2劇通信・幕の内タケ第4号 1996年(平成8年)6月20日
作者・四夜原 茂が語る
「流された」理由(わけ)ある人々
四夜原 これを思いついたのも例の石橋・とり竹パート3ね。 あの店は想像の苗床だな。でね、こないだ行ってまたひらめいたんだ。 「流された」の次は「やってもた」てね。これはシリーズになるね。 「あなたの身近に起こってしまうどうしようもないこと」シリーズ。 どんどん浮かんでくる。
−次回じゃなくて、今回の話だよ。
四夜原 ウン。流されたはオーバーフロー。つまりテレビや新聞など
身の回りにあるさまつで圧倒的な情報に取り囲まれて、
かえってひしひしと孤独を感じている都市生活者の状態だよ。
それはあなたであり、私のことなんだけど、
その誰かがある島に流されるわけだ。
−島。なんだ、アウトドア物か。
四夜原 いや、ちょっと違う。 「流された」には受動的なニュアンスがあるけど、 流された本人の意識の深いところに、 難民として意図的に流れさせた理由があると思うんだ。 今回のこだわりは、その辺だよ。
−で、誰が流れちゃうの?
四夜原 まず、1897年。何があったか、知ってる?
−ウーン、歴史はダメだね
四夜原 時は明治で、日本郵船という会社が日本で初めて定期外洋航路、
台湾航路を開いた年だよ。海運史のエポックメーキングね。
その最初の船に乗った郵便屋が、転落して島に流れ着く。
それと1877年、これは?
−あっ知ってる、大政奉還だ。
四夜原 違う。西南戦争。近代初の内戦ね。 この年、気の弱いひとりの兵隊が九州の天草から流れ着くわけだ。 島はどう見ても無人で、郵便屋と兵隊は二人っきりかと思ってた。 そしたら、まだいたんだよ、古株が。
−オウオウ、またでるね、ちょんまげが。
四夜原 いや、巫女(みこ)だ。 これが1787年、京都の大火で川にハマって、 島に漂着していたのよ。で、彼らの何代目かが島に生きのびている。
−その島って、どこなの?
四夜原 それが誰にもわからない。 なにしろ島の周りにいつも深い霧がかかって、水平線が見えない。 脱出しようにもできないわけよ。 もっとも、そうする理由が彼らに乏しいのだけれど。
−そこはパラダイスで、先住民族の人と仲良くやっているわけね。
四夜原 先住者は誰もいない。居るのは流された者ばかり。
大切なのは、生きる上で苦労がないってことだよ。
海流の関係でその島には、実に様々な物が流れ着いてくる。
弁当、果物、ペットボトル。
食い物に困らない、それに野外で寝てもちっともカゼひかない。
そんな島から逃げ出す必要はないわけ。
−でも、けっこう退屈だよね。
四夜原 そう、島の暮らしの本質は退屈にあるよね。 すると、暇にかまけて奇妙なことを始めるから、 彼ら固有の文化や習慣が生まれることになる。 そう、人間文化のガラパゴス島ね。 アイデアなんだけど、どうホルモンの祭りってのは?
−わかんないな。情景と匂いは浮かぶけど。
四夜原 今ね、この祭りに合うBGMを探しているところだよ。
−ガラパゴスとホルモンの祭り・・・。
ちょっと、んなことより台本。役者が揃って待ってるよ。