●大橋新太郎が幕末に習った往来物(慶応2年書『庭訓往来』(下)と、それを清書した新太郎の書
 乙竹岩造の調査(回答数3万2391件)によれば、清書の評価方法は次の順で行われていた(『日本庶民教育史』下巻1034頁)。
 (1) 字毎に朱筆で、円・半円・点・棒などの符号を付すもの
    ………… 1459件 (45.04%)
 (2) 全部に対して 「天・地・人」、「松・竹・梅」、「吉・上吉・大吉」、「佳・佳々・大佳」等の評語を加えたもの
    …………  791件 (24.42%)
 (3) 「美事に候」、「追々上達美事に御座候」とか、「風姿竜章」、「傍華随柳」といった評句を加えたもの
    …………  684件 (21.11%)
 (4) 点数を付けたもの
    
…………  188件 ( 5.80%)
 全体の 3.6%は、以上のいずれの方法もお実施しなかったが、全体の96.39%、ほとんどの寺子屋では上記のいずれかの方法を用いていたという。
 ここに掲げた大橋新太郎 (明治期〜昭和初期の実業家と同姓同名で、生きた時代も似通っているが、本人かどうかは未確認。根拠がないので、一応別人としておく) の清書には、朱筆の傍線が引かれている (本数が多いほど良い評価であろう)。
 さらに、左側の写真には、朱筆で 「
皆字無滞、天晴後手柄、千秋万歳証之 (かいじとどこおりなく、あっぱれおてがら、せんしゅうばんざい、これをしょうす)」 と書かれている。

■某古書即売会で、何気なく手にした大判の『庭訓往来』。ありふれた手本であったが、中に清書が2枚挟まっており、手習師匠から採点されたと思われる朱筆があり、この清書が欲しくて購入した。手本には「大橋新太郎所持」と明記してあり、この清書の手本であることは疑いなく、清書と手本がいっしょに入手できたのは幸いだった。