2002.2.16棋王戦第二局
羽生善治VS佐藤康光
孤高の挑戦
マシュダ&ファミリー 談話2002.2.16 UP2002.2.17 6:00
「対局は金沢ニューグランドホテルです」
「金沢か」
「思い出あります?」
「前田利家が加賀、能登で刀狩りを行ったのは天正16年」
「それって古すぎません?」
「今はオヤジ狩りの時代」
「金沢は大丈夫そうですよ」
「そのホテル、宴会結婚式専門?」
「佐藤先生、新郎新婦見たかも知れませんね」
「前局の王将戦第三局では羽生やけに疲労顔じゃったね。康光みたいに王将風呂はいりゃえーのに」
「初手は歩の頭1回ちょんでした。寝癖毛も立って顔色も良くなかったようですが」
「かげりがある。痩せたか」
「北國新聞の紹介では、羽生棋王身長172センチで体重は60キロです」
「郷田から5キロとって羽生にあげたい。康光は?」
「記載がありません」
「秘密か」
「今日は花園戦法で?」
「なんせ棋王戦は5局までしかない。今日康光勝ったらもうおしまいじゃがな。負けてもらわんと楽しみが減る。いかに恰好良く切られるか」
「王将戦第3局もそうだったと?」
「三連勝したら奪取確実でもったいない」
「今日谷川先生もBSの囲碁将ジャーナルで負けて元もとと言っていました」
「そりゃ北島につっこまれたからじゃろ。八百長したわけじゃない」
「さすがに17世名人のすばらしい解説でしたが」
「そうね。定跡中心で肝心なとこはボカすね。ヒフミンの方が断然上手」
「でも75歩指すまでは後手の先日手狙いとはっきり仰っていましたが」
「それは谷川解説中唯一の間違い。ただ先手の打開が難しかったとゆーだけ」
「同じことでは?」
「康光が本気で先日手を狙うなら角換りを選択した。谷川はそこ突かれるの嫌がったんじゃろ。康光はよう中飛車やりおった。ワシ康光の中飛車初めて見させてもらったがな」
「42手めのとこで55銀以下の変化ですが、プルシェンコのショートプログラムの失敗を見たのでしょうか?」
「53の響き埋めたおかげであの三角銀やってしもーた。ありゃやりすぎ」
「さて棋王戦の方ですが、第4局め以後は将棋会館で行なわれます」
「棋王戦は予算ないからね。日本全体そうじゃけど」
「北國新聞は見事な中継でしたが」
「地方の底力。しかも金沢は高度な趣味人が多い。へントやナンシーのようなひと癖ある都市と姉妹提携しているのも金沢の魅力の証し。いい人材に恵まれておるんじゃろーね」
「では棋譜を見て行きます」
「おお!矢倉!金沢決戦にふさわしー」
「5/77銀ですが」
「最近の主流」
「後手の右四間を避けたと?」
「そうじゃなくて矢倉の正調をもう一度指そうという強い意思の現れ」
「7/56歩」
「これが第1変化。26歩と羽生はさすがに突かんね。ただし後手に変化を与える」
「10/52金右」
「早くも康光の工夫。42銀としても53地点への響きの重複は同じという発想」
「11/78金」
「羽生は最強の受け。絶対に負けられないという一手。58金では変化を与える」
「12/44歩」
「これが52金のマイナス効果。すぐに43へ行く運命。角道を止めたことで変化は著しく削がれ、53地点の響きは金銀で重複。対して羽生の57地点は48銀のみで響きの重複がなく澄んでいる」
「13/69玉」
「澄んだ響きを維持」
「14/43金」
「44歩と突いたからには当然」
「15/58金」
「飛車先不突きの思想」
「どういうことですか?」
「相手の出方をじっと凝視すること」
「16/32銀!」
「これで矢倉24手組の根本思想はことごとく消滅」
「後手に勝算はあるのでしょうか?」
「勝算がなけりゃやらんよ。勝負所が前にずれ込むだけ」
「スケートのショートプログラムですかね」
「局地戦で決まる。集中力がものを言う棋王戦らしー。康光千両役者」
「20/64角です!」
「いきなりカマスねー。主導権を握ろうとする意欲」
「意欲だけと?」
「矢倉では後手がそう簡単に主導権は握れんの。回転寿司と違う」
「21/37桂馬」
「羽生はノータイムでも指せるじゃろーね。一週間前にヒフミン相手に最新バージョンインプット済み」
「22/42玉」
「これは一時的に物凄い悪手」
「23/66歩」
「これで後手の主導権はいとも簡単に先手に譲渡された」
「24/31玉」
「矢倉対疑似左美濃24手組」
「形を印象で比較すると?」
「金沢の姉妹都市ヘントに行くと、有名なアイク兄弟の祭壇画がある。この先手後手はアイクとメムリンクほどの違い。先手は完成されて何も付加できんが、後手はスタイルに遊び部分を含有。似て異なもの。それが最大限の賛辞じゃね。酷評すれば、アイクの祭壇画中のアダムの複製と本物ほどの違いを感じる」
「先手が良いと?」
「そこまで言わん。ただこの局面を見て先手により価値があると思う棋士は多数派。ワシは康光のチャレンジ精神にむしろ感動する。正調矢倉相手では千人の敵を相手に戦うようなもの。康光独りでどこまで開拓できるのか。羽生のミスは期待できんが最高の舞台設定。後手じゃないと実験はできんからね」
「ヤグーニンに対するプルシェンコじゃだめですか?」
「なんでもえーよ」
「最大の相違は?」
「なによりも質感」
「25/67金」「先手の質感は変わらない」
「26/74歩」 「メムリンクの窓が開く」
「27/68角」 「先手の質感は変わらない」
「28/85歩」 「これで桂馬は跳べない天使」
「29/16歩」 「先手の質感は変わらない」
「30/53銀」 「トリトヌスの響きはツブレ」
「31/79玉」 「先手の質感は変わらない」
「32/55歩」 「敗着」
羽生棋王、ここで一歩得たことにより一筋攻めが成立。
佐藤九段が期待した54銀からの中央突破は53トリトヌスの斥力で生じた悪手の共食い。すでにそれ以外の手が成立しなかった。
60/22歩まで必然。これで後手に手は皆無。
63/96歩-64/94歩の交換という前代未聞の挨拶。
65/17香で一歩取り、銀を殺して収束へ向かう。どれも紛れのない一手勝ち変化。
88手め56飛成でも手が続かない。75桂打の一撃必殺の筋も駒が足りず不可。
99手にて羽生棋王勝ち UP2002.2.17 6:00