒頭ですが、堂々たる立派な音で弾き始めなくてはなりません。決して弓の都合でフレーズが切れたり音が 痩せては英雄になれません。その為には、出来る限り駒よりに弓を使い、腕の重みを十分に乗せ、弓のスピードのコントロールができる右手、スムーズで無駄がない的確な運指をする左手が、上手くかみ合うまで何度も繰り返して練習するしか方法はありません。

 練習は、メトロノームを使って正確なリズム感を得ることと、立派な音を音符の長さ分、持続させて弓を返すことを目的とします。もう一度右手が、肩から、腕、肘、手首、親指の先まで、真っ直ぐ伸びていて、駒に向かった弓に、上半身の体重が自然に乗っているか確認して研究してみましょう。

 左手のポジション移動は、的確でスピーディーに音程をとらえます。(ネックポジション〜親指ポジション)の移動で気を付けることは、どちらのポジションでも、できるだけ指先の形が同じ状態になるようにすることです。第1関節を丸くして、音程をとるそれぞれの指先に、強くて分厚い肉が付くまでたゆまぬ努力を怠らないように頑張って下さい。

 さて、マーラーですが、他の楽器奏者からみると、たった8小節の単純なフレーズなのですが、オーケストラ作品でコントラバスにSoloが殆どなく、独奏になれていない我らバス弾きは、3楽章が始まりティンパニィーが4分音符を刻み出すと緊張は最高潮となり、練習ではうまく弾けていたのに、本番では思うようにならないことが定めのようです。昨年の第12回コントラバスセミナーで、初めてお会いされた、それぞれ定年まで首席奏者として活躍されてきた元、N響の中博昭先生、元、京響の西出昌弘先生が、在団中に何回マーラーを弾いたかと言う話からこんな事を話しておられました。「この旋律を立派に弾く事は、そんなに難しくない、だけど人生を全うした一人の老師が静かに説法をされているように弾くことは至難の業だ。」

 一度皆さんも、そんなイメージでこのフレーズに挑戦してみて下さい。 それではまた来月まで、ごきげんよう さようなら。

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