<<出演者プロフィール>>

 

ダンカン マクテイア (コントラバス) Duncan McTier

1982年イギリス、マン島国際コントラバスコンクールでの優勝以来、ソリストとしてその名を世界的に広めたダンカン マクティアは、その後、ヨーロッパだけでなく日本でも、ゆく年くる年 - Midnight Live Classics ミ ガラ コンサートでテレビにライヴ出演し、オーケストラと共演する他、沖縄ムーンビーチフェスティバルや、「箱根の秋」音楽祭、また九州交響楽団、広島交響楽団の定期演奏会に招かれた。 イギリス、バーミンガム近くのスターブリッチに生まれ、数学者を父親に持った彼は、その影響でブリストル大学にて数学を専攻し、学士号を取得。同時に、英国王立音楽大学にて栄誉賞付演奏ディプロマを授与される。新聞の批評に 「コントラバスのパガニーニ」 と評され、「The Strad」(弦楽器奏者のための月刊雑誌)では、彼のCD−「Tarantella」 が、「この世でこれ以上美しく、しかも精巧なる演奏がありうるだろうか。」と絶賛され、Classic CD雑誌のChoiceとして推薦された。 新しくリリースされたCD−「Capriccio」 と 「Sonata」 もすでに話題を呼んでいる。

彼がソリストとして出演した国は20カ国にのぼり、共演した指揮者はマティアス・バマート、S.コミッショーナ、ティボール・ヴァルガ、ハンリッヒ・シフ、 A.リットン等。共演したオーケストラは、アカデミー室内管弦楽団、イギリス室内管弦楽団、スコティッシュ室内管弦楽団、ロザンヌ室内管弦楽団、ロイヤル コンセルトヘボウ室内管弦楽団、 BBCフィルハーモニック オーケストラ、ロイヤルアル・スコティッシュ ナショナル オーケストラなど。共演者は 原田幸一郎、今井信子、岩崎洸、 スティーヴン イサリス、ジョルジュ パウク、 ジョシュア ベルを含む。彼のために書かれた曲は数多く、そのほとんどはコンチェルトである。 その中のひとつは1999年に初演され好評を得たロビン ホロウェイのそれである。1984年−1996年の間、マンチェスターの北王立音楽大学の教授を務め、 1996年 9月より、英国王立音楽アカデミーのコントラバス主任教授に, 2002年 9月 より チューリッヒ・ウィンタートウアー教授に任命される。公開レッスンは、年間を通じて世界各地で行ない、毎年行事としては、スイス (シオン) の ティボール・ヴァルガ・フェスティバル にての コントラバス コースがあげられる。

井上祐子 (ヴィオラ)Yuko INOUE

浜松に生まれ三島で育つ。 5才の時に、才能教育の 故奥村偵三朗氏よりヴァイオリンの手ほどきを受け、16才まで同氏に師事し、その後は 海野義雄氏、鷲見四郎氏に、ヴィオラを 藤原義章氏に師事する。1978年春に、今井信子氏の演奏する バルトーク ヴィオラ協奏曲を聴き大きな感動をうけ、その秋 藤原氏の紹介で今井信子氏にヴィオラを師事するため、英国マンチェスターの 北王立音楽大学(RNCM)に留学する。

RNCM在学中、第17回 ブダペスト国際音楽コンクール ヴィオラ部門にて第1位、特別賞を受賞、その後 イギリス Worshipful Company メダル等、多くの由緒ある賞を得る。 2年後、RNCMを 栄誉賞付ディプロマを得て卒業すると同時にアムステルダムに移り、オランダ室内管弦楽団の首席ヴィオラ奏者をつとめるが、室内楽に没頭するため3年後イギリスに戻り、3年間ハンソン弦楽四重奏団のヴィオラ奏者、 その後はロンドン ドビュッシー トリオ(フルート、ヴィオラ、ハープ)等の室内楽グループを掛け持ちながらソロ活動に励む。 その他、ロンドン フィルハルモニア、アムステルダム フィル、ロンドン シンフォニエッタ、イギリス室内管弦楽団 などを含む数々のオーケストラの首席ヴィオラ客演奏者としても招かれる。

2000年4月に出版したCD- ROMANZEは Gramophone, Classic FM, Classic CD, AMAZON にて絶賛される。 今年2006年秋にはJ. S. Bachによるヴィオラ・ダ・ガンバのためのソンタ 全3曲とヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調にあるシャコンヌを入れたCDを Quartz より発売。

