Contributing factor 要因 (連載第457回)

 新型コロナウイルスの世界的な流行という未曽有の社会的・経済的危機が進行するにつれて、各国政府による対策の巧拙が見えてきた。

 感染拡大の初期段階でその抑止に向けた積極的な対策を取っていない国では感染者と死者が膨大な数に達している。大統領が感染対策に消極的な姿勢を見せていた米国とブラジルではそれぞれ12万人、5万人以上が亡くなった。英国は後に方針を転換したものの、死者数(death toll)は4万人を超えた。

 ロックダウン(lockdown、都市封鎖)を実施した欧州諸国の多くは対策の遅れもあって流行の阻止に失敗した。手洗いの励行、マスク着用、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)や密閉空間における密集、密接な会話や発声(いわゆる三密)の回避が感染予防に役立った一方、交通機関の運行停止や罰則を伴う外出禁止令それ自体の効果は乏しかった。つまり、対策の強制力と感染抑止効果との間に相関関係(correlation)はほとんど認められない。

 政治指導者を比較すると、初動段階で封じ込めに成功した台湾やニュージーランドのほかドイツなどで女性が率いる政権への評価が押しなべて高い。対策の実施が早かったこともあるが、きめ細やかな対応で国民の信頼と協力を勝ち得たようだ。必ずしも多数の国民の共感を得られていない強面の男性政治家とは対照的だ。

 早い段階で検査・隔離体制が整っていなかったこの国で被害が比較的小さく留まっている要因(contributing factor)の多くは謎だ。もちろん、医療・介護現場で働く職員が感染防止に細心の注意を払ってきたことが大きく寄与したことは間違いない。以前からネットで噂されていたのは、日本で接種されているのと同じ株のBCGワクチン接種(BCG vaccination)を実施している国では感染による死者数が桁違いに少ないとする仮説だ。実際、隣り合う国の間でも大きな差があるという。それが仮に偶然の賜物だとしても先人の知恵に感謝したい。その他、家の中で靴を脱ぐ生活習慣、入浴の頻度、食生活の違い、感染履歴や遺伝的要因など様々な説が取り沙汰されているが、いずれも未検証(unverified)だ。専門家による調査分析を待ちたい。

 わが国民は優秀だといわんばかりの自己陶酔的な自画自賛は無意味だ。新型コロナウイルスは強敵だ。近く予想される流行の第二波、第三波にこの国の社会が耐えられるかどうかはまだ誰にも分からない。

(『財界』2020年7月22日号掲載)

【注】本稿中の英語表現について筆者ブログに解説記事を載せてあるのでクリックしてご参照ください。→ contributing factor 【要因】


※掲載日:2020年7月23日
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