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*金沢大学社会環境科学研究科で学術博士を頂いた論文の全文です。
(一部、口頭発表時に配布した資料が含まれます)
*その後の史料発見等により、修正すべき点が少なくありません。
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論文題名 |
近世の女筆手本 ─ 女文をめぐる諸問題 ─
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英文題名 |
The Calligraphic Model Textbooks for Women
in the Edo Period──
On the Various Problems Relating to
the Female
Epistolary Writing
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論文内容
●本文の全て(PDFファイル)をダウンロードできます。 → 全部 (8.2MB)
●引用等は構いませんが、次のように、出典を明記してください。
(例) 小泉吉永「近世の女筆手本─女文をめぐる諸問題─」
(金沢大学社会環境科学研究科・博士論文、1999年)
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■博士論文の概要はこちら |
00 本扉・目次・はじめに (280KB)
01 女筆手本とは (4.4MB)
02 近世刊行の女筆手本類 (1.4MB)
03 散らし書き (3.6MB)
04 女筆手本類の筆者 (4.4MB)
05 女性書札礼 (2.6MB)
06 おわりに (370KB)
07 補注 (240KB)
08 補足:女筆手本類の浸透 (640KB)
09 論文補足・訂正 (310KB)
10 資料1 主要女筆手本類解題 (7.0MB)
11 資料2 女筆手本類刊行一覧 (350KB)
12 グラフ : 女筆手本類刊行状況 (410KB)
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●主査・江森一郎先生がまとめられた審査結果の要旨です。
小泉吉永学位論文(金沢大学博乙第1号学術)1999.3.25授与
近世の女筆手本─女文をめぐる諸問題─
■審査結果の要旨(『金沢大学大学院社会環境科学研究科博士学位論文要旨』平成11年6月所載)
近年になって、江戸時代の女子用教科書・教養書である「女子用往来」を資料とする研究がとみに盛んになっている。博士号を授与された論文としては、90年代に入って、天野晴子『女子消息型往来に関する研究』(風間書房、1998)<日本女子大学、博士(文学)1993>、中野節子『考える女たち』(大空社、1997)<お茶の水大学、博士(人文科学)、1998>の二つの業績が出現した。小泉氏は、1991年に『江戸時代女性生活絵図大事典』(全9巻、別巻1 大空社 第1期1993、第2期1994)の編集作業がはじまって以来、この企画の共同編集者として、これら二人とも継続的に共同研究や研究交流をしており、往来物や当時の庶民対象の出版物全般について史料的アドバイスもしてきた。そして、早くから「女筆手本」の分野に自己のテーマを絞り、独自の角度からこの分野の研究を進めていた。
今回の氏の論文『近世の女筆手本』の特色は、多くの時間を費やして可能な限り原本を収集し、現存の江戸期の出版目録や本屋仲間記録、出版広告類などを精査し、詳細に比較し、原本の性格や系統を確定した事である。その上で「女筆手本類」の概念や分類法(女筆手本、女筆用文章、女筆往来物、男筆女用手本、男筆女用文章)を整理した。その事によって、現存の女筆の特徴を多面的に(書籍目録や出版動向の検討、散らし書き、著者、女性書簡作法、詳細な目録や解題の作成など)位置付けることができた。特に、一連の研究の基礎作業である詳細な目録や解題の作成の作業は、高く評価できる。その結果小泉氏は、万治(1658〜61)頃から享保期のピークを経て、宝暦期(1751〜64)までの100年間を「女筆の時代」と規定し、以後用文章型往来の普及に取って替わられる事を実証した。これは妥当な実証的整理である。また、限られた上層庶民の女性に限定されていたとしても、江戸時代中期に高度な識字文化が普及しはじめていた史実を明らかにした事にもなった。
