[中四国近代建築スケッチブック 8]

 
吹屋小学校 その1
[1909年築 川上郡成羽町吹屋]

 高梁市からバスで成羽町の役場へ。期待していた、1927(昭和2)年竣工の成羽小学校は……もう現存せず。1978(昭和53)年に新校舎に変わっていた、残念。
 成羽から吹屋へはバスは朝夕のみ。しかたなくヒッチハイク。手を挙げると、熟年夫婦の車がすぐに停まってくれた。
 岡山県西部、古くは銅そして近世以降はベンガラの産地として栄えた吹屋集落。ちょっと衝撃的でもある赤茶色の甍(いらか)の列。伝統的建築物群保存地区として最近観光客も増えている。
 8月15日正午過ぎ、吹屋小学校に着いた。独特の赤茶色の石州瓦の屋根と黒ずんだ下見板の木造の校舎。和風を思わせる落ち着いた色合いだが、ファサードの欄間のハーフティンバーや、ポーチのアーチとその頂部から下がるペンダントなどが、擬洋風建築としての自己主張をしているようだ。赤松の杯を背にして夏の日差しを受けるその姿には、何がなし懐かしさを感じてしまう。

 今回は訪問前に電話で連絡をとり、校長先生のご好意で校舎を案内してもらう手筈になっていた。玄関のアーチをくぐると正面がロビーのような廊下になっており、左手に校長室、右手に職員室がある。「ごめんください」と声をかけると職員室の中から「あ、ワタナベさんですか」と、気さくで優しそうな男性が出ていらした。この4月から赴任された成羽町立吹屋小学校校長・川相善雄先生。扇風機を点けた校良室で、さっそく話を伺う。 現在、全校生徒12名・教員5名。2つの学年で一クラスとする、いわゆる「複式学級」である。1・2年生のクラス(4人)、3・4年生のクラス(6人)、5・6年生のクラス(2名)の3学級だけだ。それでも生徒数は微増していて、住民台帳からの試算では、6年後には17名になる予定という。
「赴任されたとき、この学校をご覧になってどう思われましたか」と尋ねると、まず「うれしかったですねえ」とおっしゃった。「この校舎に入るとホッとしました。木造のなんともいえない良さなんでしょうねえ。一部の窓には“ひわり(きしみ)”があって開けにくいところもありますが、これをもしアルミのサッシに変えてしまったら、この“味”はなくなってしまう、それこそ美観をそこねることになる、思うんです」 それにしても、80年以上にわたって現役で使われているというのはすごい。「老朽化」を理由とした改築の話は何度もあっただろう、と思うのだが……。
 校長先生はこの春、はじめて対面した子どもたちに「吹屋小学校はどんな学校?」と尋ねたという。「古い学校」と言うだろうという予想に反して、子どもたちの口から出たのは「きれいな学校」という答えだった。
「それを聞いたときは驚きました。でも学校いうところは子どもが主(あるじ)ですからね、子どもたちが学校が好きであり、子どもに危険がない以上、建て替える必要はありませんよ」と校長先生ははっきりおっしゃった。「でも職員室の床は傾いていて、椅子がすぐに動くんですがね」
 また、ここでは本当に理想的な教育ができる、という。子どもたちが皆家庭に恵まれていて、いわゆる「問題を起こす子ども」がいない。子どもたちがよく動く。大きな町の学校では、家庭の病根の探さゆえ、教師が学校教育「以前」の問題の処理に多大なエネルギーを注がなければならず、本来学校ですべき教育の面でなかなか手が回らなくなっている、ということを新聞で読んだことがあるが、ここではそんなこととは無縁で、まさに本当の教育ができるという。校長先生もいろいろと独創的な教育プランを考えておられるようだ。
【つづく】

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