棋王戦第5局 羽生善治VS丸山忠久
反地獄門開帳44歩再び
MashudaBBS2003.03.20
丸山、おめでとう。素晴らしい将棋であった。残り時間丸山0分。羽生16分。
丸山は決めに出た。最後の心配はポカ。
残り時間
羽生=19分
丸山=05分
観戦する方もややつらくなってきた。角筋を避ける手であるが71歩成には81歩打という痛打がある為に26歩が厳しい。角を74で見捨てて91飛成で71歩成を見せる玉砕手順もあった。
残酷な手ではない。逆である。羽生に夢見てくださいという丸山流の棋王位への敬意である。
羽生はすでに腹を据えたようである。ここに桂馬を跳ねるとあとは玉砕手順となる。
丸山の筋に全てが回転を始めている。先手は歩切れとなった為に74歩が打てないのであった。
すでに雁字搦めで手も足もでない。せめて右桂を使って玉砕しようという手ではない。玉の逃げ道開通である。もし同角と取ってくれたら34歩の楽しみを夢見ることができるかもしれない。
最後の1歩まで手離してしまった。言葉もない。
横歩取りは歩の価値が大きい。すべて1歩の価値をめぐって回る。そして歩損が解消され手番まで後手に渡った状態が消えないのではここで46歩でも傷を拡げるだけとなる。
64歩を避けて82龍でも72馬でも最後は飛車交換となり82馬に手順に65歩と突かれては絶体絶命となる。
丸山の容赦ない追いうち。次に64歩で飛車を狙いつつ連続して65歩で78金を狙う。46歩ならば玉頭の傷。先の変化で75歩の攻めが成立しない為の代替。桂馬交換なら無論66桂の王手金取りでアウト。
先の7筋の変化で73銀と飛車あたりになることを避けつつ76歩には手順に65桂と跳ねる筋。
執念とは恐ろしい。あの72歩をなんとか実現させようとした忍耐。
もし48銀とした場合94角はないが61角とした場合。72歩と受けるしかないのでは生き埋め完了となる。そこでその場合は同角成-82飛-83歩となる。
48銀とした場合94角はない。それでは後手負ける
羽生が誘っているのは丸山からの94角である。以下必然変化で最後に75歩とした時に74歩でチャンスが訪れる。
48銀以下は75歩から手をつける以外にない。そのために歩が2枚どうしても必要なのである。歩を温存するための必死の88銀であった。48銀でも丸山に手番があるということが問題なのである。
37分であった。すでに84飛の大長考で持ち時間が逆転している。羽生の手は次は48銀であるために丸山は躊躇が許されない。
残り時間
丸山=29分
羽生=77分
もしここで86飛と走れば48銀で次の75歩から桂交換となり先のトリックが可能であるが88銀以後手番は丸山に譲渡されている。84飛が角の動きを封じる双頭手の為である。そして54角がある。7筋が生命線である。
羽生に7筋の攻防しかなければ玉が狭いために直線では勝ち目はない。そこで羽生が用意したトリックは43桂打-同金に65角引きである。金-飛車取りである。しかし78歩成がそこにあれば詰めろのために後手の勝ちになる。
やはり48銀は先手の屈辱であるので羽生には指せない。ただの逃げでしかない。すでに歩損を解消され、86飛と走られてまた歩を使うのでは歩が一枚で完全に生き埋めにされる。そこで非常手段の顔面受け88銀!
胸が詰まる思いであろう。先手がやりたい75歩は丸山は喜んで同歩である。74歩は打たせる算段でありただの歩損と手損となる。喉から手が出る48銀。玉が狭くてすぐにも窒息死しそうである。
もし羽生が銀を動かすと強引に75歩で攻めあいとなる。羽生から74歩には例のごとく無視し76歩となる。森下が順位戦でやられた筋である。
なんと75歩を間に合わせようとしている。芸道というより求道である。羽生を生き埋めにする殺人事件と言ってもいいかもしれない。72歩には61金で先手は手も足もでない。
60分であった。74角成以下の変化を消す手となる。
即ち34桂には手抜き。77歩成-同金-55角に72飛成は71歩で完封。
34桂を打たせて指すことは死ぬほどの勇気であろう。しかし77歩成から55角がある。
74角成から65桂-同桂-同馬となった時、カナ駒一枚で後手玉が詰む。34桂打も常に後手の弱点となる。
即ち74角成以後はあとは詰みまで読みきれるかという攻めあいを望むと後手は瞬く間に劣勢に陥る。そこで54角で馬に当てる。43地点を補強する双頭手である。そして2筋8筋を睨む。
42金左で72角成はさらに52金左寄るのカニさんで後手の完封となる。羽生はすでに大駒二枚手離したためにあとは7筋にと金を作る以外に先手には手がない。74角成と歩損を解消し焦土と化す。
42金である。
震えるな。テレビの戦争劇より緊迫感が伝わる。棋王は目前だが盤面だけを見つめろ。
早速ヒロシマで被爆者参加の反戦集会である。実にインパクトがある。渋谷や原宿ではだめである。ヒロシマであることに全アジアの期待がかかっているのであった。
羽生は前記手順の81角を83地点に変更しただけである。
例のイラク国営放送のサダム演説がカタール経由で中継された。レポート用紙を力なく棒読みする気が抜けたコーラであった。カタール経由のため世界の為替レートまで2秒ごとにワイプ画面で入れ替わるといういかにも余裕の戦争演出である。ペルシャ湾からぶっ放されたトマホーク40本も何を狙ったかいまだにわからないノンキさであった。米ABCなどは攻撃されているはずのバクダッドからテレビ中継するという余裕である。攻撃開始中にバクダッドのホテルでは普段通りに朝食を食べていたそうである。
この38手めはすでに分かっている手であるのに丸山はなんと65分も費やした。羽生と同じ持ち時間にして戦おうという余裕である。丸山も芸達者であった。
まもなくイラク国営テレビでサダムの演説があるはずである。イラクの主権侵害をヒゲを震わせ全世界に訴えることであろう。それにしても丸山はどこにいるのであろうか?
