ディエロン

STRAT to End 2

ある程度接近すると魔法は使えないらしい、李先生とキルラはどこから出したのか光る剣のようなもので攻撃し合っている、二つの剣の間に火花が飛ぶ。二人は空中を飛びかい剣を振るう。
互いに互角の様に見えるがここは彼の世界なのだ。あきらかに李先生は汗を流し疲労の色が見て取れる、しかし彼は汗をかいてないどころか息一つ切らしていない、この状況をただ楽しんでいるだけの様にも見える。
「だから僕はもうあの世界にはもどらないよ李先生、だからもう僕には関わらないでくれないか。」
「はっ!そういうわけにはいかないよ、君はわかっているのかい?ここにいればじきに死がおとずれる、現実世界で死ねばここにいる君も死ぬんだ!永遠の世界なんてどこにもないんだよ!」
「・・・それはわかっているつもりだよ。しかしそれは推論であって、実際にためしたものはいないコトだよね、だから!この僕がその初めてを実践するつもりさ!」
キルラの剣が李の肩に深くささった。
「くっ・・・。」
「ああ、そうだ。ここから帰る方法ってのは僕も知らない、帰ろうと思えば簡単に帰れるのかもしれないけど、あなたたちが直ぐに帰らないところをみるとそれは難しいのかもしれないね・・・どうだろう?李先生?ここであなたが死ねば、あなたはいったいどこに行くんだ?ここにあるのは魂なのか精神なのか・・・・試してみようか。」
キルラがフラリと剣を持ち上げる、その目はセルロイドの人形のガラスの瞳の様にただ光りを跳ね返すだけのもののよう。

その光景を見ていた伸哉のまぶたがピクリと震えた。
伸哉は魔法の呪文を唱える、彼は今とてつもなく集中していた。
「あーゆーヤツは大嫌いだ。」
伸哉の体からその力がオーラの様に出て揺らめいている。

ゴォン!

空気が震えた。
力の塊の様なものが彼の手から放たれた。
「!・・なんだ?!なんなんだ?」
キルラは剣を持ち上げたままの状態で顔だけをこちらに向けて言った。その顔は明らかに驚愕と恐れの表情を作っていた。
「う、うおおおおおぉぉ!」
キルラはその力の塊を全力で押し返す。しかしそれは彼の予想をはるかにうわまわるパワーで彼の防御する剣を粉砕した。
「なんなんだオマエは!ここは僕の世界だぞ!僕が負けるなんてそんなこと!そんなこと!あるわけがっ・」

キルラはその力に飛ばされ壁に激突した。
「ガハッ!・・なんなんだ?この僕が血を流しているだって?そんなバカな!?」
「へっ・・どうやらオマエもちゃんと死ぬことができるみたいだな。」
伸哉の目はあきらかにいつもとは違った。しかしあるいはこれが本当の彼なのではないかと思わせる、とても冷静な狂気の目だった。
「オレはオマエの世界に興味はないし、オマエが死のうが死ぬまいがそんなことはどうでもいいんだ。ただオマエみたいな奴はムカツクんだよ、同族嫌悪ってのか?まるでオレの昔の姿を見てる様でな。そしてオマエは精神世界に逃げ込みゆっくりと自殺を試みている!それもなんだ!多くの人を巻き添えにしてだ!」
伸哉のまわりのガレキがカタカタと揺れている、そして大きな力の塊がキルラの目の前に迫る。
「な、何がわかるってんだ!僕のこの苦しみをわかる奴なんかいるものか!オマエなんかにオマエなんかに!」
「はん!僕が一番苦しんでいます?世界中でこんなに辛い目に合ってる僕?なんてカワイそうな自分ってか!?お笑いだな!オマエはまだ見ていないんだよ、世界を、他人の心を・・・・見て見るか?」
そういうと伸哉は手の平を広げ、先ほどキルラがサキにやっていたようにその手で彼の顔を覆った。 キルラはその指の隙間から伸哉の瞳を見る。黒い瞳、そのなかにはキルラ自身の姿が映っている。そしてその奥には伸哉の幼いころの記憶があった。

その記憶を感じることはまるで心臓に一本一本針を差し込まれていく様な鋭く深い痛みの連続だった。涙が流れる、しかしそこでは泣いてはいけない、自分を抑えて閉じ込めなければならない。泣いた処で状況は変らないのだ。キルラはその痛みを悲痛の心で受けた、しかし嬉しかった、こういうことで嬉しさを感じるのはおかしいのだが、痛くて涙が出た、嬉しくて泣きながら笑った。自分は世界で一人でない、一人ではなかったのだ。

そしてフッとキルラは笑顔を浮かべ床に倒れ込んだ。
「はぁ、いきなり思いつきでやったけどうまくいったみたいだな、しかしこれも魔法の様なものか、やけに・・体力を消耗し・・たな。」
そう言うと伸哉もバタリと倒れてしまった。
「よし、伸哉君。さすが私が見込んだだけのものはもっていたみたいだな。さぁ後はキルラの脳からプログラムを逆算すればここから出られる、ゆっくり休んでおきなさい。」
「ああ、たのんだよ李先生・・・‥。」
李はすぐさま解析に移る。
とその瞬間遠くから地響きの様な音が聞こえて来て、そしてその音はあっという間に大きく耳を張り裂けんばかりに響き出した。
「ヤバイ!これはヤバイぞ!この世界が終わろうとしている。いいのか悪いのかキルラの精神の糸が切れて現世の肉体が死にかけてるのかもしれん、クソ!解析にはもう少しかかるぞ、間に合うか!?」
「おいおい、李先生なんとかしてくれ、僕はもう動けないゼ。」
「しかし、・・・・・えっ!」
「なに?」
と李があらぬ方向を見ていた。
伸哉も目だけを動かしそちらを見やる。
そこには小泉愛子がいたのだった。

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