シーン9
PARADISE

ジョン高松。彼は孤児だった。
町の暗い暗いスラムにころっがっていた猫の死体が彼の始めて見た光景。
人生は酷いものだ、彼は当り前のようにそう考えていた。
大きくなり盗賊団に入った、生活は少しは楽になったが生死が隣り合せにあることに違いはない。そのころ同じ孤児の弟分ができた、オレンジ、彼も高松と同じ様な人生を送っていた。一つ違ったのはオレンジには名前さえなかった。オレンジという名は仲間がつけた、適当にね、あと赤とか白とか青緑イエロー、いろんな奴がいたがみんな死んだ。
高松はそんな人生を歩んで来たのだが、ずっと不思議に思っていた。何故俺は死なないのだ。かなりの無茶はやってきた、しかし今日ここまで生きてきた。神なんぞ信じちゃいないが何者かが俺の人生を操っているそんな気がする。そんなことはくだらない妄想だ、しかし、どうもおかしいんだ。何がどうおかしいのかはわからない、説明はできない。だから俺はこの目で世界を確認してきた。この地上の様々な国を旅してきたんだ、そしてその疑惑は確信に近いものになった。
宇宙コロニー、「最後の時」に選ばれた人間が送りこまれたところ。そう話にはよく聞く。しかし俺はそこに行ったことのある奴に一人もあったことがない、定期輸送船は毎月出てるし、この目でその宇宙船が打ち上げられるのを見たこともある。しかし、実際そこに行ったことのある奴に一人もあったことがない。確認しなければ気がすまないんだ。もしかしたら俺の勘違いかもしれん。しかし俺の中の何かが訴えてる、やはり自分の目で確認しなければ。
それで俺はここにいる、宇宙船のあるカグヤの国。
嘘か本当かなんだかわからんが俺も一度は真実と言うヤツを見てみたいんだよ。

高松は宇宙船に向かって足を進めていく。
危うく見つかりそうになったが何とか大丈夫だったようだ。
もちろんそれは人鳴カグヤが見ていたからだ、ジョン高松は今はただのチェスの駒だった。
それは高松にもなんとなく分かっていたことだ。
「誰だか知らねぇがオマエさんの手の平から逃げてみせるぜ。」
高松はそう強く強く思った。

シーン10に続く