ディエロン

STRAT to End

昔あるところに正直者の娘と嘘つきな男がいたんだ。
正直者の娘は言った。
「あなたのことは大嫌い。」
嘘つきの男は言った。
「あなたのことが大好きです。」
そんな言葉を繰り返す二人は何故か結婚してしまった。
娘は言う。
「よくわからない。」
男は言う。
「全てわかってる、これでいいんだ。」
そんな二人に子供が生まれた。
子供は言う。
「すべてがよくわからないけど、本当は全部理解している。」
「とっても死にたい気持ちだけど、死ぬまで生きてやる。」
「誰も恨んじゃいないけど、世界が滅んじゃえばいいのに。」
「とっても楽しい。嘘だよ。とっても悲しいんだ。嘘さ。」

どこか遠くからそんなよくわからない話を語りかける声が聞こえる。
嘘つきの男と正直者の女の間に生まれた子供の話。その話は物語なのだけど詩の様でもあり、ただイメージを並べたデタラメの言葉のようでもあった。私は半分夢うつつな状態のままその言葉の流れを聞いていた。とても穏やかな黒い海、先には大きな渦が巻いていて巻きこまれるのは目に見えている。絶望的な物語。

カタン。

私はハッと目を開ける。キルラの顔がぼんやりと見えた。彼は部屋の孤空を見つめ言った。
「最後のトラブルがやって来た。・・・最後の試練?・・ははっ!」
私はぼんやりと彼の顔を見ていた、とても落ち着いた狂人の目だった。そして彼は立ち上がるとスウッとその姿を消したのだった。

何かとんでもないことが始まろうとしている。止めなければ、小泉愛子はそう思った。
そう、そして私がここに来た意味がわかりかけていた。昔から疑問に思っていたことが明らかになりつつある。私が精神カウンセリングなどという少し変った職業についたのもこのためのことなのだ。

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「はぁーーー疲れたー!!」
伸哉の声が城の中をこだまする。
「もういいかげん面倒くさいよ、そろそろラスボスの登場ってのが相場じゃないの?」
「文句ばっか言ってないで、どこかプログラムの歪みでもないかさがしなさいよ。」
「そう、そうすればそこから逆探知が可能なんだよ。」
サキ、李先生が息も切らさず答える。
「でもなぁーわかんないよ実際、そんな簡単にはー・・・・・あっ!!」

「どうしたの!?何か見つけた。」
「あ、あれ・・。」
伸哉の指差す方向には壁に埋め込まれた大きな鏡があった。その中には三人の姿が映っている、それだけのはず、だが、そこにはもう一人見知らぬ男の姿が映っていた。透明な緑色の長い髪に白く美しい顔だちのその男は鏡の中でニヤリと笑った。
「何っ!!」
三人が後ろを振り替えるがそこには誰もいない。彼は鏡の中にだけ存在しているのだ。
「ん〜僕のこと呼んだかい?」
彼は細く、しかしよく通る声でそう言うと鏡の、その前面に向かって歩き出した。そして鏡の境界線からその姿をこちらの世界へと飛び出してきたのだ。プログラムされた世界だとは理解しながらも伸哉は冷や汗を止めることはできなかった。こいつがこの世界の「王」なのだ、と実感できる存在感だった。

「ん〜君達ねぇ?ちょっとじゃまだから消えてくれないかな?」
「ふん、アンタの方が消えればコトは簡単なのよ!」
と、サキが呪文を唱え手を振るった。炎の塊が彼を襲う。
しかし、彼はフッと息を吐くとそっと目を閉じた。そしてその目を再び見開いた。強い眼力が感じられた、炎はまるでおびえた小犬の様に彼の回りを避けくるくると渦巻き、そして消えていった。
「さぁ、どうした。こんなもんかね?僕を滅ぼすんじゃないのかい、ねぇ李先生?」
男はスッと僕らの前に立つとそう言った。

「なっ?何だ李先生コイツと知り合いなのか?」
李先生は少しの沈黙の後、口を開いた。
「ああ、まあ知り合いとは言えなくもないな。・・・で、あーとここではキルラと言ったか、なぁキルラ、結局君はどうすることに決めたのかな?」

「はっ、そんなことを聞きにわざわざここまでやってきたのかい。そんなこと、そんなことは決まっているさ!」
彼、キルラは声を張り上げ右腕を降り上げ天を仰いだ。暗雲が立ちこめ嵐になるかのような「闇」がこの空間を覆っていく、ははっ、はははっ!彼の笑い声がこだまする。
「みんな・・・みんな!いなくなればいい!ァハハハハハハッ!」

伸哉はこの暗い闇は知っていた、自分自身、遠い昔に閉じ込めたものと同じものだ。しかし何も出来ずにいた、キルラの暴走を、自分だけの世界にいる者に手をだすのは無駄なことだと十分に知っていたからだ。
闇が完全にこの世界を覆った。
「さぁ!さぁ!始めるんだ!新しい!美しい世界を!!」

「ふん、バカは嫌いよ!」
サキがもう一度、最大級の魔法をキルラに向かって放つ。
「・・・・君は忘れたのかい?」
片手でその嵐のような風を受け流す。キルラは一瞬悲しげな表情を見せ、言葉を続ける。
「君はここにいる李先生やこのシンヤとかいう「侵入者」ではないだろう?君は、君自身の意思でこの世界にくることを望んだんじゃなかったのかい?・・それとももう忘れちゃったのかな辛く悲しい思い出は‥ここにいると、そう、記憶なんて楽しいことしか残らないものね。」
「私は、私は帰るのよ。‥・・昔のことは思いだせない。でも帰らなくっちゃいけない。」
サキはすぐさま次の攻撃にかかる。

「はははっ、それならばしかたないね帰ればいいさ、帰って自由で楽しい世界で暮らすといい!だけどその前にサキ‥・・君が忘れた記憶を取り戻さなければなるまい?」
そう言うと彼は消えた、と、瞬間彼の姿はサキの目の前に来ていた右の手のひらを広げ彼女の顔を覆う。サキは彼の指の間から彼の目を見た、いや、見られていた私の全てを、そんな気がした。それは昔の話、遠い遠い昔の話のはず、もう思い出すことはなかったはずの記憶だ!しかし彼はじっと見ている、私のあの・・・あの・・・ヤメテッ!・・イヤ、イヤっ!お願い、ごめんなさい、ねぇもうしないからお母さん、もういい子でいるから、だからぶたないで。お父さん?なんでそんなこと言うの?私が悪いの?私は変な子なの?ここにいちゃダメなの!ねぇ!なんで何も言わないの!なんとか・・・なんとか言ってよー!怖いよ一人は怖い。でも、でもみんなも怖い。どうすればい・・・

伸哉の見ている前でサキは体をブルブルと震わせ、細く震える声でつぶやいている。目はどこか遠くを見ている様だった。
李先生が先に動いた。キルラはフワリと後ろに飛んだ。
「サキ!大丈夫か!?」
「ァァアァ・・・・ごめんなさい、ごめんなさぃ・・。」
「伸哉君、サキを見ててくれ!」
そういうと李先生はキルラに向かって行った。

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