日浦は何を言っているのであろう。73桂に対して先手から81飛成と72歩打ちの二手は間に合わないと山崎が5日前に全国民に言っている。自分で考えなさい。
「ワタシはアメリカの立場を支持しています」
これが記者会見を終了する小泉首相の最後の言葉である。「日本政府は」と言わずに最後は「ワタシは」となっているところがミソである。
すでに指す手は三日前から決まっている。やはりコイズミ演説でも聞いているのであろうか?
日米同盟と国際強調を小泉は両立できると言う。もっと明確に言えばこれは日米同盟と国際強調の混合である。これが融合と思っているのは昨日のベーカーである。戦後日米が最も仲がよくなったと日本をベタ褒めであった。融合ではない。何度も言うが混合である。
そもそも日本は中東から8割も石油を買っているのである。もう少し穏やかに話せないものであろうか。
第二次世界大戦の反省をふまえ世界から孤立してはならないというのが主旨である。まあこの歴史認識は中曾根よりかなり質感が落ちる。小泉の方が時代遅れであるがレトロがいい時代もあるということであろう。
各番組とも戦争劇をナマで演じている。民放は音楽付きとなる。
なんと将棋そっちのけでみんなコイズミ演説を聞いている。ついには羽生や丸山まで来てしまったなどというジョークがほしい。
日本政府の立場を明らかにしている。湾岸戦争話から始めイラクの12年間のツケが未納であるとボヤくところから始まるのである。石田のボヤキとどっちが諸君は好きであろうか?
丸山の巧みな誘導で時間差に開きがでた。今の82飛に47分であった。
残り時間
羽生=2時間11分
丸山=3時間07分
羽生は奨励会村山三段と同じ手を選択した。米国の事実上の宣戦布告となりイラク攻撃も始まった。こちらは衛星中継中である。
一同控え室で。
羽生=鍋焼きうどん
丸山=ヒレカツ定食
菊地三段である。歩を4枚もだして許されると思っているのであろうか。実は我々は角換り腰掛け銀を見たかったのである。棋王戦で2局みられるはずが、羽生の第2局めの振り飛車ファンサービスのおかげで1局分損しているからである。ハッキリこの振り駒結果が一番不愉快である。
無論下記引用の棋譜は先週早速BSのジャーナルで山崎が紹介した西尾三段の昇段譜である。この1局でプロ棋士になった彼にとって生涯の記念碑であろう。西尾三段は棋王戦第4局の記録係りであった。丸山の霊気を全身に受けてあの最終戦に臨んだのである。
▲8二飛 ▽7三桂
▲8一角 ▽9四角 ▲9六歩 ▽8九飛 ▲9五歩 ▽6一角
▲9七香 ▽9九飛成 ▲7五歩 ▽3一玉 ▲3六歩 ▽3七歩
▲同 桂 ▽9七龍 ▲7四歩 ▽7六歩 ▲7三歩成 ▽同 銀
▲3二飛成 ▽同 玉 ▲投了 58手で後手の勝ち
どうやらマリオちゃんも気がついてくれたようである。しかしNHK杯戦になぜ触れないのか、NHK側は憤慨していることであろう。或いは三浦の勝ち将棋を誰も紹介したくないのであろうか。
どうやら米ちゃんも1分遅れで気がついてくれたらしい。そう。大山の霊魂が当家には宿っているので先手に65桂などと言う手はないのである。米ちゃんは仲介者として超一流であった。羽生が石田以上に頑固か、大山のマネはしたくはないと思うかは別問題である。
すでに丸山ペースとなった。米長なら丸ペーと卑猥な言葉を使うことであろう。羽生はこの先手の沽券に30分を費やすことになる。奨励会コースで王者の恥を晒すか、石田流石頭で激突するか、そんなことを考えているわけではない。一昨日の深浦研究に惨敗を喫した直後に相手の研究につきあうのはこりごりであるというのが羽生の心境である。
石田も頑固である。65桂をやりたいそうである。しかし丸山は羽生式加速定跡で25飛などとは付き合わないのである。実に簡単な局面である。歩の損得が消滅し先手が手番を握ったということを素直に見ないと先手番である意味がない。桂馬など直ぐに跳ねる必要は先手にはないのである。