これらの研究対象となる和書の所蔵が全国に分散し、事実上あるいは制度的に閲覧が制限されている場合が多く、他方、原本の確定自体が未確認のものが多いという状況下で、この作業はきわめて困難な作業である。また、自らが蒐集者でなければ、事実上できない研究分野である。このような理由のほか、特殊な書体と記述様式を伴なうこの分野は、資料の残存状況の希薄さとも相俟って、往来物研究史上大きなエアーポケットになっていた分野である。
本人が「おわりに」の冒頭や、その註でも述べているように、従来のこの分野の研究は概念整理が極めて不備であり、検討対象原本の確定が不正確で、蒐集点数も少なかった。今までこの分野では、小松茂美『日本書流全史』(講談社、1970)中の「著者家蔵手習手本一覧」がもっとも詳細であったが、その「一覧」では女筆手本は、20点しか採録されていないし、史料の確定に間違いが多く、分類法にも大きな問題がある。これに対し、小泉氏は一挙に300点以上を精査し、それぞれの女筆に正確で適切な解題を施し、「女筆の時代」の全貌を叙述した。この基礎作業は、我が国の教育史、女子教育史に対する貢献はもとより、家族関係や女、子どもの観点からの歴史の再構成が進められている今日、当該時代のジェンダー史、書誌学、書道史、国語学史に精度の高い資料的基盤を提供し、大きな刺激を喚起する事は間違いない。本委員会は、これらの点を高く評価する。
その他の評価すべき点については、次のような点もある。この時代の女筆の二大作家、居初津奈・長谷川妙躰の女筆の特徴や伝記を、史料的制約の大きい中で可能な限り明らかにしたことも、その網羅的な研究方法によってはじめて可能になったものである。すなわち、明和9年の『女用文章糸車』に妙躰の事跡が書かれている事を発見し、初期の妙躰の署名のない著作を推定し、その門流も整理した。また、元禄時代にあって女筆の世界に画期的に広い教養を持ち込んだ津奈については、津奈の署名のある『女書翰初学抄』と『元禄5年書目』中の『女文章かゞみ』の本文との比較でそれが津奈の書である事を合理的に推論した。さらに津奈の妙躰に対する間接的批判を『女書翰初学抄』に読み取った。
あるいは、元禄13年刊行、前田さわの『女世話用文章』の特異性を発見し、女性書札礼に関しては、まず、室町末の『女房筆法』の刊行年代の推定を行い、江戸期の女筆手本、女子往来などにより、女性書札礼の変化を明らかにした。このほか細かい部分では、研究史上はじめての指摘が多量にある。今後多様な分野からの多様な関心に影響を与えるであろう。このような点でも高く評価できる。「『和俗童子訓』から
『女大学』へ-「新女訓抄」からの考察」(『江戸時代女性生活研究』大空社、1994所収)や、「居初津奈の女用文章」(柴桂子編『江戸期おんな考』桂書房、第8号、1997)、『女子用往来刊本総目録』(吉海直人校訂、小泉吉永編集、大空社、1996)のように、すでに教育史、女性史学界や書誌学界で高い評価を得ている業績も多い。
あえて本論文の問題点をあげるならば、江戸時代中期は、日本のジェンダー史、女子教育史上においても大きな変化、変動が起こった時代と考えられるが、その変化の中で、女筆手本類はどのように位置づけられるのかという点についての考察がやや常識的であり、思想史的、女性史的背景へのアプローチに若干の問題点も見受けられる。これらの点が補充・修正されれば、本論文は更に総合的で、より深化されたものになると考えられる。
ちなみに、小泉氏は最近も『女筆手本解題』(日本書誌学大系80 青裳堂書店、98.12)を出版し、また、『国書総目録』や『古典籍総合目録』に未収録の往来物を多数収録する事になる『往来物解題辞典』(3570項目、本年5月大空社より刊行予定)を企画、立案するとともに、そのうちの大部分を自身で執筆し、その作業は現在ほぼ完了している。このような精力的な研究状況からして、本人自身の研究によって、上記の若干の問題点も、将来この研究のかなりの部分が拡充・発展される形で解消されるであろうと考えられる。
以上により、本審査委員会は、本学社会環境科学研究科の博士論文として審査委員全員一致で合格であると判断する。
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論文審査委員 委員長・江森一郎 委員・笠井純一、西村 聡
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