Ventilation 換気 (連載第460回)

 かかりつけの医院に行くのにやむなく数カ月ぶりに電車に乗った。前回は電話診療で処方箋(prescription)を郵送してもらったが、しばらく検査を受けていないこともあって今度ばかりは行かざるを得ない。自転車で行こうかとも思ったが、かなり遠い道のりを走って事故に遭ってもつまらないので止めた。

 久しぶりに乗った電車は以前にもまして空いていた。冷房は効いていたが換気のため窓が開いており、風が通って心地よい。周囲の乗客は全員マスクをつけて話し声ひとつ聞こえない。感染予防に向けたこの国の人々の努力には改めて頭が下がる。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからほぼ半年が経って、どのような状況において感染リスクが高いのか見えてきた。感染予防の要諦としてソーシャルディスタンシング=対人距離の確保と共に早くから唱えられていた密閉・密集・密接の「3つの密を避ける」ことは有効な対策として周知徹底されており、7月半ばになってWHO(世界保健機関)もそれをAvoid the Three Cs(3Cを避けよ)と英訳してネットで告知した。即ちCrowded places (密集した場所)、Close-contact settings (密接した状況)、Confined and enclosed spaces(密閉された閉鎖空間)の3つの要素が重なった状況では感染リスクが高まる(The risk is higher in places where these factors overlap)。日本で3密回避の呼びかけに使われてきたチラシと比べてみたら図案も含めてそっくりなので、日本語をそのまま翻訳したものと見ていい。

 毎日のように報道される感染者発生の記事を読んでいると、接待やパーティーなどの会食の席でうつされたと見られるケースが多いことに気づく。緊急事態宣言下で閉まっていた飲食店が夜間営業を再開して酒席が増えたことがその背景にありそうだ。大学が禁止しているにも拘らず無分別にも宴会を催した学生の間で感染が頻発している。一方、屋外など広い空間でのイベントは、参加者の数はかなり多くても、飲食や発声を避けることで感染リスクが大きく低減されるようだ。

 都市部の雑居ビルの狭小な店舗の大半はもともと窓が小さく、換気(ventilation)の改善は期待しにくい。小劇場、ライブハウスやカラオケ店は騒音対策上、どうしても密室状態になるのでこの矛盾は解消できない。画期的な換気装置か殺ウイルス装置でも開発されない限り、この種の業態における感染予防は残念ながら極めて困難だ。

(『財界』2020年9月9日号掲載)

【注】本稿中の英語表現について筆者ブログに解説記事を載せてあるのでクリックしてご参照ください。→ Avoid The Three Cs 【3密を回避せよ】


※掲載日:2020年10月1日
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