マイルス・バンド時代のショーターを聴くのに、ちょっと一工夫(マイルス・カット)







 『ビッチェズ・ブリュー』の辺りから特にライブ録音でのマイルスのソロの奏法が変わってくる。つまり音楽的というよりは音そのものを叩きつけていくような奏法になり、音圧と気迫で聴衆を圧していくようになる。この時代のマイルスの演奏は力強くて迫力があるのだが、冷静に聴くとたいしたフレーズを吹いているわけではないものが多い。メロディ楽器のソロというより、ドラムやパーカッションのソロに近づいていっている気がする。
 また、ソロ・パートそのものも長くなり、えんえんと吹き続けるようになる。このへん晩年のコルトレーンの演奏に通じる感覚があるように思う。
 このマイルスの気迫によって、この時期のマイルス・バンドのライブはいやがおうにも盛り上がっていくのだが、正直いってCDでそんなに繰り返し聴きたいものでもない。個人的にはやはり音楽が聴きたいのであって、音そのものをぶつけていくだけのような演奏をそう繰り返し聴きたいわけではない。ドラム・ソロをCDでそんなに繰り返し聴きたいと思わないのと同じだ。
 しかし、この時代マイルスは最初にソロをとることが多く、ショーターのソロを聴きたいと思うと、その前にえんえんとマイルスのソロを聴きつづけなければならないことになる。
 またマイルスのトランペットがうるさくて、他の演奏が目立たなくなっているアルバムも多い。トランペットという楽器自体、もともと耳ざわりギリギリの刺激的な音を出す楽器なんで、そんなもので打楽器のようにパワー100%で吹かれると、かなりうるさく感じられる。そのマイルスの音に合わせてボリューム設定すると、他の楽器(ショーターやチック・コリア)が目立たなくなってしまうことが多い。これは録音バランスの問題もあるのだが。

 そこでワン・ポイント。次のようにしてみたらどうだろうか。
 まず、CDをMDに全曲録音する。そして各曲のショーターのソロが始まる直前の部分に、Divide機能を使って曲を区切っておく。そのようにすると、テーマ部が終わったあたりでショーターが聴きたくなったら、マイルスのソロをさっさと飛ばして聴くことができる。
 さらにはテーマ部〜マイルスのソロを消去して、いきなりショーターのソロから始まるようにすることも出来る。また、テーマ部が終わり、マイルスのソロが始まる直前の部分をDivideで区切り、マイルスのソロを消去して、Combine機能を使ってテーマ部とショーターのソロを繋げてしまうという方法もある。マイルスのソロ抜きのマイルス・バンドが出来上がる。
 こうやってから聴いてみると、聴き慣れたアルバムであってもけっこう新鮮に聴こえてくるから不思議だ。ショーターのやっていることも、チックがやっていることも、ずっとクリアに見えてきて、マイルス込みで聴いていたときには気づかなかった音楽的魅力が見えてくることが多い。それにショーターのソロを待ってイライラすることもなくなり、ヘンなストレスがかからなくなる。じっさい、ぼくの経験ではマイルスをカットして初めて好きになれたアルバムも多い。

 それではマイルス・バンドを聴いたことにはならない。と思われる人がいるかも知れないが、実はなる。というのはマイルスは60年代末あたりから、インプロヴァイザーというよりも、よりサウンド・クリエイター的に音楽を創造していく。だからこの時代はマイルスはアドリブを聴くよりは、音楽のコンセプト全体を聴くことが、マイルスを聴くことになるのだ。マイルスのインプロヴァイザーとしてのピークは50年代だ。
 それに、それではマイルスの演奏はまったく聴かないのかというと、そうでもない。
 これはやってみると気づくことだが、マイルス・カットしてある程度聴きこんだ後、マイルス入りのモトの演奏のCDを聴いてみると、おもしろいほどマイルス以外のメンバーの演奏も聴こえるようになっていることが多い。
 最初はショーターの音が埋もれている印象で、マイクがオフ気味だったのでは……と思っていた演奏でも、マイルス・カットして聴き込んで音をおぼえてしまってからモトのものを聴くと、意外なほどショーターの音が聴こえるようになっていて、オフ気味でもないのかな……などと思えてくる。
 たぶん、音に慣れることで聴き分けやすくなる効果なんではないだろうか。

 このように一手間かけると、マイルス・バンド時代のショーターをもっともっと楽しめるようになること請け合いだ。一度試してみてはいかがだろうか。



03.12.6.9



『ウェイン・ショーターの部屋』

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