カタカタカタ・タン
ルーシーの女性のようなしなやかな指がキーボードの上を走る。
薄明りの中パソコンのモニターだけが白く光り、彼の顔を照らす。
パソコン本体からはいくつものコードが伸び、さまざまな機器につながっていてまるで学生時代に覗いていた顕微鏡から見える細菌の様に日に日に繋がったところから増殖していく。
今僕がしている作業は音響関係のものだ。
最近のホールの設計はどの席にいても同じ音環境を得られるように作られてはいるが、やはりまだよい席、悪い席は存在しこちらの音が届かない場合がある、もちろんそんなのはごく些細な違いなのだが「それではだめなのだ、僕の野望のためには・・・。」
コンサートの魅力は観客の一体感にあると僕は思う。
音を聞いてステージだけを見る。そこにいる客はそれだけしか見えないし聞こえない、しだいに興奮していき自分さえも見えなくなり普段ではとても考えられないような精神状態に入っていく、となりの人を見ても同じ様な状態だ。そしてふと気がつくのだ「もっと歌を聞かせて。」「気持ちいい。」「かっこいい!こっちに顔をむけて私を見て!。」同じだ。となりの人だけじゃないこの何千何万という人たちが同じことを考えている。
思考の共有。
戦争中にはかなり近いものができていたのだが、長続きはしなかった。
もちろんこのコンサートでの思考共有も一時的なものだ。
だがとりあえずこの課題を終えなければ次のステップには進めない。
まあ、なんとかなりそうだ。スピーカーの位置と数、あとそれぞれのスピーカーに対するプログラム、このままいけば次のコンサートには間に合うだろう。
ん?ナティか
「おいルーシーまだ起きてるのか早く寝ろ!その疲れを明日味合うのはオレなんだぜ。そんなのはゴメンだ。」
「わかったよナティ、わ〜か〜り〜ま〜し〜た。でもねすごいんだよ見て見てこんなとこまでできちゃったんだよ。」
「ん?ふーんこっちのことはよくわかんないけどいけそうなのか?。」
「もちろん!まかせといてよ、そこでここをちょっとこう・・・。」
そうつぶやきながら彼の指はものすごい早さで動き出す。
「おい!ル〜シィ〜わかってないようだな、そんなことするのなら明日は一人でやれよ。ちゃんと事務所に行ってみんなにあいさつしていっしょにランチでも・・・。」
「あ〜!!わかった。ごめんもう寝るよ、そんなことするなんて僕にできるわけないだろ。いじめないでよ。」
「やれやれこんなこと聞かれたらファンが減るな・・まあそれより部屋で独り言を続けている光景のほうがショッキングだとは思うが。」
そして、パソコンの電源を落としベットに潜り込む精神は交代で休めるがこの体はそうはいかないのでね