米長実況はあいかわらず酒が入っているようである。31手め74歩が羽生の秘策などと豪語している。一体いつの話をしているのであろう。とっくに本家に内訳がUP済みの1か月半以上遅れの内容である。
控え室の石田和雄舌好調のようである。ここで羽生が65桂跳ね以下先手勝ちなどと笑っているが、我々の研究では65桂では先手が負けるのである。
この一手に10分も考えたようである。丸山は羽生のようにここで昼食休憩とはしなかった。自信がある証拠である。さすがに羽生は奨励会と同じ将棋を指しては笑われるだけであろう。全棋士が注目している。
さてここで控え室を覗いてみるとなんとNHK杯戦も奨励会最終戦のことも無視し、この前例が一昨日の北島中座戦と同じだとわめいている。NHK杯戦は彼らに無視されているということである。中座の顔を立てたということであろうが、ここで中座が28歩と指した手は敗因である為に相当な皮肉であろう。
先週の奨励会村山西尾戦で昇段を決めた西尾と同じように74歩と手を戻すはずである。元もと丸山が対三浦戦でそれを指摘したのであった。
羽生は三浦も4日前に放映披露した86飛になんと22分も費やした。羽生にも戦慄の時間であった。この22分という最も羽生にとって充実するべき時間が、これほど重荷を背負わされた一手は最近ない。
丸山はノータイムで同飛と取る。羽生はあとは行くだけだが丸山には74歩と手を戻すかいきなり飛車打かという選択肢がある。
歩が4枚であった。と金が一枚ということである。羽生を先手にする為の振り駒であろう。
丸山先手の角換り腰掛け銀では羽生に勝ち目はない。主宰者にとって妥当な振り駒となる。
もういい加減このような疑いをもたれる振り駒という醜い風習は止めたらいかがかと思う。
思えば阿部が竜王戦第1局(実質3局め)に持ち込んだ地獄門定跡は今年になってからも試みようとした猛者がいた。だがどれもねじれてしまうのであった。丸山が棋王戦で披露した44歩。わずか2カ月以内にこれほど影響力を与えた手はなかった。丸山渾身の一手のはずが、その再現に16分も要したのである。
死刑囚の待ち時間であったならば大長考の範疇であろう。16分とは丸山自身にスピリットを注入する時間である。
ついに反地獄門開帳。実に16分の長考であった。
決断の時が来た。丸山は果たして44歩を次に指すであろうか。
指し手は主題が明解な為速い。羽生は早々に角を交換した為26手めの同桂に丸山は11分費やした。横歩取り85飛型の命運がかかった緊迫の11分であった。
立ち会いは石田和雄。羽生が第3局でみせた56飛はやはり邪道と感じてくれている。
今週放映のNHK杯戦準決勝で丸山はこの手順で三浦に負けた。丸山は研究合戦を知らなかったのである。自分が負けた44歩を再び行なうかすべては丸山の双肩にかかっている。羽生はすでに腹が決まっている。
棋王戦第1局で丸山が提示した44歩が棋王戦のテーマである。2月-3月にかけてこの44歩が可能かどうかをめぐる壮絶な研究合戦が奨励会まで巻き込んでプロ間で行なわれた。
振り駒で羽生先手となる。横歩取り決戦となった。現在25手め33角成。即ち86飛とぶつける羽生ヴァージョンを丸山がどう退治するかという興味になる。
我々の記憶違いでなければ深浦は入院したことがある。それは深浦にとって不幸の一部であろう。そこで看護婦に出会い、彼の妻となる。不幸だった入院が彼の最良の伴侶と出会うきっかけとなった。人生という狭いレベルではこのような予測外の結果の連続である。これを情のみで解釈すると力とは呼べない。このような予期せぬ結果は連続性において相転換と呼ぶ。
相転換を理解するためには美的力を相停滞から把握しないと極めて通俗的となる。葛藤のない打算の恋愛が典型であろう。美的力という用語そのものは抽象的ではない。むしろ大衆的である。誰でも美人の女房をもちたがる。そのような力は美的力の一部である。羽生が女房を選んだ基準はそれしかない。羽生の昨日の将棋にはその美的力が自己正当化に利用されたというだけの話をしたのである。