「ウィーンより読者へ、最新音楽便り」

96年5月号「ストリング」原稿 

Liebe Musikfreunde!

 皆さん今日は、お元気でしょうか。今回は、遠いヨーロッパからの便りです。今、この原稿はウイーンの中心シュテファンス寺院広場から、国立歌劇場に向かってケルントナー通り沿いの路地を一本左に入った長期滞在用アパートメントホテルの一室で書いています。

 2/27日朝、関空からKLMで飛びアムステルダムに昼過ぎ到着、電車で市内に入り、夕方ホテルを決めて一泊しました。アムス川をダムでせき止めた城下町アムステルダムは、5本の運河に囲まれ、世界につながる国鉄の中央駅(東京駅のモデルとなった)を中心に扇状に規則正しく町が出来ています。

 翌朝時差ボケもなく朝食をおいしく食べてから(日本にいるときからヨーロッパ時間で生活している為)水上バスで市内観光。国立美術館でレンブラントの傑作「夜警」を見て感激。昔、美術の教科書で印象深かった絵画の一つでしたが、本物の迫力と、その精巧な写実は圧巻でした。他にも多くの絵画と美術工芸を見て回りました。

 この、オランダと言う国は、鎖国時代の日本とも貿易を続けていた当時最強の貿易立国で、とくに、日本の文化をいち早くヨーロッパに紹介してきたことが美術館の展示から伺えました。「明治頃までの日本の文化は本当に素晴らしかったのだな、現在の、そして未来の日本がどれだけ世界に向けて文化を自慢でき、またアピールできるだろうか?」などと考えながら国立博物館を後にしました。

 また、この町で活躍したゴッホも浮世絵など日本の影響を受けた芸術家の一人ですが、残念ながらゴッホ美術館に寄る時間がありませんでした。一日という限られた時間の中で、朝からアムステルダムコンチェルトヘボウを始め、宮殿、運河沿いの素敵な建造物などを見て回りましたが、まだまだ見たいところを沢山残しました。

 夜、アムステルダムを飛び立ちウイーンに到着。今回は、2/29〜3/20までたっぷり時間をとっての滞在です。今回の目的は、演奏旅行でなく、忙しい日本から逃亡して4月と5月に (約1200年前から日本に伝わった仏教のグレゴリアチャント)や、般若心経のお経にオーケストレイションして公演するための作品を、作曲するためです。しかし、去年ウイーンでリサイタルを開いたときにお世話になった人や、1977年〜80年のウイーン留学時代の同窓生から、ウィーン・フィルのメンバー、友達、知人、ウイーンに来ている旅行者、留学生など多数の人と毎日のように面会(遊んで)して、なかなか仕事の時間がとれません。どこに行っても友達の輪が広がってしまい、嬉しい悲鳴を上げています。

 昨年のウイーン・リサイタルのマネージャーに、作曲活動の話をすると、来年のジャパンフェスティバルに今回作曲している声明とオーケストラの公演を、ウイーン・ドイツ・ブタペスト・プラハ各地で公演しないかと、いきなり持ちかけられて当惑してしまいました。去年は、大相撲、今年は歌舞伎をヨーロッパに紹介しているプロモーターなので、来年は、声明をメインにしたいと言うわけです。結局、その後の対談で、前向きに話を進める方向に決めました。(またまた大変だ!)

 また別件で、5月に日本公演に来る国立ウイーン音大のガンバの教授で、ヴィーン・バロックの主宰者でもあるヴァスケス氏のお宅にお邪魔しました。部屋に畳をひいたスペースで日本茶を頂き、各地で展示会を開く程、彼一人で収集し所有したコレクションのアマティー、マジーニ、グランチーノ、ガリアーノなどのガンバの名器を見せて頂き、本当に目の保養になりました。

 さて、私が経験した最新ウイーン音楽情報を紹介しましょう。

 私にとってウイーンに来ての楽しみと言えば、オペラやコンサートを聞くことです。しかし、私の来る前前日に小澤さんの指揮でウイーン・フィルの定期が終わったばかりで、次ぎが、私が帰った数日後にブーレーズの指揮で定期があるのですが、私のスケジュールと全く合わず聞けません。「残念だけど素敵な室内楽が沢山有るぞ!」と、気を持ち直し、アルゲリッチ、クレーメル、マイスキ−のピアノトリオのチケットを取りましたが、アルゲリッチが急遽出演できなくピアニストが変わてしまいました、私は、同じ日に友達のピアノリサイタルがあったのでそちらに行って、留学生にピアノトリオのチケットを譲りました。

両方のコンサートが終わってから、私の部屋で出演者のピアニストも招いてパーティーをしました。チケットを譲った留学生が 「アルゲリッチの代わりのピアニストが、思いがけず素晴らしかった。」と言っていました。

