研究開発と特許情報
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0.はじめに

 本稿は「企業の研究リーダーのための研究支援情報システム最新モデルの研究」と題する 平成10年3月に発行された報告書の中の一部の私が執筆した特許情報に関した章を部分的に 一部書き直したものである。この部分だけで一応、内容的にまとまるように書き直したつも りであるが表現上おかしなところがあるかもしれない。ご容赦願いたい。(1998.04.05)

1.特許情報とは

 特許とは、よく知られているように一定期間その発明者に独占的に使用権を与えるか わりに、その技術内容を開示して技術の発展に、ひいては社会の発展に寄与する事を目 的としている。このため、日本においては出願後18カ月で公開されて公開公報が発行 される。また、出願後7年以内に審査請求を行って審査官による審査を経て新規性、進 歩性が認められると特許として登録され、登録公報が発行される。これらの公開公報お よび登録公報が特許の1次情報と呼ばれ、最近では紙媒体の他にCD−ROMでも発行 されている。

 なお、登録公報発行後6カ月以内であれば異議の申し立てができるが、異議の申し立 てがなされなかったり、異議が認められなければ初めて権利が発生する。この権利期間 は出願日から20年間となる。

 特許情報といった場合には、1次資料としてこれらの特許庁から出される公開および 登録の公報があり、これらを元にして2次資料としての抄録誌や3次資料としての各種 索引が民間企業によって作成、提供されている。

 これら1次資料と2次、3次の加工資料は磁気テープやCD−ROMなどの電子媒体 に記録されて一般に利用することが可能になっている。これらの電子化された情報をも とにデータベース化がなされて、商用のデータベースサービスやあるいは企業内のイン ハウスデータベースが構築され広く利用に供されている。

 ところでこれらの特許情報の特徴を(1)機能的特徴、(2)内容的特徴に分けてまとめる と以下の通りとなる。

(1)機能的特徴

 権利情報は特定技術分野や競合企業の特許権設定などを知らせるものであり、技術情 報は同様に特定技術分野や競合企業の先行技術や開発動向を知らせるものである。また 、経営情報は権利情報や技術情報とあいまって、二重の研究開発や投資を未然に防ぐた め、一方競合企業の動向の確認また自社技術の将来を占うような場合には非常に効果的 な役割を果たす。このように特許情報は一般科学情報や学術文献情報とは性格を異にし ているといってよかろう。

(2)内容的特徴


2.特許情報の役割

   特許情報は企業内において、特に技術開発における特許権の獲得また第3者からの権 利侵害を防止するために、また経営情報にと有効にかつ効率よく活用されなければならな い。各研究段階に対応して、特許情報がどのような役割を果たすかまたどのように利用 されるべきかを以下に述べていく。

(1)研究開発企画、計画段階
 この段階においては、まず研究テーマの選定をするにあたって該当技術分野の先行技 術、権利化の状況を把握するとともに競合企業はどこか、またその技術分野に他の競合 企業がどの程度の資源を既に投入しているのか等を調査する必要がある。

無論、研究テーマを選定するにあたっては、単に特許の権利化や先行技術の状況だけ から決定されることはまずない。既に競合企業によって有力な特許が権利化されていた としても、なおかつ開発を進めなければならない場合も多々ある。この際には特に既に どのような特許が権利化されているか知らずに開発計画を立てたのでは結果は言うまで もなかろう。経営の立場からは、有力な特許に対してロイヤリティを払うことまでも視 野に入れて判断する必要がある。この段階ではそれに対して周辺技術を固めてクロスラ イセンスするとか、開発段階からより明確にターゲットを絞り込むことが必要となる。

 なお、特許情報からは先行技術やその権利化の状況がわかるだけでなく、該当分野に いつ頃から競合企業が参入し、またどの程度の人員を開発に投入しているのかといった 情報をも読み取ることも出来る。このように特許情報は、それから読み取れる情報をフ ルに活用し、またマーケティング情報やその他の情報と総合して活用する事が望ましい 。

