シーン10
FICTION

再び103階の社長室。
ガラス張りの壁、遠くには砂漠の風景、そこをモニターに変えて映像が映し出される。
森絵カグヤの父、人鳴カグヤの映像が動き話す。
「いったい何の用だね。森絵、」
人鳴は静かに言った。
森絵が言う。
「わかってるんでしょ?お父さん。どうもおかしいと思っていたのよ、あまりにもうまくいきすぎてたわ。」
「ふふふ、なんのことだい。」
人鳴は笑いをこらえ切れない様子だ。
「あんた、いったい何者だ。」
マリオが話に割り込む。
「ん、君は?誰かね。」
「わかってんだろ、そっちでは。」
マリオは苛立たしげに言葉を吐き捨てた。
「ははは、すまんね。マリオくんだったね、たしか。君の言う通りだよ、退屈だったんでね、少し君達を観察してたんだよ。しかし私を知らないのかね?「カグヤ」の統治者だよ。結構有名だと思うんだが。」
人鳴は腕を組んで、考えてるポーズをとった。
マリオは窓の上にある小さな穴、そこにカメラがあるであろう場所を睨んで言った。
「違う!カグヤの統治者の顔は俺も知ってる。俺が聞きたいのはその統治者のコンピューターグラフィックを使って喋ってる、本当のアンタことだ。」
その場の空気が一瞬止まった。
「ちょ、ちょっと何言っんのよ。あれがCGなわけないでしょ、私は実際に一緒に生活していたんだし、そんなことする必要もないんじゃないの?それとも何、今、喋っている父さんは父さんじゃないの?」
「たぶん半分当たりだ。でも森絵の父さんの役もコイツがやってたんだろうよ。」
「え?何?全然わかんないよ、マリオ、よくわかるように説明してよ。」
森絵は少し混乱している、当り前だ。俺もこの事実だけは信じられなかった。でもここに来て、人鳴カグヤに合ったことでそれは確信に変わった。
「‥‥・・ふう、すごいな。アイツの言った通りだ。マリオくん、君はおもしろいよ。」
人鳴は目を大きく開けて、心の底から驚きの表情をあらわにした。もちろんそれはCGなのではあるが。続けて人鳴はマリオに聞く。
「で、君はどこまで真実を見たのだね?」
マリオは答えなかった。無言のまま前髪をかき上げ額を見せる。
隠れていた額には傷跡があった。横に一線。よく見るとその傷跡は耳の横まで伸びており頭を一周メスで切り取った様な痕だった。
「ほう、見たんだね自分自身を。」
人鳴は興奮していた。
「そうだ。見たよ。自分の脳を。」
マリオはせきを切って話し出した。

「コンピューターネットには様々な情報が流れてるし大抵の情報はそこで掴める、しかし、その中で巧妙に隠されている記録、それは病院の記録だ。そこに気付いた好奇心旺盛な俺は各病院のコンピューターにハッキングを掛けた。情報は驚くほど厳重にガードされていた。そのとき俺はネットの中では有名なハッカーだったんでね、意地になってそのプロテクトを解くことに燃えたよ。一週間くらいかな、ほとんど寝ないでね、そして遂にプロテクトを解除し、病院内の情報を見ることができた。」
マリオは小さなため息をついた。
「俺はてっきり病人のカルテや薬剤の購入の記録が出て来るんだと思っていた、しかし違った。出て来るのはまるでどこかの電器店の中の情報だった。機械部品の注文表、在庫記録、修理状況、そしてAI、人口知能の仕様書、そのAIの「個人」記録だ。」
「AIの個人記録?何それAIってあれでしょ、お手伝いロボットのことでしょ?アレは個人じゃないんじゃないの?」
森絵は首をひねる。
マリオは話を続ける。

「そこで俺は自分のデータを見つけた、数年に何回か病院にいくことあるからな。あんのじょう見つかったよ、AIの個人記録に、俺のデータが。」
「それってまさか。」
森絵が口を手で覆うようにして驚きの表情をする。

「そう、俺は人間じゃない、人口知能を持つ、ロボットだったってわけだ。」

マリオは笑った、乾いた笑いで。笑い声がこだまする。きちんと整理されたこの部屋で。

シーン11に続く