法泉院檀信徒・関係者ご一同様

「退院報告」

 平成12年9月3日

記:法泉院 住職

 2ヶ月にも及ぶ長い入院中、法泉院檀信徒の皆様には大変ご迷惑、ご心配おかけ致しまして、誠に申し訳ございませんでした。また、先般は、お見舞のお気使いまでして頂き、恐縮しています。有難うございました。お陰様で、8月24日に、神戸大学病院より退院させて頂き、法泉院に帰って参りましたので、その経過をご報告させていただきます。主な病名は「敗血症」「骨髄炎」などでした。
 
 但し残念ながら、退院と申しましても、自宅安静療養の執行猶予付きで、9月4日の整形外科の検査、9月7日の内科の検査、9月18日のMRI写真撮影・腹部エコー、9月25日(整形外科)、9月28日(内科)の診察総合結果を待っても、完治したと報告できないのが歯がゆい思いです。空洞化した脊髄が完全に埋まるには、年末まで時間が必要との事なのです。
 
 主治医の申すには、肝臓に膿種の巣を多数作った菌が骨髄に至り、下から四番目の背骨の中に大きな巣を作り、これが背骨を溶かしてしまったそうです。これらの菌が骨髄から頭部髄膜を巡る一連の作用によって、血液中の白血球が激減し急性敗血症として40度を超える高熱が一ヶ月も続いたのです。(正に生死の境をさまよいました)
 
 現在、活動している膿種は抗生物質の点滴の効果で無くなり、内科の診療はほぼ終了しました。後は背骨の溶かされた部分の再生を待つのみとなったのです。
 現在再生中の骨は赤ちゃんの骨のように柔らかく弱い為、重力のかからない様、無理をしない姿勢で安静を今だ強いられている状況です。しかし、帰宅後の平常生活に腰の痛みを伴いながらも、一睡ごと日増しに回復を実感し、喜んでいる昨今です。
 
 さて、熱が微熱まで下がり思考が出来るようになった後半の神大病院入院中、普段の生活の中では体験できなかった人の命について、一人の人間として、また、僧侶としての観点からも大いに考えさせられました。何と申しましても、今年に入っていきなり前住職のご遷化に始まり、檀信徒様のお葬式が続き、同世代の若い友人知人が他界し、また、入院中も同室や同病棟から退院される患者の方が多数おられる一方、廊下で出会って会釈していた隣部屋の患者さんが、急に病状が悪化して亡くなられる騒ぎに起こされる夜を数回経験しました。この半年の間に人の命の儚さを今更の様に改めて知らされた次第です。
 
 入院中の7月中旬頃「何とか盆参りをしたい。施餓鬼に出なくてはならない。前住職の初盆の準備があるから、早く回復させて下さい。いつ頃退院出来るの?」と病室に毎日点滴に来る主治医に相談していました。その話の内容が、同室の患者さんの耳に入り、それが同じ階の人達に伝わってしまいました。同じ病棟のある人は「ご住職さんでしたか、お盆と言う一番忙しいときに大変ですな」とねぎらって心配して下さったり、別の人は「精霊流しの日に帰れないので、祭壇はどうしたらいいでしょう」とか、はたまた主治医に至っては、「お盆の頃になると毎年○○号室に入院されている相部屋の患者さんが全員、霊が見えたと騒ぎ出すのですが、どう説明したらよいでしょうか?」と質問責めに合う始末です。
 
 結局私は、その一瞬患者でなく僧侶として「お盆には先祖の霊が、年に一度この世に帰ってこれる期間で、この世の私たちが、ご先祖様に感謝の気持ちを持って直接ご供養できる、絶好のチャンスなのですよ。ですから、霊が見えたからと言って怖がったり、否定したりしなくていいのです。極自然に祖父母や両親や家族、恩師や友人、隣人や世界の人々、ペットの犬や猫、庭や野山の草花、海や山の自然と接していたように接して下さい。そして、この世の生命ある全てのものが一度は経験する、命の灯火が消える無常に対し、慈しみの心で念じ、お供養してあげて下さい。」と申し上げる様な次第で、主治医もそのまま怖がっている病室の方々に伝えられたようでした。 
 

 その後○○病室では、霊魂が安らかにお帰りになられたのか、病室での騒ぎは無くなったと報告してくれました。このお盆の騒ぎまでは、病室のベッドの上で腰に負担がかからないようにコンピューターを枕元に置いて、身体の調子のよい時間には、佛教聖歌や年末年始の公演用の作曲や編曲の仕事を進めていました。ですから、看護婦も担当の先生も私とはプロの音楽家として接してくれていました。

 
 しかし、親しく話をするにつれ、私の仕事上の体勢(僧侶としての正座と、音楽家としてのコントラバス演奏)が、現在の再生中の腰骨に非常に悪いから、退院しても、9月中は絶対安静を守る約束をして下さいときつく通達されてきたのです。
 
 退院した日より、毎日の生活が2ヶ月間の入院生活とは一変して、点滴につながれていた不自由さから解放された喜びと、半時間も同じ姿勢で座っていたり、立っていたりすると警告を発信する腰痛との葛藤に明け暮れている自宅静養の日々ですが、確かに日増しに回復する兆しが、実感として溢れてきます。
 長い間留守をした法泉院を守ってくださった母を始め義兄や姉、妻や長男、寺族に大変有り難く感謝しています。しかし、法泉院檀信徒ご一族の皆様には、多大なご迷惑をかけてしまい、誠に恐縮至極に存じます。
 
 仲秋の頃よりは腰骨の回復状況を見ながら、一刻も早く通常の法務や、社会に貢献する活動を取り戻したく希望しています。また、9月の念仏会にはまだ骨が完全に完治されていない為、通常の出仕が出来るかどうか、当日にならなければ分かりませんが、腰の様子を窺いながら野口大念仏を迎えたく思っています。
 
 誠に長い間ご迷惑をおかけして申し訳ございません。取り合えず、此処に走り書きのご報告を兼ねまして、重ねて深くお詫び申し上げる次第です。合掌。

南無阿弥陀仏

長谷川 慶悟

もどる