(2)研究開発実施段階
 この段階では、新しいアイデアや新規な結果が得られた場合当然権利化のために特許 を出願する必要がある。特許は、日本においては先出願主義、すなわち先に出願したも のに権利が与えられるのであるから、少しでも早く出さなければならない。しかしなが らこの段階でも、先行技術にどのようなものがあるのかを調査した上で特許を執筆する 必要がある。多くの場合、全く新規な発明であることは皆無といってよく、何らかの類 似の発明がある可能性が高い。これを知らずに出願してしまうのと、知った上でその発 明と自分の発明はどこが異なるのかをきちんと記述するのでは結果は自ずから知れよう 。

 またこの段階でも、常に新たな特許が出願され公開されているのであるから、その情 報も定常的にウォツチしておく必要がある。このためにはSDIといわれる検索式を登録 しておき、新たに特許の公報が出る毎に必要情報が自動的に入手出来るような手法が有 効である。

 研究リーダーはこの段階では、権利化のための特許出願について気を配るとともに新 たな特許をウォツチできるような体制を整えておく必要がある。

(3)研究報告段階
 研究報告段階においても特許情報は重要である。研究の技術内容を説明するために技 術情報としてのこれまでの特許について述べることも必要であるが、実際にはその研究 成果が本当に使えるか、言葉を換えればそれで商売が出来るかというのが事業部門の一 番の関心事であるのは言うまでもない事である。また研究開発部門も対投資効果を厳し くチェックされるのは当然である。従って研究報告段階では、どのような特許出願をし ているのか、権利化の見通しはどうなのか、該当分野でどのくらいのところをカバーし うるのかをわかりやすくパテントマップ等を用いてビジュアル化して報告する必要があ る。

 またこのようにマップ等を作成する事によって、更に開発が必要な部分も明確にする 事が可能となるはずである。

(4)研究運営管理段階
 この段階においては、研究開発のチームがフラットな自己管理型チーム構成 であるためには他の情報と同様に特許情報も共有でき、かつスムーズにアクセスできる ようでなければいけない。このためには、各段階において種々の目的のために収集され た特許情報をいつでも自由に取り出せるようにデータベース化しておく必要がある。ま たこのデータベースによってあるいはこのデータベースにリンクさせて特許の出願管理 や重要特許のウォツチングを行う必要がある。

(5)製造・販売過程
 特許がその効果を最も発揮するのはこの面においてであろう。すなわち自社の特許を 侵害する他社の製品があれば、差し止めなどの法律的手段に訴えることが出来る反面、 自社の製品が他社の特許を侵害しているならば、当然それに対する制裁措置を受けるこ とになる。この措置の効果は直接的であり、かつ非常に大きいものである。従って製品 を販売する際には、その製品はもちろんその製品を製造する方法をも含めて、他社の特 許に抵触する恐れがないかどうかを十分にチェックし、少しでもその恐れがあれば周到 な対策をとってから出荷すべきである。なお、このチェックは当然のことながらその製 品が出荷される全ての国に対して行う必要があることは言うまでもない。

(6)技術提携、技術輸出の過程
 技術導入と技術輸出に関しても特許が主役である。企業にとって他社の有用な技術を 見いだし、これを導入し育成を図ることが重要であると同様に、自社の技術を適正に移 転していくことも必要である。こういった活動の際に特許に充分な配慮を払わなかった 場合、いわゆる傷物を売買する結果となり、導入技術を計画通り実施できなかったり、 あるいは技術輸出先に迷惑を掛け信用を失墜するという事態が生じることもありうる。 従ってこのようなことが無いようにするためには、予め綿密かつ細心な特許調査を行っ て、その技術に対して特許上の問題が無いようにしておくことが必要である。

3.特許情報の利用

 1項で述べたように、特許情報は現在では電子化された状態でその1次資料であると ころの公報類が発行されている。このためこれらの電子化された情報をそのまま利用し て種々のデータベースが構築されている。しかしながら、これら公報が電子化される前 については紙の公報を見るかあるいはそれをもとにして作成された2次情報である抄録 やその抄録をベースに電子化された磁気テープや商用のオンラインデータベースを利用 するしかなかった。

 従って特に権利情報としての特許情報を扱う場合には、特許調査の専門家がマニュア ル調査と称する紙媒体の1次資料を手めくりで調査するという事が行われていたし、ま た現在でも行われている。

