生命の星(第2回)
〜夜〜

私は夜の町が好きだ。
高村千里はルーシーのマンションから自宅へ帰る車の中で物思いにふける。
町のイルミネーションを目に映しながら。
ルーシー、今だに彼のことはよくわからないわね。あんな神がかり的な歌を歌うかと思えば家では普通の男の子だしね。だけど歌を歌うときのあのぞっとするような目はまるで別人だわ、今日のコンサートも最後の曲が終わるまでスタッフと一言も会話をしないそれどころか私がコンサート前に話したことも聞いてないんじゃないかしら?何を言ってもうなずくだけで氷のような目でどこか一点を見つめたままだった。緊張しているのかと思ったがどうも違うようだ。それにマンションまで届けたコンピューターの部品、パソコンオタク?どうだろう、そういうタイプには見えないが。その手に詳しい人に言わせると彼の部屋の機材はすごいものらしい、私もインターネットとEメールぐらい使えるがあまり好きじゃない、この間までは彼と呼べる人がいたのだが。いわゆる長距離恋愛で、よくあることだがメールのやりとりをしていた、一日に三回もメールチェックしていたことは今では驚きだ。あのときは二人の心は本当につながっていると思っていた。恥ずかしい話だ。電子メールは恋愛には向かない、手軽さがあだになって言わなくてもいいことまですらすら書いてしまう。
だから最近はできるかぎり紙のメモを使うことにしてるしリアルの手紙を使う。
人には変な目で見られるが、私が決めたことだ。
さあ、明日からもまだまだいそがしいからね。がんばらなくっちゃ。
千里は郊外のマンションの地下駐車場に車を入れ、キーを外しエレベーターホールに足を向けた。

カタカタカタ・タン
ルーシーの女性のようなしなやかな指がキーボードの上を走る。
薄明りの中パソコンのモニターだけが白く光り、彼の顔を照らす。
パソコン本体からはいくつものコードが伸び、さまざまな機器につながっていてまるで学生時代に覗いていた顕微鏡から見える細菌の様に日に日に繋がったところから増殖していく。
今僕がしている作業は音響関係のものだ。
最近のホールの設計はどの席にいても同じ音環境を得られるように作られてはいるが、やはりまだよい席、悪い席は存在しこちらの音が届かない場合がある、もちろんそんなのはごく些細な違いなのだが「それではだめなのだ、僕の野望のためには・・・。」
コンサートの魅力は観客の一体感にあると僕は思う。
音を聞いてステージだけを見る。そこにいる客はそれだけしか見えないし聞こえない、しだいに興奮していき自分さえも見えなくなり普段ではとても考えられないような精神状態に入っていく、となりの人を見ても同じ様な状態だ。そしてふと気がつくのだ「もっと歌を聞かせて。」「気持ちいい。」「かっこいい!こっちに顔をむけて私を見て!。」同じだ。となりの人だけじゃないこの何千何万という人たちが同じことを考えている。
思考の共有。
戦争中にはかなり近いものができていたのだが、長続きはしなかった。
もちろんこのコンサートでの思考共有も一時的なものだ。
だがとりあえずこの課題を終えなければ次のステップには進めない。
まあ、なんとかなりそうだ。スピーカーの位置と数、あとそれぞれのスピーカーに対するプログラム、このままいけば次のコンサートには間に合うだろう。
ん?ナティか
「おいルーシーまだ起きてるのか早く寝ろ!その疲れを明日味合うのはオレなんだぜ。そんなのはゴメンだ。」
「わかったよナティ、わ〜か〜り〜ま〜し〜た。でもねすごいんだよ見て見てこんなとこまでできちゃったんだよ。」
「ん?ふーんこっちのことはよくわかんないけどいけそうなのか?。」
「もちろん!まかせといてよ、そこでここをちょっとこう・・・。」
そうつぶやきながら彼の指はものすごい早さで動き出す。
「おい!ル〜シィ〜わかってないようだな、そんなことするのなら明日は一人でやれよ。ちゃんと事務所に行ってみんなにあいさつしていっしょにランチでも・・・。」
「あ〜!!わかった。ごめんもう寝るよ、そんなことするなんて僕にできるわけないだろ。いじめないでよ。」
「やれやれこんなこと聞かれたらファンが減るな・・まあそれより部屋で独り言を続けている光景のほうがショッキングだとは思うが。」
そして、パソコンの電源を落としベットに潜り込む精神は交代で休めるがこの体はそうはいかないのでね

第三回につづく

さらにつづく
おはようこにちはこんばんは
元気?
なら読んでね