Misleading 誤解を招く (連載第460回)

 7月中旬になって米国のトランプ大統領が初めて公の場でマスクを着用している(wear a mask)姿を見せた。 それまでマスクをつけずにテレビカメラや公衆の前で演説する同大統領の映像が連日放送されていたことが、マスクをしなくてもいいという誤ったメッセージを人々に送ってしまった(send a wrong message)可能性は否定できない。南部と西部で感染が急拡大している米国で感染者の累計が300万人を超えた今となっては遅きに失した感もあるが、遅くてもやらないよりはましだ(Better late than never)。

 それにしても米国人にマスク嫌いが多いのは不思議なほどだ。口を覆い隠すのは悪者だという固定観念がなかなか抜けないのかもしれない。米国のテレビドラマに登場する盗賊は覆面で口元を隠しているが、怪傑ゾロやバットマンのような正義のヒーローは怪しげなアイマスクで正体を隠しても口元だけは見える。古くは鞍馬天狗や月光仮面から近年の戦隊ヒーローまで覆面や仮面で口元まで覆っている日本の正義の味方とは対照的だ。

 さて言葉だけでなく視覚的に訴える効果がいかに重要かということは、毎回本稿を飾る広本氏の洒脱にして巧みなイラストが私のくどくどした文章よりもはるかに訴求力があると考えれば一目瞭然だ。

 緊急事態宣言の発令により歩行者が姿を消した繁華街の映像、東京アラートで赤色にライトアップされたレインボーブリッジや東京都庁の画像には違和感を覚える向きもあろうが、こういった映像や画像がテレビニュースで放送されツイッター等のSNSで拡散されたことによってより多くの人々の注意を喚起したことは間違いない。

 ところがその後、感染拡大を抑止すべく出されていたこれらの警報が不用意に解除されたことで、これでもうどこに出かけても大丈夫だという誤解を人々に与えたようだ。都内では換気の悪い密閉空間である劇場公演や密集・密接が避けられない屋内での会食に参加した若者を中心に感染者が続出し、感染再拡大の危機を招いている。

 今後も感染対策上重要なメッセージを言葉だけでなく視覚的に発信することが肝要かと思われる。幸いこの国ではマスク着用や手洗いは徹底しているから、この先ますます重要なのは3密の回避とソーシャルディスタンシング=対人距離の確保を訴え続けることだ。放送局だけでなく一般市民もSNSを通して正しいメッセージを伝え合うように心がけたい。

(『財界』2020年8月26日号掲載)


※掲載日:2020年8月31日
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