 ここでは、このような特許調査の専門家が行うような調査は別にして、研究者が比較 的容易に行えるデータベースによる調査を主として紹介する。

(1)商用オンラインデータベース
 最近ではInternet上でも有料のいわば商用の特許情報データベースがいくつもサービ スを開始している。しかしながら、これらのInternet上の商用のデータベースは従来の 商用オンラインデータベースと称しているものとは少なくとも現段階では、若干性格お よび使い勝手等が異なるのでこれらはまとめて以下の(3)項で述べることにする。

 ここでは、伝統的なホストタイプのオンラインデータベースについてその主なものに ついて述べるが、その一覧は表1.1の通りである。


(2)社内インハウスデータベース
 特許情報の社内インハウスデータベースについては、およそ10年程前に一種のブー ムといってもよい程あちこちの企業で構築された。しかしながらこの時代のインハウス データベースは、そのほとんどがホストコンピュータによる集中管理方式であり、かつ 記憶媒体の容量にも制限され全文やイメージ情報をも検索できるようなものでなかった 。全文やイメージについてはせいぜいが光ファイルにイメージ情報で蓄積し、必要に応 じて出力のみが行えるものであった。従って光ファイルに特許の公報をイメージで蓄積 する一方で検索用として、テキストベースで書誌事項と要約程度をホストコンピュータ に蓄積しているものがほとんどであった。またこの検索用のデータは例えば(財)日本特 許情報機構よりMTで購入する必要があり、実際に公報が発行されてからインハウスデー タベースにデータが入って検索できるまでにかなりのタイムラグがあり、即応性が問わ れる例えば問題特許を見いだして異議を行う等の用途には利用できなかった。

 ところで現在は特許公報自体が電子化されたCD−ROMで供給されるため、従来大 きなネックであったデータベースに入れるデータの入手の問題が軽減され、かつクライ アントサーバー方式で共通のインターフェースとしてWWWのブラウザを利用したイン トラネットが利用できる環境が整ってきていることより比較的容易に特許情報のデータ ベースが構築されるようになってきた。このため従来のように集中管理方式の全社特許 情報データベースではなく、各部門毎にそれぞれの用途に合致した形でより使いやすい データベースが構築されるようになってきた。

 しかしながら、CD−ROM公報のデータから容易にかつ比較的安価にデータベース 構築が可能なことから特にInternet上で安価なサービスが開始されたり、また場合によ っては米国特許にみられるように無料のサービスすらあるので、自前で特許情報のデー タベースを構築する必要性が以前より減少しているのも事実である。

(3)Internet上の特許情報
 既に述べたように、Internet上には商用のオンラインデータベースに匹敵するような 無料のあるいは非常に安価なデータベースサービスがいくつか存在する。これらのサー ビスはそれぞれ公的機関(特許庁)が無料で提供しているもの、会員制の有料のサービス の一部を無料で公開しているもの、会員制で有料のサービスに限られているもの、その 他(IBM提供の米国特許情報)のちょっと意図が判然としないもの等がある。いずれにし ても無料であったり、安い費用で使用可能なものが多いのでそれぞれの特徴を理解した 上で使用するのが好ましい。

 主なサービスは、表1.2および表1.3にあげた通りである。つい最近('98年2月12日 から)日本特許庁が最近1カ月分に限られるが公開および登録の特許、実用新案の検索 および全文、全図面が無料で見られる公報ジャーナル検索サービスを開始した。過去に 遡って調査する遡及調査には使用できないが、新規情報のチェックには効力を発揮する ので大いに利用するべきであろう。

         表1.2 日本の特許情報
データベース収録ベンダー 備考
NRI特:H5-野村総研 会員制有料、各社技報データもあり
G・NET特:H5-,実:H5-グリーンネット会員制有料、表示専用SOFT要
NEF・NET特:S52-,実:S52-ニッパツ会員制有料
ATMS特:H5-,実:H5-富士通会員制有料、専用SOFT要
PAJ試行中 特許庁無料、英文抄録、08-284901より
公報ジャーナル最近1カ月の特実の公開、登録特許庁無料、全文、全図面


