2002.8.2竜王戦準々決勝
相振り飛車
藤井猛VS松尾歩
夢幻金のリサイクル
マシュダ談話2002.8.4



「松尾四段惜しくも敗退です」
「竜王戦の層の厚みを醸すのは松尾のような存在。藤井相手に作戦勝ちできるとは恐ろしい若者」
「後手の作戦勝ちだったと?」
「松尾4手めの作戦33角に対し、藤井はすぐに68飛車と家元の貫禄をみせつけたんで向かい飛車で松尾手得計れる展開。先後が入れ替わったと素直に読むべき。後手が53銀型の為藤井は6筋で歩交換できんから飛車をまた動かして8筋で歩交換するしかない。それではまるまる一手損を自認するようなもんだからじっと自陣を固めて期を伺うしかない藤井。37手めは藤井が作戦負けを自認した58銀引き」
「随分簡単に自認しちゃいますね」
「この自認がくせ者なんじゃね。藤井は先手よりも後手に研究の重心を置く。先後が入れ替われば通常は作戦勝ちでも藤井の場合はそうでない。根本的な発想が他のエリートクズと違う」
「エリートクズとはまた過激な」
「藤井や木村のような自我の強い叩き上げに味を感じんと、将棋は衰亡の一路。特に藤井の発想は後手番救済の鏡。ただし藤井は振り飛車でしかそれをやらん。真のエリートは矢倉でも角換りでも後手番不利を解消せんとね。それをやらんのはエリートクズ」
「米長永世棋聖は佐藤新棋聖に角換りの後手番をタイトル戦で選択するなとアドヴァイスしたそうですが」
「ギャグ。頑固というオチがつく」
「ナニクズと?」
「米長は叩き上げの面白人間であって、決してエリートではないから反語ではなく葛餅。キナコ臭い。米長は全盛期にでさえ将棋を人生の小道具としてしか考えておらんよ。その精髄は本人もわからんのとちゃう? 藤井もそういうとこある。自分のやったことの価値がどの程度かわからんのよ」
「キナ臭いので松尾四段も油断したと?」
「松尾はやや優勢を意識して藤井を甘く見すぎた。松尾の敗因は無条件にふたつめの持ち歩を得ようとしたこと」
「38手めの42飛ですね」
「これで藤井は手損から生じる後手先攻の危機脱出。久保が中原相手にナメてかかった油断と同じ」
「去年の順位戦ですか」
「松尾は藤井に手がないと甘く見すぎて自陣の整備をここで怠った。藤井がわざと隙を与えておることに危機感を感じんのはキナコをナメとる証拠」
「40手めで我を通して45歩突いたのは意地というより奢り?」
「42飛車の顔を立てたかったんじゃろ」
「おかげで自陣整備が遅れ前竜王に角切りの猛攻を喰らいました」
「そして藤井の夢幻金。一枚の金で敵の飛車角を翻弄し、最後に飛車を走るという無駄のない動き。しびれる」
「松尾さんも24飛車あてで勝負を挑みましたが」
「あそこまで金に活躍されたのではそりゃなにがなんでも王手金取りやりたくなる。しかしよく紛れたね。ドキドキさせるとこに松尾の才能感じる」
「最後はあの夢幻金を再利用して必死がかかりました」
「このカードは残念。松尾の一瞬の隙が尾を引いた」