日本では定期的に演奏活動を行い、NHK FM放送にも頻繁に出演しているが、1997年より日本 イギリス両国で、コントラバス奏者である ダンカン マクティア と 「ジョイント リサイタル」を始め、陰の楽器となりがちなヴィオラとコントラバスを ソロ楽器として広めることに集中。ヨーロッパにて共演したオーケストラは、ハレ交響楽団、ハンガリアン国立フィルハルモニック、ロンドンフェスティバルオーケストラ等。 共演者は、岩崎洸、今井信子、沢和樹、塩川悠子、原田幸一郎、堤剛、安田謙一郎、 ギドン・クレメル、ハインリッヒ・シフ、レオン・シュピーロ、ボリス・ペルガメンシコフ、トーマス・ツェルトマイヤー、ジョルジュ・パウク、マイケル コリンズを含む。現在 英国王立音楽院 (The Royal Academy of Music、London)教授。使用している楽器は、1852年フランス製J.B.ヴィオーム 。

蓼沼恵美子 (ピアノ)Eiko TADENUMA

堀江孝子、林美奈子、田村宏の各氏に師事。東京芸術大学卒業。「安宅賞」受賞。同大学院修了後、ロンドンに留学しマリア・クルチョ女史に師事。 1983年ミュンヘン国際コンクール/ヴァイオリン・ピアノ二重奏部門第三位入賞。

'84年東京にてソロデビューリサイタル。'96年、ヴァイオリンの澤和樹とのデュオ結成20周年を記念する連続リサイタルを国内主要都市およびロンドン・ミュンヘンで開催。その後も、'03年東京、熊本でのソロ・リサイタルの他、ジョルジュ・パウク、ペーター・ダム、アマデウス弦楽四重奏団メンバー等著名アーティストとの共演などで高い信頼を得ている。フィンランドのクフモ、イギリスの湖水地方、アメリカのボウドイン、アイルランドのウェストコーク等の音楽祭に招聘されるほか、NHK-FM、BBC(英国国営放送)等にも出演。'06年は澤和樹とのデュオ結成30周年を記念して国内各地でベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を開催。また、CD「姉妹デュオによる珠玉の連弾」(アート・ユニオン)をリリース。現在、吉祥女子高等学校芸術コース、桐朋学園芸術短期大学講師。

 

<<曲目解説>>

J. S. バッハ・・・・・・ガンバ・ソナタ 第2番

J. S. Bach(1685-1750)・・・・・Viola da Gamba Sonata No. 2 in D major,

BWV 1028  1. Adagio, 2. Allegro, 3. Andante, 4. Allegro

ヨハン・セバスチャン・バッハは30代にブランデンブルグ協奏曲、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ、無伴奏チェロ組曲などの傑作を次々と作曲しました。今夜演奏されるヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ(全3曲)第2番もこの頃の作曲と考えられ、バッハがケーテンに住んでいたこの時代(1717−23)が彼の器楽曲作曲の最高期と思われます。

バロック時代のソナタというと、ソロ・ソナタ、或いはトリオ・ソナタのように独奏楽器と通奏低音という組み合わせが普通とされていましたが、このソナタではその通奏低音に過ぎなかったチェンバロにも旋律を与え、独奏楽器と対等の声部を受け持たせています。今晩は、チェンバロの代わりにピアノを使っていますが、モダン楽器のヴィオラと色合わせが良いと思います。

ヴィオラ・ダ・ガンバ という楽器は17−18世紀に宮廷や上流社会の間で広まり、のびやかな技巧で奏でられるその煌びやかな音質が愛されました。

この3曲のソナタはこの楽器のために作曲されたので俗にガンバ・ソナタと呼ばれていますが、現在ではこれらの曲をガンバ以外の楽器−ヴィオラ、チェロ、コントラバスなどでも演奏する機会が増えています。

 

F.ヘートル・・・・・・・ソナタ

Hertl・・・・・・・Sonata

1. Allegro, 2. Andantino, 3. Alla polka, moderato

ヘートルという元チェコスロバキア生まれのこの作曲家は日本では殆ど無名です。指揮者でもあった彼が書いた曲の殆どはオーケストラの曲ですが、彼自身コントラバス奏者でしたのでこの楽器のためにもエチュードやコンサート用の曲をいくつか残しました。

このソナタはコントラバスだけではなく、ピアニストにも大変な技術を要求し彼自身がコントラバス奏者として素晴らしかっただけでなく、ピアニストとしてもかなり優れていたと想像されます。

彼が愛した故国‐チェコスロバキアの古い民謡の旋律の流れやリズムをふんだんに使い、深みのあるしかも温和であったであろう彼の気風が多分に現れている傑作です。

 

ジョージ・エネスク・・・・・・コンサートピース

Georges ENESCU (1881 - 1955)・・・・・・Concertpiece

ルーマニア、リヴェニ生まれ。20世紀前半に、クライスラー、ティボー、エネスクをもって三大ヴァイオリ ニストと称されていた程のヴィルトゥオーソ・ヴァイオリニストであったエネスクは同時に優れたピアニスト、作曲家、そして指揮者でもありました。

