2劇通信・幕の内タケ第8号 1997年(平成9年)10月20日
巨漢演出補・冨田明裕の
いざ、四夜原へ体当たり
今回はこの公演から演出補になった冨田明裕がインタビュアーを努めます。ここはひとつ、四夜原茂の創作の秘密に迫ってやろうと企んでおります。ふふん、この俺のツッコミからはそう簡単に逃げられないぜ。
四夜原 久しぶりやね、いつ以来?
−ええっと、「伝導犬ヨタ」以来ですから、7年ぶりですね。 どうですか?
四夜原 大丈夫でしょ。
−おっ、即答ですね。なぜです?
四夜原 美人だから。
−・・・はあ?いや、でもほら呼吸なんか?
四夜原 でも大丈夫。美人だから。
−は、はあ・・・。そ、それじゃ、もう一人の久々である上野さんについてですが。何と、十年ぶりの登場ですが、どんな役者だと見ていますか?
四夜原 ウチの役者には珍しく周りが見えていて、バランスで芝居をする役者だね。昔は追っかけまでいたんだよ。その意味でも珍しい役者だね。
−マンガチックな演技もリアルな演技もできる貴重な役者ということで。
四夜原 そう、あれで最後。新作はない。
−そのフーテンが誕生したいきさつは?
四夜原 うん、友達何人かと信州そばを食べにいったとき、芝居の題名を決めておこうという話になって。そうそう、もみじさんもいたな。
−え?今回客演のもみじさんがフーテン誕生の場にいたんですか?
四夜原 うん。で、そのうちの一人が語呂合わせで「フーテンの灯」はどうだって。それでその時約束したんだよ。
−約束?何を?
四夜原 その題名で一本芝居を書くって。
−そりゃまた、なんで。
四夜原 流れで。フーテンはホームレスにして、「灯」っていうからには明りが出てくる。それで地下だな、と。で、テーマになったのが「家族」。その頃考えてたんだけど、子供を育てるには自分の子供でなきゃいけないのかって。
−どういうことです?
四夜原 だって血のつながりといってもたいていは何の証拠もないだろ。目に見えるものがあるわけでなし。それなら他人の子供でも構わないわけじゃない。
−「生みの親より育ての親」なんて言葉もありますしね。
四夜原 それに家族っていうのは壁の中さえよければ外は野となれ山となれっていう状態なんだな。この壁をもっと広げることができないんだろうかって。現代はこの壁は狭くなりこそすれ、広がることはまずない。加えて極限状態だ。そうなると、家族の壁があいまいになるでしょ?
−それで大地震、ですか。結果として阪神大震災の先取りになりましたね。
四夜原 今から見ると何気ないところで妙にはっとさせられるよね。
四夜原 そうやね、今度は隣の駅にできた新しい社会との接触があるね。
−どんな社会なんですか?
四夜原 中学生の三人が閉じ込められててね、十年経つうちに進化を遂げてるわけ。で、元は中学生だからセーラー服を着ている。風化しかけて、しかもピチピチになった奴。
−大サービスですね。そういうサービスでいいかって気もしますけど。どうせなら、体操服とかも着せて。
四夜原 お、ええねえ。誰に着せよか。
−やっぱりその手を着せたいのは・・・。
佐々木 二人ともオヤジですね。
−え、佐々木さんはそこで何を…・。
佐々木 二人の似顔絵描いてます。
−ご、ご苦労様。え、えーと、独自の進化ってどんなのですか?
四夜原 そ、そうやね、水辺のそばで進化するから・・・、半魚人なんてどう?背びれとかついたやつ。
−そりゃ、いくらなんでもあんまり。
佐々木 私それ、やりたいです。
−ええっ。
四夜原 あ、そう。じゃあ決まり。
四夜原 始まってすぐの暗転が長いです。遅れないようにして下さい。
−は?それだけですか?
四夜原 うん。
こうしてインタビューは終わった。果たして私は創作の秘密に迫ったのだろうか?とてもそんな気にはなれないが、それより秘密なんてそもそもあるんだろうか。新米インタビュアーの悩みは尽きない。