 別の日、気を取り戻してヨー・ヨー・マのリサイタルがあったのでムジークフェラインに行きますと、またまた、ヨー・ヨー・マが来れなくて急遽、代わりのチェリストのリサイタルでした。しかし、これも思いもかけず素晴らしい演奏で満足しました。世界には、急に本番を頼まれて「ブラボー」を聴衆からもらえる音楽家がワンサカいるのだなと痛感した次第です。

 3/12の今日は、売れ切れのはずの国立歌劇場の「トラヴィアータ」のチケットが、偶然アパートの近くのプレイガイドでロイヤルボックスの隣のボックス席の3列目が、540シリング(約5500円)で手に入ったので行って来ました。久しぶりのオペラで感激して劇場から出るとウイーンの街が白銀の世界になっているではありませんか。10cm程の雪におおわれた雪化粧のケルントナー通りを、コートの襟を立てながら歩いて帰り、今、この原稿の続きを書いているところです。

 さて、これからが、読者の皆さんに一番興味深いニュースです。

 シュトライヒャー・クラスの冬休み明けの最初のレッスン3/5(月)に、顔を出しました。実は、シュトライヒャー先生には、私がウィーンに来ることを連絡していなかった為、ドアを開けるなりビックリされ、レッスンを中断して10分間色々な話で大騒ぎとなりました。その後、何人かのレッスンを聴講しましたが、75歳とは、とても信じられないパワーで、各国から受け入れた生徒を指導されていました。

 そんな先生を見ていると、もう一度、コントラバスセミナーに招きたい!日本の若いコントラバス奏者に、シュトライヒャー教授のレッスンを直接受けられるチャンスを作りたい!今年のコントラバスセミナー参加者に、今世紀最高のコントラバス奏者の素顔を目に止めてもらいたい!そう想いはじめ、2日後、再びレッスン室を訪ねてお願いしてみました。

すると、8/10頃から18日まで、台湾のコントラバス講習会に、私も知っている彼の門下生の招きで行くかも知れない。と言われるのです。「台湾まで来て日本に来ない手はない。その続きで、是非セミナーに参加して下さい。」とお願いしたところ、台湾と中国の情勢がいま怪しいし、精神的には、まだまだ元気だが、身体が長旅で心配だとかで、はっきり決まりませんでした。

 3/10の日曜日に先生のお宅に招待を受けたので、「よし、先生のスケジュールを全て管理している奥様にお願いしてみよう!」と思いつきました。「楽器をかついでいくのはもう無理でしょうけど、レッスンと室内楽(ます)ぐらいなら大丈夫でしょう。」との返事を、奥様の焼いたケーキとコ−ヒーを頂きながら先生の了解を得、結局、今年の8/19〜21日までの恒例の夏の国際コントラバスセミナーに特別客員教授として、お招きする約束が出来た訳です。

先生は、こっそり私にうちわけて下さいましたが、「いまは、自宅でR・シュトラウス、ブラームスなどのリート(歌曲)を自分だけのために弾いている。」と沢山の楽譜を見せて下さいました。また、「2000人の聴衆の前で今までのように弾く気がなくなった。」とおっしゃるのです。頑固な先生が心に決められたこと、スペインの音楽祭でスペイン国王が「先生の楽器持ちを世界中どこへでもするから演奏して下さい。」と頼まれても、お断りしたそうです。私自身、とても寂しい気持ちにもなりました。

しかし私は、「十分なレコードやCD、また、直接コンサートを聴いた世界中のファンの深い心の底に、いつまでも先生の音楽が、生きていますよ!」と申し上げたかったのですが、言葉にするのを止めました。コントラバスの神様が、愛しい生き仏になられたような気がして、先生の精神的ステージにとてもその時、一歩踏み込めなかったからです。

 去年のセミナーは、阪神大震災の影響で加古川の寺で開催出来きず、福崎のキャンプ場の研修施設を借りてしましたが、今年は、JR加古川から加古川線で西脇まで乗りそこから送迎バスで行く、「エーデル八千代」と言う八千代町営のチロル地方や南ドイツで、良く見かけるペンションや、ガストホーフ風のリゾート研修練を借り切って開催する予定です。勿論チャペル風のコンサートホールも付いています。その後、シュトライシャー教授は8/26頃まで加古川の音楽の館に滞在予定ですから、個人レッスンも可能になると思います。また、大学でのシュトライヒャークラス専属の伴奏の先生も同行されますので、伴奏付きで、レッスンを受けることが出来るでしょう。

詳しくは、次号で発表しますが、希望者は、今から時間調整を是非して下さい。

国際コントラバスセミナーin Japan

お問い合わせTEL:0794-25-1350,FAX:0794-22-0902

 では皆さん、お元気でさようなら。読者の皆さんへ、ウイーンからの便りでした。

1996”3/12 Satori HASEGAWA

 追伸、Wienの写真を数枚書簡で送ります。帰国は、2/21日ですが、その日の夜には、九州に入り自宅には3/29に帰ります。その間の連絡は、携帯電話030-35-35865にお願いします。また、3/20日までは、001-431-5131110-15 と回せば、日本から直接私の部屋につながります。

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