<参考文献>

リハビリテーション医学における運動制御の研究

Latash ML & Nicholas JJ: Motor control research in rehabilitation medicine. Disability and Rehabilitation 18: 293 - 299, 1996

運動障害を適切に治療するためには、患者の異常パターンのもととなる病態とともに健康人の運動制御のメカニズムを深く理解する必要がある。

下腿切断の患者では、生体工学的、神経生理学的変化のために、大脳皮質の感覚野と運動野の両方で再編成が起こる可能性が示唆されている。筆者らの予備的検討でも、上肢の急速屈曲運動前の下肢筋にみられる先行的姿勢調節が正常とは異なっていることがわかっている。正常化するならば下肢遠位筋に調節機能がなければならないが、これを「正常化」できないことには誰もが賛成するであろう。

パーキンソン病患者では、フィードバックによる姿勢調節と先行姿勢調節の両方が障害されているといわれている。いずれも、あらかじめプログラムされているメカニズムと思われる。記憶としてこれらの反応が蓄えられているが、それを開始するメカニズムに障害があるような状態で、このシステムにどうやって適応すればよいだろうか?第一に中枢神経は動作をゆっくり行うことで運動の修正を加えやすくするだろう。第2に、プログラムされた修正運動を開始する閾値を下げたり、修正の幅を拡大するだろう。強すぎる修正運動は、外乱とは反対方向の反応を増強することになる。これが、強剛や振戦という運動パターンと関連している可能性もないとはいえない。このような患者に対して、治療者が「正常に」もっと早く歩くようにすべきだろうか?原因が残っている限り、このような治療は不成功に終わるであろう。

ダウン症候群の患者では、運動が遅く、環境の変化に素早く対応できないという特徴がある。筆者の仮説では、運動生成の決定に障害がある患者は、運動課題を遂行できないことよりも、ぎこちないままとにかく運動することを選択する。外乱に対して随意的に修正するとき、正常では相反性の方略を用いるが、ダウン症候群では、同時活性化の方略を用いる。これはあらかじめプログラムされている運動が障害されているために、エラーの確率を減らすために安定性を増加する同時活性化を用いることで、中枢神経系はそれを代償していると考えられる。

つまり異常パターンは、運動系の障害による一次成分に対する適応の結果ととらえることができる。

したがってリハビリテーション治療の重点は、運動障害を正常に近づけることではなく、障害に対して神経系が行う「適応」の「最適化」を促すことに置かれるべきである。以上から、将来の方向として以下のような流れが考えられる。
(1)正常の運動制御のメカニズムの理解
(2)正常と障害された運動との基本的な相違を明らかにする
(3)異常な運動パターンの原始的な代償部分を明らかにする
(4)運動異常の原因の仮説をたてる
(5)すでにある治療方法の効果を評価する
(6)新たな治療方法を開発に役立てる

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