Speedy recovery 速やかな回復 (連載第465回)

 10月2日、トランプ米大統領が新型コロナウイルス検査で陽性(tested positive for Covid-19)と判明した事実を例によって自らがツイッターで公表すると、そのニュースは瞬時に世界中を駆け巡った。感染者は大統領夫妻のほか報道官や選対幹部など数十名に上り、ホワイトハウスでクラスター(cluster, 集団)感染が発生するという前代未聞の事態に発展した。

 ツイッターを眺めていたら、民主党のオバマ前大統領、クリントン元大統領らは間髪を入れず、トランプ夫妻の速やかな回復(speedy recovery)を祈ると投稿していた。こういった大人の対応はツイッターを使っている日本の政治家も見習うといいかもしれない。

 ホワイトハウスでは当時、大勢がマスクをつけずに式典に参加しており、マスクの着用に消極的だった現政権の姿勢が災いした形だ。感染したのは気の毒だが、どう見ても不注意の謗りは免れまい。仮にこれが生物兵器を使った戦争だとすれば、米国はいわば本丸を落とされそうになったわけで、隙というか甘さがあった感は否めない。片や閣議はビデオ通話で参加し、面会者には事前に一定期間の自主隔離(self-quarantine)を要求すると伝えられるロシアのプーチン大統領の用心深さとはまさに対照的だ。

 軍用病院に入院したトランプ大統領は未承認の抗体治療薬、抗ウイルス薬のレムデシビルや免疫の過剰反応を防ぐステロイド剤のデキサメタゾンの投与を受けて辛うじて重症化を防いだようだ。そこまでは良かったが、問題はそこからの彼の行動だ。気分が良い(I am feeling well)とツイッターに投稿した大統領は入院中から専用車で外出して路上の支持者に手を振ってみせ、その翌日にはまだ快復していないのに退院した。本人は"Don't be afraid of Covid. Don't let it dominate your life."(新型コロナウイルスを恐れるな。それに人生を支配されるな)などという言葉とホワイトハウスに戻る自分の姿を映した動画をツイッターに投稿してご満悦だったようだが、その時点ですでに20万以上もの米国民が感染で落命していたのに、その辺の気遣いは微塵も感じられない。更なる感染拡大を招きかねない軽率な行動に対しては流石に風当りが強かったようだ。

 それでも米国の一部には大統領の軽挙妄動を容認するどころか賛美する向きすらあることには驚かされる。これもお国柄なのかもしれない。

(『財界』2020年11月18日号掲載)


※掲載日:2020年11月21日
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