シーン1
ACROBAT WAY

宇宙旅行が手軽にできるほどじゃないけど、少しお金を出せばそれが不可能ではなくなった。
そんな時代の話。

暑い。
砂漠のを突っ切る一本道、一台の車が走る。
乾いた砂、乾いた風。車には二人の男が乗っていた。カーラジオがひびわれた声で歌っている。
懐かしい曲だ。一昔前、若者達の間で一大ムーブメントが沸き起こった。それ自体はよくある時代の1ページに過ぎないのだが、この歌を歌う彼は違った。刺激的な音楽、変幻自在の歌声、時には少女のように、あるときは地獄からやってきた悪魔のような声で歌う。そしてその異様なほどのカリスマ性。
しかしそれも昔の話だ。彼はもういない。殺されたのだ。盲信的な彼のファンの手によって。
音楽だけが今もこうしてこの何もない砂漠の中で空気をふるわして歌ってる。

「なあ、ラジオ消していいか?」
助手席に座って景色をぼんやりと見ていた。男は言った。
「なんで?マリオ、うるさいか。」
ハンドルに軽く手をそえてアクセルを踏む。この姿勢を2時間ばかり続けている銀色の長髪の男は助手席の男、マリオの方を見て言った。
「おいおい前見て運転しろよジンノ・・っても事故らないよなこんな真直ぐな道で。」
「そう、そう、こんな道、ネコでも運転できるわな。んで、なんでラジオ消すのこの曲嫌いなの?」
ジンノはハンドルに乗せた指で音楽に合わせリズムをとっていた。
「いい曲じゃないのコレ?」
「あぁ、ジンノ。俺もね、この曲大好きなんだけどね。いい思い出ないのよ、この曲に。」
「ん〜なんだぁ失恋かぁ〜?」
ジンノはニヤリと笑って言った。
「ちげーよ。いろいろあんだよ俺にもよー。」
マリオはムキになって言った。少し声が裏返ってる。半分当たりらしい。
「なによ〜聞かせろよ。おもしろそうだし。」
ジンノはすごく楽しいそうだ、コイツはこういうことを聞くときすごくイキイキしてる。俺が困ってんのを楽しんでやがるんだぜ、まったく。
「やだよ。それより消すゼ、ラジオ・・・・ん?どうしたんだよジンノ。」
ジンノはバックミラーを見たまま固まっていた。
「ウイッ。マリオ君。ちょっと遅かったみたいだね。」
「なんだよジンノ?なんか後ろにいるのか?」
俺は首を後ろに回した。後方に砂煙が見える。
「あっ・・・・。」
やばいよこれ
「そう、正解!マリオ君。後ろに見えますのは砂漠の盗賊さん達デース。」
「何、のんきなこと言ってんだよ。このままじゃ追い付かれるぞ。スピード上げろよ。」
「う〜ん、あのねぇ」
「なんだよ、速く早く。」
「どーも調子悪いみたいだわこの車。」
「なっ・・・おいおいおいどーにかしろよってホンとに」
パスッ!
軽い音がすぐ後ろで鳴った。後ろを見ると車の後ろのガラスに蜘蛛の巣みたいにヒビが入っていた。 もう一つ音が続く。
後ろがよく見えるゼ、ジンノ君。窓ガラスはなくなっていました。
さらにもう一つ追加。
どうやらタイヤに命中したらしい。ガタンと車は傾いて、ついでに道を外れて岩に当たって横転した。
逆さまになった世界を見ながら俺はジンノに言いました。
「な、言ったとおりだろ。」
「なにがさ。」
「この曲聞くといいこと起こらないだよ。」
「ああ、そうみたいだな。」
車は全壊。だけどもなぜかカーラジオだけはとてもとても奇麗な音楽を奏でていました。

シーン 2へ続く