       表1.3 海外の特許情報
データベース収録 備考
Shadow Patent OfficeUS '72-無料:最近3年のデータ、最近のPat.Noとタイトル.出力はタイトル,Pat.Noのみ
有料:'72以降全データ、料金体系委は従量制
US Patent Search
(USPTO提供)
US '76- 無料:Boolean search,Advanced Command-Line Search,US Class のブラウズ
出力はフロントページ+抄録
QPAT-U.S
(QUESTEL/ORBIT提供)
US '74-無料:検索およびフロントページ+抄録の出力
有料:フルテキストサーチ,料金体系は固定制
IBM Patent ServerUS '71-無料:検索,明細書全イメージが出力可
MicroPatent US '75-
EP,PCT '78-
無料:今週と先週のUS全文検索,表示,Gazette,試験的にEP,PCTが無料
有料:左記収録期間の検索,出力
Patent Discovery
(Derwent社提供)
最近3W発行
40カ国特許
無料:検索,出力はタイトル,特許番号,発明者,出願人だけ
PatentExplorer
(Derwent社提供)
US '74-
EP-A '78-
EP-B '91-
有料:全文検索,出力は細かく設定、明細書のオンライン取り寄せ


4.特許情報の利用に関する今後の方向

 特許情報の利用に関しては、前項で述べたように特許庁が無料で特許情報を提供する という動きがあるが、これは特許の三極間(米国、欧州、日本)のハーモナイゼーション の動きと無縁ではない。既に日本特許庁は'97年よりPAJ(Patent Abstracts in Japan) という日本特許の英文抄録のデータベースをInternet上で無料で提供している。これら の動向については、やはり日本特許庁のホームページ中の「第18回工業所有権審議会 情報部会について」やあるいは「三極特許庁長官会合」に関するプレスリリース等に詳 しいが、Internetによる特許情報の促進をはかるために、三極ウェブサイトの具体的実 現のためのワーキンググループが既に設立されている。このように米国、欧州、日本の 特許情報がマージナルコスト(データの複製費、データを格納する空の媒体費、送付費 等、複製のための追加的経費。データ作成、メインテナンスの費用は含まない)にて提 供されるようになる。

 日本においては、前項で述べた公報ジャーナル検索サービスが無料で開始された他に 、'98年4月より特許公報のCD−ROMが従来に比較して大幅に値下げされ、かつ使用 の制限が撤廃される。すなわち、これまでは社内のLANにデータをのせて共有する場合 や、あるいはそのデータをさらに第三者に販売する場合には、通常の費用の数倍を払う 必要があったがこれが撤廃されたわけである。

 これによって、現在以上にInternet上では安価な特許情報サービスが出現する可能性 がある。しかしながら、特許庁によって無料のサービスがある以上、更に何らかの付加 価値がなければ商売として成り立たせるのは困難であろう。従って画期的な検索方法や 容易に統計処理データが得られるといったようなサービスも開始されるかもしれない。

 今後の特許情報をめぐる動向からは目が離せない状況がしばらく続くものと思われる が、使用する側からは安価でしかも使いやすいものが出てくる事を期待したいところで ある。



参考文献

1.(社)情報科学技術協会編 情報検索のためのインターネット活用術 日外アソシエーツ,1996
2.松山裕二訳 特許のはかり方 ゼファー株式会社,1997
3.臼井裕一 インターネットで無料で公開されている商用データベースで入手できる情報の比較:特許関連情報 情報の科学と技術 Vol.47 No.8 pp401-405

参照URL

第18回工業所有権審議会情報部会について
 http://www.jpo-miti.go.jp/patent/8h/bukai18.htm
三極特許庁長官会合
 http://www.jpo-miti.go.jp/siryo/houdou/trijp.htm
NRI
 http://patent.index.or.jp/
G・NET
 http://g-net.ne.jp/
NEF・NET
 http://www.nefnet.co.jp/
ATMS
 http://www.jaja.co.jp/atms/index2.htm
PAJ
 http://www2.jpo-miti.go.jp/defaultj.htm
公報ジャーナル検索
 http://210.141.236.195/journal/wbpcgi/search/LOGON
Shadow Patent Office
 http://www.spo.eds.com/patent.html
US Patent Search
 http://www.patents.cnidr.org:4242/
Q-Pat US
 http://www.qpat.com/
IBM Patent Searver
 http://patent.womplex.ibm.com/
Micro Patent
 http://www.micropat.com/
Patent Discovery
 http://www.derwent.com/plweb-cgi/fastweb?searchform+view1
PatentExplorer
 http://www.patentexplorer.com/