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2006.12.26
 

カリンの香り
〜 枕元を置いて香りを楽しむ方法 〜

 カリンは、柑橘類の中でも? いや、柑橘類ではない。レモン色をしているけどカリンは、バラ科ボケ属の落葉樹の果実で「花梨」と書く。中国原産で江戸時代に渡来したといわれている。都会では、晩秋から冬にかけて八百屋さんやスーパーの店頭にカリンの果実が並ぶことがある。それほど需要がないのでマイナーな扱いで隅の方に置かれている。
手に持つと、どっしりとした感じ、皮はつるつるしている。果肉は硬くて酸味が強く、そのままでは食べられない。ハチミツ漬けにしたり、カリン酒を作ったりするが、昔からその芳香を楽しむという人も多かった。

香りを言葉で表現するのは難しいが、フローラル、フルーティ、優しい、滑らかな香り。葡萄や桃がすえたときに発する微香のようでいて、清楚でもある香り。うっとりするような香りだと思う。桃のようなマンゴーのような香りだという人もいる。
カリンは誰でもいい香りだと感じるのではないかと思っていたが、嫌いではないけど魅力はそれほど感じないという人もいるようだ。そうかといえば、冬になって一年ぶりにカリンを手にしたとき、その最初の香りは、うっとりするような、一種の陶酔感に近いとまでいう人もいた。
カリンは冬の香りでもある。手袋、こたつとストーブ、すぐに暗くなってしまう夕方、乾燥した空気、霜柱……そんな季節の香りともいえる。
カリンの果実を手にして、ジンチョウゲ(沈丁花)の花の香りに似ているという人がいた。ジンチョウゲは、まだ春の手前の2.、3月に密集した白い花が咲き、強い芳香を発する。よく庭先に植えられている。
記憶の中でジンチョウゲの香りをたぐり寄せるようにして思い出してみると確かに似ている。指摘されて、はじめて二つの香りの親近さに気づいた。
香りの記憶は、知識の記憶や映像の記憶、音の記憶に比べると普段、あまり使われていない。日常の香りからすると馴染みが薄いせいだろうか、ジンチョウゲという言葉を聞いて、その香りを思い出そうとしても、頭の中では、まず花の姿を映像で思い浮かべ、そこから嗅覚の記憶をたぐりよせている。

沈丁花は和名で、「命名の由来は香りのよい沈香に花の丁字に似たために、この両者を兼ね備えた名がつけられた」(『語源辞典 植物編』吉田金彦/東京堂)とある。沈香は東南アジアで採れる香木で、日本でも古くから珍重されてきた。伝統的な香道で重んじられてきたことでも知られる。丁字はインドネシア原産の香料クローブ、開花前の蕾(つぼみ)の部分で、スパイスとしても用いられている。乾燥した丁字(=蕾)の形とジンチョウゲの花の形を比べると似ていないでもないが、花はクリーム色の毛玉のような形状でジンチョウゲと似ているとはいえない。
はて?ここで疑問が生まれた。引用した語源辞典では、ジンチョウゲの花と丁字の花が似ていると言っているようだが、ジンチョウゲにはフローラルなだけでなく強い癖のあるきつい香りも混じっていて、ちょっとしてあの癖の強さを丁字の香りに例えていたという解釈はできないだろうか。沈香+丁字の香りで、沈丁花という名前になったということは考えられないだろうか。
『語源辞典』の説明は江戸時代の「和漢三才図絵」の記述に由来しているようで原文も一部引用されている。原文では、沈丁花について「曽香烈如沈香丁香相兼、故俗曰沈丁花」とある。この記述だと沈丁花=沈香の香り+丁字の香りから命名された解釈されるのだが。
沈香と丁字を焚いてみた。沈香は、最初はよく分からなかったが、その蠱惑的な面が似ているかもしれない。丁字は、香で焚くと、直接、舌で味覚として感じるのと違って甘味が出て、そのツンとしたところはジンチョウゲの癖のある香りの部分の特徴と通じているように感じた。
そんなふうに探索していくと、「カリン」・「沈丁花」・(「沈香」+「丁字」)という香りの関係が浮かび上がってきた。

カリンは、中国では漢方薬として用いられてきた他、衣類の香りづけや、部屋の飾りとして置いたり、香りを楽しんできた。中国では古来、黄色は皇帝のシンボルカラーであり、国旗の五星紅旗は5つの黄色い星。黄金の色から黄色は金運と結びつき好まれてきた。そんな理由もあって、カリンの目に鮮やかな黄色は観賞されてきたのではないか。カリンを見ていると表皮は見事にツルツルしている。現代ではプラスチックやコーティングで同じような質感、色を作るのは簡単だが昔の人にとってカリンは特異な存在に見えたのかもしれない。また、日本の平安時代、「薫衣」といって衣類に薫りをうつすたしなみがあったが、現代の生活だとタンスの引き出しにカリンを入れておくという方法もある。
カリンの香りを楽しむにはは、カゴやお皿に載せて置いておくだけで十分。2〜3ヶ月、そのままの形で香りを発し続ける。あたりに香りを漂わす「空薫」になる。車の中や洗面所などに置いてもいい。これならアロマディフューザー(芳香拡散器)も必要ない。

夜、枕元にカリンを何個か置いて寝るのもいい。仄かに香りが漂ってくる。「枕元を置いて香りを楽しむ方法」と書いたけど、せいぜい転がらないようにカゴに入れておくというぐらいのことで方法というほど大げさなことはない。こんなちょっとしたことでも香りの文化を体験できる。
カリンはそんなに高くものでもない。本当にささやかだけども、でも何かこれまで体験したことのないことをしてみたいという好奇心一杯の人、あるいは毎日の生活にちょっとした潤いをプラスしたいとき、意識や気分をちょっと変えてみたいと思ったとき、試してみませんか。

 

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