[2-Geki]  2劇通信・幕の内タケ第5号 1996年(平成8年)11月5日

  新求仁子の
夏の夜は まだ明けぬるを 吉野日記



▼作家の四夜原氏は釣り人である。今年の2劇恒例夏のキャンプでも、吉野と熊野に境する秘境で、朝もはよからアマゴ釣りに出かけていた。初日は「みんなの食する分くらいは」と期待を持たせて出発したものの、一匹釣ってくるのがせいぜいで、二日目からは、みんなの寝ているすきに、黙って出かけるようになった。

▼三日目。夜になり食事の時間にも帰ってこない四夜原氏を、女優たちが「また釣れへんのやなぁ」と狩りに出かけた夫を安否する妻のように心配していた。と、突然の四夜原氏のご帰還。大漁の知らせを聞く暇も与えず、新人を連れて、夜の川に泳ぎに行くといってきかない。

▼そこは、別名「風の谷間」と呼ばれる涼しい地。夜になれば、水の冷たさは格別だ。釣り用のへッドライトを頭に、泳ぎ出す四夜原氏。続いて藤田、中山、関口の三氏が飛び込む。とうとう新人も腹をくくって水に入った。悲鳴とも嬌声ともつかぬ音が、静かな谷間にこだまする。夜の川にうごめく男たちの影と、乱れる川面を照らす月の光。

▼どこからか花火が上がった。夏の夜の、なかなかに美しい光景であった。



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