また教育者でもあり、ヴィオリンの弟子としてフェラス、ギトリス、グリュミ オー、メニューインなど、ピアニストとしては、ディヌ・リパッティがいます。

この様にあらゆる方面で才能を示したエネスクですから、その内のどれを取っても成功していた訳ですが、後年カール・フレッシュ は、エネスクのヴァイオリンについて「土の匂いがするようなジプシー性と洗練された芸術性が結合し実に魅力的な演奏」と述べています。そんな彼が書いたこのコンサート曲はその彼が持ったすばらしい技巧をもって演奏された様子が安易に想像できるような、技術的にも音楽的にも実りきった作品と言って良いでしょう。

 

クロード・ドビュッシー(1862-1918)・・・・・・ 小組曲

Debussy・・・・・・Petite Suite(1889)

ピアノ連弾曲として作曲されたこの「小組曲」はドビュッシーの承諾のもとでアンリ・ビュッセル(1872-1973)がオーケストラ用に編曲(1907)しましたが、その後もこの4つの小品は多くの人たちに愛されあらゆる楽器の編成のために編曲されています。今夜はヴィオラ、コントラバスとピアノのためにD.マクティアが編曲したものを演奏しますが、偶然にも蓼沼恵美子さん、明美さん姉妹が、この小組曲の入ったCD「姉妹デュオによる珠玉の連弾」(アート・ユニオン)を今年リリースされたばかりです。

従来の伝統にとらわれない自分自身の真新しい作曲法で20世紀の第一線に立ち後の多くの作曲家達に多大な影響を与えたと言われるドビュッシーですが、この「小組曲」は彼の楽風がまだ形成期にあった頃の作品で旋律や形式などに際立った「新しさ」は見られませんが、その色彩豊かな描写が「印象派」音楽をすでに匂わせている傑作となっています。

第1曲 En Bateau(小舟にて)河畔のさざ波に小舟がゆらゆらと揺られている中で心地良い風が頬を柔らかく摩るような旋律を主題とし、中間部では少し風が強くなって舟もぐらぐらと揺れ始め少し心配になりますが、また元のように優しく明るい風景に戻って締めくくられます。

第2曲 Cortege(行列)子供達が飛び跳ねながら行進するような可愛らしい情景が描かれています。

第3曲 Menuet(メヌエット)非常に古典的な雰囲気をもった優美な舞踏の曲です。

第4曲 Ballet(バレエ)生き生きとしたリズムに乗った快活な旋律が、中間部ではうっとりするようなワルツに変わり、最後は2拍子の主題と断片的に再現されたワルツで力強く締めくくられます。

 

カサド・・・・・・愛の言葉

Gaspar Cassad (1897-1966) ・・・・・・Requiebros

カサドは音楽家の家庭に育ち、作曲家の父に手ほどきを受けた後チェロの巨匠カザルスに師事しました。彼はラヴェルとデ・ファリャに大きな影響を受け、これはそのまま作風にもつながっています。国際的なチェロ奏者でもあった彼の作品は、おのずとチェロが脚光を浴びるようなものが多くなりました。これは、俗説ですが、女性に目がなかった彼は、ステージから女性を物色しても伴奏を勤めている妻が気付かぬ様にピアノ伴奏をわざわざ難しく作曲し、視線が楽譜から離れないように気を使ったとも言われています。しかし、この作品は双方の楽器とも名人的な技巧を要するため、名人の彼も客席を見回す余裕は無かったようです。

 

ボッテシーニ・・・・・・パッシオーネ・アモローサ

Giovanni Bottesini (1821-1889) ・・・・・・ Passione Amorosa for Viola, Doublebass and Piano

I. Allegro II. Andante III. Allegretto

ジョヴァンニ・ボッテシーニは19世紀に生きた最大のコントラバス奏者で、当時まさに「コントラバスのパガニーニ」と称賛されその名人的な奏法をもって今日で言えばポップスターのように有名でしかも巨匠的に一目置かれる存在でもありました。この曲は堅苦しくなく当時のイタリアオペラを思わせるように朗々と歌う箇所が幾つかありますが、楽しいだけで終わることなく彼がいかに熟練されたコントラバス奏者であったか想像できるような、奏法を鑑賞するに値する曲です。

Passione Amorosa は元々コントラバス2台とピアノのために作曲されましたが、その後いろいろな人の手によって様々な編曲がされています。今夜のヴィオラ・コントラバス・ピアノの編曲は1930年にヴァイオリン・コントラバス・ピアノのために編曲されたコピーに基づいてD.マクティアがアレンジしたものです。全部で三楽章ありますが、楽章の間は殆ど休みなく演奏されます。

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