将棋世界という将棋を読む 7月号検証7 078-84P
第7回「竜王戦 藤井システム2003/佐藤康光分析」
マシュダ一家 2003.06.11



078=名人戦第1局観戦で奈良入りした途端に腹痛を起こした康光。よほど悔しかったのであろう。自分が挑戦者としてここにいるべきであったと思えば胃痙攣も起きる。真部は30年以上前の棋聖戦で膣痙攣を起こしている。康光が奈良公園の病院へ行くと森も柱に頭をぶつけて病院入りしたそうである。やはりあの柱だった。
079=「自戦記を書くのは堕落」という芹沢語録を「確かに一部それは当たっている」と書く康光。本来は「自戦記」などという用語があってはいけない。「自戦記」を「自己分析」と置き換えてみればよい。胃痙攣を起こさないであろうか?自己分析する精神科医はいないのである。
「人の将棋は仲々断定しづらい。高度で素晴らしい内容を全て理解し読者に伝えるというのは相当な労力である。それをできなくなったら堕落、ということになるのであろうか」と自問自答する康光。彼が言いたいことは「私が書かずに誰が書けるのであろうか?」ということである。これがおかしい。当事者は思考の結晶である棋譜をすでに提供している。そして指し手の裏の意味など当事者にさえ分からない場合がある。「全く将棋は奥が深い」とは康光自身の言葉。奥が深いのは実戦での個別の読み筋とは全く別の所にも将棋の連鎖がある為である。

2003年4月17日竜王戦1組
戦形:擬態穴熊対藤井システム2003
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6八角 ▽6四歩
▲4八銀 ▽4五歩 ▲8八銀 ▽8五桂 ▲5七角 ▽5四歩
▲3七桂 ▽3五歩 ▲2六飛 ▽4六歩 ▲同 歩 ▽7五歩
▲同 角 ▽4六飛 ▲4七銀 ▽4三飛 ▲3五歩 ▽9六歩
▲同 歩 ▽9七歩 ▲同 香 ▽7三飛 ▲6四角 ▽8八角成
▲同 玉 ▽7六飛 ▲7七歩 ▽9七桂成 ▲同 角 ▽9六飛
▲9八歩 ▽6六歩 ▲4六飛 ▽4三歩 ▲4五桂 ▽6七歩成
▲同 金 ▽6五香 ▲5八銀 ▽6七香成 ▲同 銀 ▽9七飛成
▲同 歩 ▽同香成 ▲同 玉 ▽6四角 ▲8八玉 ▽4六角
▲5三香 ▽9六歩 ▲8五角 ▽9七銀 ▲同 桂 ▽同歩成
▲同 玉 ▽9五飛 ▲9六銀 ▽8五飛 ▲5二香成 ▽同 金
▲8五銀 ▽9三桂 ▲7六銀上 ▽8五桂 ▲同 銀 ▽9一香
▲9六歩 ▽同 香 ▲同 銀 ▽9五歩 ▲同 銀 ▽3六角
▲6五飛 ▽6四銀 ▲5三香 ▽7五金 ▲同 飛

この藤井システム最新形はまだ欠陥が多い。そこで羽生は名人戦第3局では旧型▲4三銀型を指した。左銀を動かさないで先に▽5二金左を決める「藤井システム2003」は2月のA級順位戦でも康光は経験済。

棋戦:2003.02.05A級順位戦
戦型:擬態穴熊対藤井システム2003
先手:佐藤康光棋聖王将
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲6八玉 ▽9四歩 ▲7八玉 ▽7二銀 ▲5六歩 ▽3三角
▲2五歩 ▽9五歩 ▲5八金右 ▽5二金左 ▲6六角
▽6二玉 ▲5七角 ▽7一玉 ▲6六歩 ▽6四歩 ▲6七金
▽8二玉 ▲8八玉 ▽4五歩 ▲7八銀 ▽7四歩 ▲5九銀
▽7三桂 ▲6八銀 ▽6三金 ▲8六歩 ▽8四歩 ▲7七銀右
▽5四歩 ▲2四歩 ▽同 歩 ▲3六歩 ▽2二銀 ▲3五歩
▽同 歩 ▲同 角 ▽2三銀
▲7五歩 ▽3四歩 ▲5七角
▽7五歩 ▲2五歩 ▽同 歩 ▲3七桂 ▽2四角 ▲2五飛
▽5七角成 ▲2三飛成 ▽6七馬 ▲同 銀 ▽3二角 ▲2二龍
▽5五歩 ▲4三銀
▽8七金 ▲7九玉 ▽7七金 ▲同 桂 ▽7六歩 ▲7八歩
▽5六歩 ▲3二銀成 ▽7七歩成
▲同 歩 ▽5七歩成 ▲7八銀 ▽5二飛 ▲4三角 ▽5八銀
▲2一龍 ▽5一歩 ▲5八金 ▽同 と ▲5三歩 ▽6二飛
▲7六角成 ▽5七と ▲9六歩 ▽6八金 ▲8八玉 ▽7八金
▲同 玉 ▽6七銀 ▲同 馬 ▽同 と ▲同 玉 ▽6五歩
▲9四桂 ▽同 香 ▲9五歩 ▽6六歩 ▲6八玉 ▽8一銀 ▲9四歩 ▽5六桂 ▲5九玉
▽7一玉 ▲9三歩成 ▽4八角 ▲4九玉 ▽3七角成 ▲8二銀

