リハビリテーション医学と運動制御 


リハビリテーション医学の主たる治療対象は、dismobility(原因にかかわらず動けないこと)です。dismobilityの原因として、脳血管障害、神経筋疾患、脊髄損傷、骨関節疾患、切断などさまざまな疾患があります。これらの疾患がもたらす運動障害を本当に理解し、治療に役立てるためには、運動の生成のしくみを理解しなければなりません。生理学がわかった上で病態生理学を理解するのと同じことです。
しかし、運動の生成のメカニズムはいまだに明らかになっていないのが現状です。そこで、運動障害の従来の治療は続けながら、正常の随意運動の研究に深くかかわり、その中で得られた最新の知見を運動障害の治療に生かすというのが、私の発想です。


もう一つの見方をしますと、リハビリテーションを効果的にやるには、まず評価をしなければなりません。なぜなら評価なくしては、適切な治療の選択も、治療効果の測定もできないからです。
評価をするためには物差しつまり尺度が必要ですが、大ざっぱにいうと以下のようになります。
尺度
名義尺度血液型、出身地
順序尺度徒手筋力検査、悪化-不変-
改善などほとんどの臨床評価
間隔尺度温度(℃)
比例尺度時間、力(N, kg)

リハビリの世界では、まずきちんと評価をしよう、ということから、様々な順序尺度が出来てきましたが、最近になってより信頼性と妥当性が確かめられた評価法が開発されるようになりました。詳しくは、臨床評価(慶応リハビリ科)のページ(工事中)をご覧下さい。
しかし統計処理等を考えても、間隔尺度以上の評価法が将来重要になってくることは明らかです。
例えば、徒手筋力検査法で5点満点の3点のまま全く「変化なかった」ため、無効と判定された治療法があったとします。ところが、その筋力を実測すると7kgから12kgに増えていたとしたら、その治療法を無効と言っていいでしょうか。また、あなたが高血圧の患者だとしたら、実測値(mmHg)で統計的に効果が証明された薬を使いますか?それとも、「やや下がる」「よく下がる」といった評価法で有効と言われた薬を使いますか?このような例はいくらでもあります。
つまり、リハビリ医が運動のメカニズムを研究する理由は、客観的かつ定量的な指標となるパラメータを見つけて評価に利用する、という究極の目的があるからなのです。

今のところ、このホームページで紹介できる情報は限られていると思いますが、世界的な動向を注目しながら最新の知見を紹介し、さらに自ら紹介できるような成果があれば、随時紹介していくつもりです。つまり、このホームページは、脳科学の最新知見を患者さんの治療に逸早く結び付けたいという願いからできたものであるとともに、私自身に対する良きプレッシャーとなるものだと思っています。

皆様のご意見、ご批判なども取り入れながら、できるだけ頻繁にupdateしたいと思います。

<参考文献>リハビリテーション医学における運動制御の研究(Mark Latash et al.)

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