ストリング最終回執筆原稿

L.シュトライヒャー教授が参加された

「15周年記念国際コントラバス・フェスティヴァル」の報告

 皆さん今日は、お元気でしょうか。今回が「長谷川悟コントラバスの楽しみ」の最終回です。長い間お付き合い頂き、本当に有り難うございました。沢山の読者の皆さんと共に、コントラバスを通して楽しく心を分かち合えたことを喜び、感謝しています。

 さて今回は、コントラバスの神様L.シュトライヒャー教授が参加された「15周年記念国際コントラバス・フェスティヴァル」の報告と、第15回コントラバス・フェスティヴァルでの講師演奏最後のプログラムで初演となった1曲、長谷川悟編曲のコントラバスカルテットの為の「日本民謡メドレー」を掲載します。楽しく編曲できました、愉快な仲間が4人集まれば是非、挑戦してみて下さい。(1Vn 2Vn Vla Cbの編成でも出来ます)

 掲載する写真からも熱気溢れる中身の濃いコントラバス・フェスティヴァルだったと推察出来るでしょうが、まさに倒れる者が出るのではないかと心配するほどハードで充実した2泊3日でした。

しかし、参加者に病人も出ず無事終了できて主宰者・講師一同ひと安心でした。実際、参加者より講師・スタッフが少々くたびれたようでした。

何しろ、現役から退いたと言っても、まだまだ世界の頂点に立っていたシュトライヒャー教授のパワーには、消化不良さえ起こすほど強烈でしたから・・・・・・。

 8/19日午後JR神戸線加古川駅から加古川線に乗り継ぎ西脇駅にコントラバスをかついだ参加者がぞろぞろと降り立つ光景に市民は驚きながらも歓迎してくれました。

そこから送迎バスで会場の八千代町立「エーデルささゆり」の欧州チャペル風コンサート会場に集合。開会式の後、すぐに多彩な講師陣による個人レッスンが始まりました。多彩な参加講師陣スタッフを順に紹介すると、L.シュトライヒャー(ウィーン音大教授、元ウィーン・フィル)、牧田斉(新日フィル)、林俊武(大フィル)、奥田一夫(センチュリー響)、幣一成(文理大)、長谷川悟(エリザベト音大)、南出信一(元テレマン室内)、新真一(大フィル)、笠原勝二(東響)、西口勝(京響)、大西裕二(京響)、須崎昌枝(通訳兼務)以上12名に、ピアノ伴奏のポール七子(ウィーン音大)、A・シュピツナーゲル(ウィーン音大)、長谷川香織、長迫加恵、高橋千恵を加え16名の音楽家が参加者の指導に当りました。

 夕食後、八千代町とコントラバス・フェスティヴァル事務局の共催で、講師演奏会が開かれました。プログラムは、以下のとおりです。

1.ヘンデル作曲「二つのヴァイオリンの為のソナタ」より1.2楽章(奥田,長谷川, Pf高橋)

2.ニノ・ロータ作曲「コントラバス協奏曲」より3.4楽章(奥田,Pf高橋)

3.アルト作曲「コントラバス四重奏曲」(笠原,林,西口,大西)

4.ブランビー作曲「コントラバス四重奏曲」(新,笠原,大西,西口)

 ここで、休憩と同時に計ったようにタイミング良くシュトライヒャー教授が会場に到着、(教授が大声を上げながら乱入)会場の参加者と聴衆は感動的に迎え、一時騒然となりました。ステージに立っていた筆者に突進してきた教授は、「約束どおり日本に来たぞ!」と言わんばかりに、再会の喜びを身体からほとばしるように伝えて下さり、しばし抱き合いました。

(筆者はあとで、本当にタイミングが良かったと胸をなで下ろしました。もし演奏中に乱入してきていたら・・・・・・と一瞬想像してしまったのです。)

 休憩後も、会場では先に起こった興奮がまだ残っているかの様に華やいでいましたが、それでも和やかな雰囲気で後半の演奏が始まりました。

5.チボー作曲、幣編曲「前奏曲、テーマとヴァリエーション」(奥田,林,幣,長谷川)

6.日本民謡、長谷川編曲「民謡のリズムでコントラバス カルテット日本民謡メドレー」(同上)

以上の2曲はKbセミナー15周年を記念しての書き下ろしの初演です。

 特に掲載する楽譜の冒頭を読んでいただくと分かると思いますが、太鼓や、念仏鐘等のお囃子(おはやし)で始まります。奥田氏のテールピースがチタン製だった事を念頭に置いて、弓のヘッドでテールピースを叩く様に編曲した為、本物の念仏鐘が鳴ってるかのように聴衆は錯覚して、大変うけていていました。とにかく、大変盛り上がって講師演奏会の幕を閉じ初日の予定が終わりました。

 8/20日朝9時からシュトライヒャー教授をはじめ、各講師の個人レッスンが開始されました。その間、至る所でレッスンを前にした参加者が練習を始め、会場周辺はセミも驚き泣き止む、壮絶なバスの音が鳴り響きました。(筆者は人里離れた会場で良かったと、またもや胸をなで下ろしたのであります。)

 午後から今回のメイン・イベントで、シュトライヒャー教授の公開レッスンです。耳をダンボのようにして参加者全員で熱心に聴講しました。長年ウィーン・フィルを支え、退団後も独奏者として世界の楽壇を興奮の渦に巻き込んだ、20世紀のコントラバスの歴史を語る神様のレッスンは、的確にそれぞれの段階にある受講者にアドバイスを伝え、その一言々の言葉の重みを参加者一同が受けとめたと確信しています。

 大地の様な人柄、練習と努力を積み重ねて世界の頂点を極めたご苦労から発する、全ての人への思いやりのある包容力、これらが、教授の誰もが超えられない本物の演奏、そして音楽そのものだと筆者は思っています。