擬態穴熊77角-36歩は順位戦昇級となった対佐々木戦ナベラの新手だったと康光は書く。佐々木と言えば先週の「朝日オープン小便事件」で一躍有名になった。カンキが先週佐々木が音を出さずにそっと指したとテレビで暴いた。佐々木が指したことを知らずに便所からの帰還がわずかに遅れて時間負けにした竹内俊弘アマはおかげで有名人となってしまった。世の中こう言うことが多い。中身とは違うモノサシで世間は人間を評価したがる。従って現実とは仮想空間である。処世術に長けたちょうちん持ちが実力以上に世間では評価されるなどとグチってはいけない。そのようなコエダメがもともと世間と言うものなのである。
さて便所で小便垂れている間に康光は次のページへ行ってしまった。
080=藤井は29分で73桂と跳ねている。康光はここで初めて対策を考える。51分考えた。

戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▽7三桂変化1 ▲3五歩
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲3五歩 ▽同 歩
▲4六銀 ▽7五歩 ▲同 歩 ▽6五桂
康光は自信がないというがこれは先手ツブレである。

戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▽7三桂変化2 ▲4六銀
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲3五歩 ▽同 歩
▲4六銀 ▽7五歩 ▲同 歩 ▽6五桂
康光は「この展開が気になった」という。これも先手ツブレである。

戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▽7三桂変化3 ▲6六銀+▲8六歩
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6六銀 ▽6四歩
▲6八角 ▽6五歩 ▲7七銀 ▽4五歩 ▲8六歩
そこで康光は▲8六歩を先に決めたらどうかと書く。これは行けそうである。84歩などでは一手遅い為に24歩で行ける。居玉の為に飛車周りもできずに角交換は必須となる。藤井システム2003では43銀など間に合わないのであった。しかし藤井システムとは元もとが有り得そうもない形から無理攻めが成立していたという経緯がある。これは少し調べただけでは何もわからないに等しいので実戦ではとりあえず無難に▲6八角。桂跳ねから両取りを避けつつ24歩を狙うと素直に考えた結果と同じである。しかしそれで藤井システムに何度痛い目にあわされたことか。そこで上記変化にこだわりをもつと実は逆に藤井システムには対抗できない。この経験値を直視しすぎると胃痙攣を起こす。

戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▲6八角変化1 ▽4五歩1
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6八角 ▽4五歩
▲6六銀 ▽6四歩 ▲2四歩 ▽同 歩 ▲同 角 ▽同 角
▲同 飛 ▽3三角 ▲2八飛 ▽6五歩 ▲5七銀 ▽9九角成
▲8八銀 ▽9八馬 ▲2二角
上記変化を「まずまず指せる」と康光は思う。しかし次の変化の方が確実である。

081=康光変化
戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▲6八角変化2 ▽4五歩2
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6八角 ▽4五歩
▲8八銀 ▽6二玉 ▲7五歩 ▽同 歩 ▲6六銀 ▽7六歩
▲2四歩 ▽同 歩 ▲同 角 ▽同 角 ▲同 飛 ▽3三角
▲2八飛

▽4五歩1でも2でも先手が行けそうなので藤井は ▽4五歩はせずに▽6四歩となる。それがフツーの藤井システム。なぜ康光はわざわざ▽4五歩変化など披露するのであろう?それが異才たる由縁である。実は康光は秘策があった為に上記変化以外に藤井システム2003に疑問を抱いている。秘策とはご存じマシュダ一家絶賛▲4八銀泡踊り。ウレピッシモである。康光を胴上げする図となる。感想戦ではこの泡踊り一発で先手良しとの結論。即ち先手の擬態穴熊に藤井システム2003▽7三桂はない。

戦型:擬態穴熊対藤井システム2003▲6八角変化3 ▲4八銀泡踊りウレピッシモ
先手:佐藤康光棋聖
後手:藤井 猛九段
▲7六歩 ▽3四歩 ▲2六歩 ▽4四歩 ▲4八銀 ▽4二飛
▲5六歩 ▽9四歩 ▲6八玉 ▽7二銀 ▲7八玉 ▽3三角
▲5八金右 ▽9五歩 ▲2五歩 ▽5二金左 ▲5七銀 ▽3二銀
▲7七角 ▽7四歩 ▲3六歩 ▽7三桂 ▲6八角 ▽6四歩
▲4八銀 ▽4五歩 ▲8八銀
▲4八銀は出た銀が下がるという実にコミカルな決定打であった。これが前進前進また前進のプロの盲点なのである。これで森内康光阿部シーザーみーんな泡踊り一家である。あと二名いたが名前を忘れた。尚羽生の場合は千日手が最終泡踊り形と思っている。
実に27手で優劣がついたという将棋であった。しかしそれでは身も蓋もない。あとはスッタモンダの反省会となり双方の悪手を披露しあう。終盤とはどういうものであるのかその表層を逐一康光が書く。27手め以後はすでに方針さえ貫けば先手が勝てるがどこかに迷う地点が発生する。彼はそれを指し手としてひとつひとつ検証するのである。これは技術の問題であろうか?勝負手という名の悪手にどのような態度で応じるのが間違いにくいかという心の在り方が重要なのである。康光に欠損した部品はそれだけであった。この部品が欠損している為に胃痙攣を起こす。
最後になるがこの対局日当日に終局と共に即時にUPしたマシュダ一家ノートと佐藤康光の形成判断は全く同じであったことを諸君等は確認してもらいたい。そして70手めの64角の王手飛車をなぜ我々が実況ノートで疑問視したかの解答も康光が克明に書いている。この王手飛車は悪手である。

以上将棋世界7月号という将棋は84ページで投了図となる。
以下は詰み手順分のオマケ。
085-094=女流王将戦第1局中井VS石橋 竹部さゆりの名文。
尚95ページ以降は新聞紙に挿入されるチラシの類である。ネコの糞敷きに役立つかもしれない。
126-137を忘れていた。これは対局日誌と差し替えるか84ページのあとに挿入するべきである。そうでないといらない部分を切断できない。