ブッシュネルXLT防湿対策 テミッシュ実装

 自動撮影装置の耐水性はやたらと密閉を強化するだけでは改善しないと考えている。実際には、一
日周期で変化する、気温と関係したカメラ筐体内部と外部の圧力差による密閉破れが問題なのであろ
う。どの機種も密閉を強化する方向で、ゴムパッキン、ガスケット、強力な押さえつけバネなどおそ
らく力学的な力技で密閉を達成しようという傾向にある設計と見える。しかし、結局のところ電池交
換や、SD交換のためにどこか開閉機構を持たせないといろいろと不便。

 この傾向は、まだ市販の自動撮影カメラがない時代、フィルムカメラとタッパーで撮影システムを
作っていた時から丸で変わっていない問題だった。シール材で山盛りにしたり、テープでぐるぐる巻
きにしたりと。それでもいつかどこかで密封破れが生じて、内部に結露したりカメラが不具合を起こ
したり。そのような経験をした人も少なくはないものと思われる(年齢的には50歳以上)。
 または、乾燥剤を入れておくべきだと主張する人たちも少なくなかった。個人的にはお勧めできる
方法ではなかったと思う。いろいろな意見があったと思うが、中にはそんなことはなくて丁寧に作れ
てないだけじゃないか、とか批判されたこともあった。そう言うこともあるかも知れないが、いって
きた人も成功体験が表に出すぎて、失敗がなかったかのように記憶が脳内で再編されただけではない
かと逆に疑ったりするのだが。
 まぁ、人それぞれうまくいったりうまくいかなかったり、という歴史があったことだけは共有でき
るのではないか。いまどきの既製品の自動撮影カメラに始めから接してきた人たちには、ドンだけ無
駄な時代だったのかと思っていることでしょう。

 ということで、どうやって密閉が破れるのかを、かつて大量に製造し壊れた自作品を前に気がつい
たことを思い出してみた。不具合の仕組み、根本は自作でも既製品でも変わらないかも。
 カメラ筐体は複数のコンポーネントで構成されていて、何らかのシール機構で密閉状態を目指した
ものになっている。しかし、構造材の熱膨張やら内部気体の圧力やらによって、いずれは接合部など
にずれが生じないとも限らない。
 加えて自作、既製品問わず工作精度が悪くて密着するべきところに隙間があったり、開閉部分にゴ
ミがたまって密封できなかったり、ガスケットが経年的な劣化や過剰なストレスで損耗したり、密閉
が破られる要因は多数存在する。
 このよう微細な密閉度のムラがあったりすると、内部圧力が変化すれば、開いているところもしく
は弱いところに内外の空気の流通路ができてしまう。そこから水蒸気を含んだ空気が侵入したり、毛
細管現象で水そのものがしみこんでくるものと思われる。

 ついでだが、プラスチックケースとの蓋の接合部をビニールテープでぐるぐる巻きにしたことがあ
った。これが意外と防水には不利。粘着面が密着しているように見えるが、蓋と本体の間にかなり隙
間ができる。この隙間に雨がしみこむとかなり長い時間乾燥しない。蓋自体の密封性はほとんど信用
できないので、温度差による圧力変化があると(特に減圧環境)かなり積極的に内部にこの水を吸い
込んでしまう。

 ついでのついで、乾燥剤は危険。中途半端な密封では乾燥剤の威力で筐体内部の水蒸気分圧分の減
圧を促す。隙間があれば乾燥剤の吸収力が飽和するまで外気を吸い込む。ご存知と思うが多くの乾燥
剤は可逆性。環境温度が上がると水分を放出する。乾燥剤のつもりがいずれ水分の供給源になってし
まう。乾燥剤は素人が手作りするような不完全な密閉構造では役に立たないだけではなく確実に有害。
たぶん既製品でも同じで、乾燥剤が効く条件というのは、精度の高い工作機械で製作して、閉めたら
めったに(というわけでもないが)開かないようなケースとしての使い方をするものに限られる。