 もし、今回若い世代の人達にそれが感じられなくとも、大人になったとき、教授のレコード(注.「 超絶技巧で音楽的にも深みのある ボッテシーニの小品曲集」や「ヴァンハルのコントラバス協奏曲」が他の全てのジャンルのレコードの中でも最高傑作のレコーディング)やCDを聞く機会があれば、必ずその意味の深さが分かる事でしょう。しかし、今回の参加者全員が教授の素晴らしさに心和み、教授からオーラの様に発するパワーを少なからずも、もらえたはずです。

そんな偉大なる教授が昼食休憩をはさんだだけで、午前9時から午後6時までレッスンを続けてして下さったのです。しかも、とても76歳とは考えられないパワーで・・。

 夕食後は80本のコントラバスが一堂に集まり大コントラバスオーケストラを編成。

1時間の全員練習を終えた所で、教授をステージに迎え、客席より全員で歓迎の気持ちを込めて演奏。世にも不思議な、すさましいサウンド(これは読者の想像を絶するでしょう)でしたが、教授は、たいそう気に入って、スペイン国王に(教授のファン倶楽部筆頭者)この光景の写真を見せて、宮殿にある一室「シュトライヒャー教授の間」に飾ってもらうとおっしゃっていました。

 その夜、恒例の真夜中のJazz ライブが開演。上山崎、枝、高岡と言った、いつものセミナー参加メンバーにジャズボーカルやゲストも加わり豪華な顔ぶれのセッションとなりました。しかし、明け方まで演奏を聴いた参加者は数名だった様です。

 8/21日最終日も、朝から個人レッスン。そして、午前11時より恒例の参加者全員の発表会。昼食をはさみ、引き続き通しても、なんと終演は午後5時。

 とにかく、最初から最後まで一人も聞き逃すことなく教授は最前列に座り、回りに座る講師や参加者に、一人演奏が終わる度に感想を話されるのには脱帽しました。

 こうして迎えた感動的な閉会式で参加者は、目に涙を浮かべて、共に過ごした参加者全員が作り上げたセミナーをねぎらい、また北海道から九州まで日本各地に再会を誓って解散して行ったのです。

 ところが、これで終わったわけではありません。8/22から24日まで、期間中参加できなかった希望者のための特別レッスンが加古川の音楽の館で開かれ、東フィルの菅原氏をはじめ星秀樹氏の弟子数名に、中先生の弟子が引き続き受講されました。

 そして、何よりも、私自身が密かに企んできた、現役を、2年前の内臓手術と同時に引退した教授を、再び演奏会に引っぱり出す壮大な無理難題計画の実現が実ったのです。このジェネシス計画は、今年の3月に私がウィーン滞在中、教授の奥様と作ったシナリオでした。

 8/23日演奏会場は、筆者の自宅に開設したサロンコンサートホール。ここで満場のお客様を迎え開演しました。プログラムの前半は、教授の現役最後の14年間、専属ピアノ伴奏者として世界各地で公演をしてきたA・シュピツナーゲルがフルートを持って登場。「モーツアルトのFl四重奏曲ニ長調」を演奏しました。彼女はウィーン音大ピアノ講師の他、チェンバロ科、フルート科も同音大を首席で卒業している天才なのです。そして後半は、お待ちかねシュトライヒャー教授が登場。コントラバスが入った室内楽の最高峰、シューベルトの「ます」を弾いて下さったのです。

 共演者はVnの稲庭達(センチュリー響コンマス)、Vla は小野真由美(大フィル首席)、Vcは秋津智承(サイトウキネンオケ)、Pfは長谷川香織(筆者の専属伴奏者)で、実になごやかな雰囲気の中、これぞ室内楽と言った演奏に聴衆は全員大満足。現役から2年離れられても、さすがにウィーン音楽今世紀最後の継承者。

 音楽は、技術や論理の遊戯でなく、本物の音楽は、真実の心のメッセージだと、確信するに至る演奏会でした。

 最終回の原稿が長文になってしまいましたが、コントラバスの和尚こと長谷川悟が、ストリング愛読者に伝えたい最後のメッセージは、以上の様なシュトライヒャー教授をはじめとする、多くの偉大な芸術家の音楽そのものや、一人の人間としての生きざまに触れて、感動を得て頂きたいの一言に尽きる訳です。己が道を求めて修行を重ね、上達した自分のコントラバスを通じて、真実の愛があふれる本物の音楽や、素晴らしい同胞に出会える喜びこそが、「コントラバスの楽しみ」なのです。合掌!

 ご愛読有り難うございました。いつか、どこかで読者の皆さんと出会えることを楽しみにしています。必ず、私を見かけたら、声をかけて下さい。「ストリング読んでました。」と・・・・。では、またお目にかかれるまでさようなら、ごきげんよう!

 追伸

七転八倒しましたが、A・ダンカンの公開レッスンが15周年記念[国際コントラバス・フェスティヴァル]後期プログラムとして今年11/6日午後より、加古川の音楽の館で開催が決定しました。参加希望者は事務局までご連絡下さい。案内状を発送します。

[国際コントラバス・フェスティヴァル in JAPAN]事務局 代表:長谷川悟

〒675兵庫県加古川市野口町野口465 Tel:0794-25-1350 FAX:22-0902

 

 追伸

 最後に、ストリングスタッフ皆様へ、本当に色々お世話になりました。私自身、こんな長期にわたる連載は初めてで、大変勉強になり、また、貴重な経験をさせて頂きました。心より感謝いたしています。

では、レッスンの友社の益々のご発展をお祈り申し上げ、コンピュータを閉じます。                 乱文御免 1996年9/13 長谷川悟 合掌 

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