B1順位戦 2002.01.18
久保利明VS中原誠
修羅の狂気-三間飛車対地獄囲い
中原は神の手を指そうとしている!
煉獄の空中楼閣
マシュダ談 2002.01.30
以下/左数字は手数を表示
5/68銀 振り飛車党の久保が中原を挑発!
「久保!貴様なにがイーたいわけ?飛車先突いて見ろって煽ってんのか!それとも矢倉やんのか?」
「まあまあ、どうせ飛車振りますから」
「だったら損な手。67銀からの二手が確実に読まれるだけ。変化はそれで狭くなる」
「中原先生、54歩で様子見ですね」
「ばっか。なんでも来いの歩」
「7/67銀でした。これで飛車先突かないと、久保先生に78飛車から石田流に組まれます」
「おー!中原14歩!」
「逆藤井システムですね!」
「中原は恐ろしい」
「久保先生端歩は受けました」
「振りしかできんのかって中原が煽り返し。先手居飛車なら14歩は緩手」
「受けないで石田流は?」
「端歩突き越されて穴熊を強いられる。すべて指しこなせる中原だからできる手。久保も冷や汗もん」
「今度は中原先生、飛車先突きますよね」
「おー!53銀!」
「石田流やってみろと?久保先生当然のごとく78飛車です」
「12/44歩!」
「相振りですか?」
「そんな生やさしいモンじゃない。これは地獄の入口!」
「まだ12手めですけど」
「いいか、先入観を全て忘れてこの局面よーく見とけ!久保は三間に振り、初手の74歩を角道を開通するだけの手から飛車先の歩に相転化。中原は飛車先を突けば久保は石田流に組める。それでは先手のみ飛車先の歩が交換できて不利に陥るから相振り飛車を強いられる。だがこれは相振り飛車ではない」
「といいますと?」
「すでに一筋の突き合いがある時の67銀と53銀の力関係を見ろ。中原の銀は居飛車で急戦を狙うか穴熊を狙うときに生じる増4度と同じ。ところが居飛車もできなければ、穴熊も無理」
「ではなんなのですか?」
「中原の飛車は不在と考えるしかない」
「不在流ですかね。でも82に飛車ありますけど」
「中原の頭の中には飛車がない」
「異常ですか?」
「これはプロの真剣試合。中原は自分の降級がかかる大事な一戦。異常を越えた狂気の沙汰にしか見えん。地獄流」
「飛車落ちの感覚で指していると?」
「次進めてみろ」
「13/48玉-14/42銀です。確かに飛車落ちの上手の布陣です」
「久保の48玉は安易な手。なんの躊躇もなく指したのであればタイトルは一生取れん。すでに5-3筋まで張られた命がけの地獄の天蓋にまるで脅威を感じておらん。対して42銀は短三度を形成して53銀と連結し、悪魔の音程から天蓋の展開を促す」
「15/96歩です」
「ひねり飛車感覚で指した意味不明の端歩。中原の地獄流を見て指した所謂様子見。ところが中原の飛車は不在のため疑問手となる」
「確かに飛車落ちならやらない手ですね」
「16/45歩!開く地獄の釜!しかも13角覗きと連動した玉頭狙い」
「17/75歩」
「遅い。これで15/96歩は53地点を狙う覗きも一旦消滅し緩手に逆行転化。14歩と96歩の価値が余りに違いすぎる。康光もこれを見た。王将になる者への名人の洗礼!」
「18/43銀」
「ここまでは飛車落ちの感覚。ところが43銀の一手で消えていた飛車が突然82に出現したと考える。一手で二つの効果」
「消える魔神ですね」
「地獄の火炎に見え隠れする通奏低音の鬼飛車」
「以下久保陣は58金-38銀と囲い、鬼飛車は32に」
「48玉としたために久保は古典美濃へと誘因された。王将戦第二局の羽生の逃げ腰と同じ」
「なぜ逃げ腰に?」
「中原陣が居玉で鬼飛車との重心が確定しないために攻め筋を躊躇し恐怖感に見舞われる。これが53地点の増4度効果。別名悪魔の音程」
「23/39玉-24/35歩」
「突然出現した飛車の脅威から遠ざける39玉。中原玉は居玉なのに自分だけ安住の地を求めた為に4-3筋の位を許した。中原の作戦勝ち確定」
「24手めの局面ですが、これが既に中原陣作戦勝ちと?久保陣の方がはるかに固いようですが」
「進展性がない。固まった67銀に比重が掛りすぎ。しかも1筋は突き合い、玉頭は押さえられたまま囲いは終了。久保は攻めを強いられる」
「98香や棒銀の攻めは?」
「玉頭にふたつも位を張られていては遅い。進めて」
「25-29/飛車先交換して76飛車です」
「これで67銀は身動きできない自縛地獄」
「30/52金-31/77桂」