 ついでのついでのついで、ガスケットに塗布するオイル・グリース類。効果はあるが塗り過ぎない。
実際に防水効果に寄与しているのは、接触面に広がる薄い油の層。密着しているようにも見えるが油
に浮いているようなイメージとか。
 鉱物系のオイルはゴムにしこみすぎて劣化を早めることもある。シリコン系を極々薄く塗りましょ
う。塗りすぎははみ出したオイルが指についたりして、レンズ面や他のパーツを汚したりするので注
意かも。

閑話休題

 ボイル・シャルルの法則をもち出すまでもなく、体積と圧力は絶対温度に比例してるってことは、
気温の変化に追従してカメラ筐体の剛体構造野内部温度も変化する。ととすれば、その体積は温度変
化に応じて増えもすれば減りもする。それが内部圧力の変化となる。トロフィーカムの内部圧力をと
りあえず1気圧(1013hPa)にしておくと、20度だったのが日射にあぶられて35度になった場合、容積
は一定なので

1013hPa / 294K = P(hPa) / 309K
P = 1064.7hPa
圧力差は51.7hPa、5%ぐらいは増加。おそらく温度が下がれば逆に内部は減圧する。

 これがどのくらいの問題を起こしているのか正確には良くわからないが、これまで自作ケースにい
れてそのうち故障したカメラや既製品等の状態を見ると、物によっては水の浸入などの問題が起こら
なかった、とはいえないようだ。
 日中高温で筐体内部の空気が、シール不良でできる狭い流路から外に出る、夜間低温で減圧した際、
同じように高湿度の外気を内部に吸い込む、の繰り返しでいずれ内部で結露が起こる。これが基板上
の電極に付着したり、フラックスに吸収されたりするとショートの原因になって動作不良などの問題
を起こすのでは、と考えている。
 正確さには欠けるが、結露は基板上の部品材質の比熱の差も関係しそうで、より冷えやすい金属部
分(比熱が小さい)に水分が集中する可能性を考慮する必要があるかも。
 基板上の部品の小型化、集積化によってわずかな結露やゴミの侵入がショートなどの原因となって
いるのではないか。これにはまた別に基板のオーバーコートなどの防湿対策が必要になる(ブッシュ
ネルトロフィーカムの防湿処理を参照)。

 結果、筐体に掛かる圧力変化をうまく回避することで、水分の侵入要因を減らしながらカメラの寿
命を延ばせれば、予期しないカメラ故障等のエラーもへらすことができるのではないかと期待できる
かも。

 圧力変化に鈍感にするにはいくつか方法がありそうで、ひとつはあえて剛体構造の筐体をやめる。
もひとつ、防水・坊滴性のある機能性素材を応用する等。
 剛体構造の筐体をやめる、というのは外圧の変動に追従して変形し、結果内外圧が相殺される構造
を持たせるということ。材料的には丈夫な軟質塩ビの袋状のケース。物理的な外圧が掛かって破損し
ない環境に限るが。
 例としてはデカパックなど。実際に、これを利用したビデオカメラ用のケースを製作した
ことがある(写真)。旧モデルは改造しやすかったが、URL上にある新モデルは改造が難しいかも。
工夫次第だろうけど。
 しかし作ったのは良いが提供先からその後の様子がフィードバックされてきていない。問題があっ
たのかなかったのか役に立ったのか立たなかったのかわからないまま。
 風のうわさではとりあえず問題はおきてないらしいが・・・・
 このような、作り甲斐のないことも多数。

 ようやく本題。
 機能性素材の応用というのは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)系の透湿性素材のことで一般
的にはゴアテックスが知られている。
 今回使ったのは同系統のフッ素樹脂を利用した日東電工株式会社のテミッシュ(URL)。防水防滴性
能に気体と水蒸気を透過する透湿性素材を利用した圧力調整機能は、水分が浸入しては問題の多い電
子機器(携帯電話など多数の機材)ではすでに広く使われている。ほとんどは誰も気がつかないうち
に普及しているようで。
 
 このような素材が10年前は普及してなかったわけだが、当時あったら少しはましな機材が手作りで
きていたろうに、と思った次第。
 使用される機材に合わせてさまざまな形態に加工できるようで、圧力調整用PTFE製品として取り扱
っている電設資材販売系業者も多いようである。
 どのような製品なのか、ということはそれぞれのURLから確認されたら良いかと。ここでつらつら
述べるまでもなく。

製造しているのは
 日東電工株式会社 テミッシュ
 日本ゴア株式会社 ベントフィルター
など

テミッシュ販売
 千代田電資株式会社 
  村井電気株式会社
他多数

 タカチ ベントフィルター
 プラスチックケースの最大手 自社製品圧力調整ベントフィルターとして
 素材自体は日本ゴア株式会社の製品のようだ
 せんごくネット通販
 タカチの製品販売

 ただし、もともとは電設資材のため小売に対応してない所もある。テミッシュに関しては最低ロッ
トが1000枚とのことで。せんごくネットやタカチでは、日本ゴア株式会社の同等な機能のPTFE製品を
扱っているが、小売値段を見るとやはり高い。テミッシュも同等な価格になろうかと想像するが、10
00枚は必要ないわけで小売の仕組みがあったらいいなと思う。
 ホームセンターとかでビニールテープ等の棚の脇に何がなくぶら下がっているような感じがいいん
だけどね。需要はないだろうな。

 今回は日東電工様から100枚ほどサンプル出荷していただきました(ありがとうございました)。
この数量でこちらが保有するブッシュネルトロフィーカムのへの処理は十分。

 こんな感じでやってみた

 最後の2枚の写真。物理的に破壊したカメラに張っておいたテミッシュをはがして再利用。フッ素
樹脂らしくはがすときに粘着面はきれいにはがれた。フッ素樹脂は接着剤などが効かないというのが
大きな特徴なのでこれは当然。テミッシュ貼り付け部に物理的な力がかからないように注意が必要。
 ためしにコニシのウルトラ多用とSUとセメダインのスーパーXを使って張りなおしてみた。
 どちらも完全接着は無理なことはわかっていて、テミッシュ表面のでこぼこに接着剤が入り込んで
いわばアンカー効果でくっついているだけ。それでも結果は、SUは簡単に剥離したが、スーパーXの
ほうが固着性が良かった。通気面をつぶさないようにテミッシュの周囲にスーパーXを盛るとより剥
離しにくくなる。なお、無水アルコールで貼り付け側の素材表面を良く磨いておくとかなり接着力が
改善するので手間とは思ってもやってみるだけの価値はあると思う。

 結局のところ・・・

 大きな委託事業費やら何やら潤沢にお金が使える環境にあったとしても、問題があったらカメラ自
体を買い換えればいいや、ってぇのはなんかエコじゃないし、調査の途中での不具合でデータが失わ
れればそれは業務としての損失やら信用問題やらにつながるだろう。
 他の新しいカメラを使っていないのでわからないが、新製品は本当に信頼性があがっていますか?
このような業務に携わっている研究者各人、機材の安定性についてどう考えているのかまったく知ら
ないのでなんともいえないが、多少は気にしている人もいるのかどうなんだろうな、って気はする。

 今ではこんな方法で民生機械の防水対策とかされてんですよ、と言った所でなかなか信用してもら
えない。当たり前だが、この分野での使用実績がないからか。自動カメラ企業自体がそのような方法
を採用していないこととか、偉い先生方が勧めているわけでもないとか、それほど良いならデータ出
せよデータとか至極まっとうなご意見?もあるものの、不安はあるけどちょっとやってみようかって
いう冒険する気があるヤツもいないようで。

 正直言って、このような処理をしたからといって完全無欠な防水対策、延命対策になったかどうか
は保証しない。とにかくはしばらく使ってみてどのような結果になるのか、単なる気休めで終わるの
か、まだまだ先のお話でした。

(2014/04/03)

フレーム対応でないブラウザの場合こちらをクリック
メニュー画面に戻ります