「中原陣は地獄の天蓋のもと百鬼夜行。久保陣は低く固まり77桂馬を活用する以外ない」
「32/44角です!」
「53から発する悪魔の音程が引きつけた稲妻。背後から桂馬を落とせる。これで正体を露に。53銀と67銀の価値の相違が露呈」
「でも33/65歩を突かれて飛車の横効きで36歩の交換阻止されましたけど」
「最初から交換する気ない」
「は?」
「77桂馬跳ねたから、もう先手の攻め筋はひとつ。じたばたせんでええの」
「また鬼飛車は消えたと?」
「いや。2筋の守護神となっておる。進めて」
「34/24歩-39/86飛です」
「久保は飛車落ちの下手のような指し方で飛車先の歩をまた交換しに行くしかないんじゃね。久保はA級への昇級に望みを託すこの大一番で絶対に負けない手を指しているはずと誤解しとるわけ。中原は歩切れで手が全くないはずと。しかも中原が居玉では攻めあいで絶対に勝てるはずと」
「40手めでついに中原玉は42と動きました」
「さあこの局面。どっちもちたい?」
「後手もって勝てる気がしませんけど。玉飛接近すべからずなのに寄り添っています」
「2筋は銀桂で守護神は不必要になり、この飛車はまた消えたと考える」
「また飛車落ちになったと?」
「地獄の火炎に見え隠れする鬼飛車。ここまで組み上がると、36歩と交換する必要もなかったことが証明される。見えない飛車の為に65歩を突かされ65桂馬の攻め筋も消えとる。残ったのは中原陣の分厚い天蓋!地獄の底で独居していた玉が42に動いた瞬間久保は悟る。自分が作戦負けをしたことに!」
「でも中原陣からの攻めもなさそうですが?」
「じっとしてれば5筋2筋まで天蓋を延ばされ煉獄のとろ火を味わう」
「久保陣は動くしかないと?」
「ここからが展開部。地獄の釜が底から煮えたぎるゾ!」 1-40手めup2002.01.30
41手以後 up2002.01.31
「今40手めの局面。中原陣は実に美しい陣形。一目ぼれする。額に収めて飾って置きたい。序盤の14歩、53銀が懐かしい武勇伝。どの駒も優雅な音を奏で、壮大な空中楼閣を築いとる。ここから地獄絵図が繰り広げられるとは想像もできん」
「完璧ですか?」
「94歩と突いてあれば完璧。その後手の一手に相当するのが98香車。過去のこと。今では遅い」
「41/66銀です!」
「決断の一手。一時間眺めても飽きない図が動くか」
「それが将棋ですから」
「羽生は王将戦で美しい投了図を創ってくれた」
「進めます。42/74歩」
「必然手。75への棒銀阻止」
「84歩-同歩-同飛-31飛-74飛。久保先生一歩得になりました」
「どれも必然。中原はこれで命の歩をひとつ駒台に乗せた。31飛は空中楼閣の見えない礎石。その響きは鳧鐘53銀に対する壹越の麒麟」
「48/62金左」
「二段目の金は美しい。ぐいとにじり寄る仕草がなまめかしい。駒台の歩にエールを送っとるね」
「49手め久保先生は76飛車と下がって一歩得に満足するだけではだめなんですか?」
「それはプロの将棋とは言わんの。A級にまで変なのおるけど何が面白いのかといーたい」
「49/85桂で決戦です!」
「ええぞ久保!そういかんと!」
「中原先生50/25桂馬で突撃です!」
「凄まじい!空中楼閣が見る間に吹き晒し!」
「51/26歩-52/73歩」
「必然手」
「久保先生84の方に飛車を逃げました!歩で殺されます!」
「おー!久保!ようその順に踏み込んだ!それでこそ男じゃい!」
「下に逃げてはだめと?」
「ばかたれ!66銀が泣く!中原が吹き晒し覚悟の突撃してんのに逃げる奴は玉なしじゃい!」
「53/84飛-54/37桂成-同銀-56/83歩で飛車は死にました!」
「まだだ。見てろ」
「57/55銀!」
「・・・・」
「?」
「目が見えん」
マシュダ退席。
以後は棋譜を見る以外追体験不可能の地獄絵図。
久保の飛車は64手めで取られる。
中原陣の空中楼閣は瞬く間に破壊され、裸の玉は久保手駒の金金角で脅威に晒される。
69-84久保は金二枚を投じて王手飛車。裸の中原陣営必死の防戦。
84/53銀にて修羅の狂気は終焉を迎え、さらに一段上に第二空中楼閣完成。中原陣営鉄壁の布陣。3-5段目の煉獄の天蓋は最後まで破壊されずに残っていた。
116手にて久保七段投了。
序盤から終盤にいたるまでこの5段ラインを不動の天蓋礎石とした中原永世十段会心の譜。新定跡体系の発芽をそこにみた我々は、これを中原流「地獄囲い」と命名。