Fact checking 事実確認 (連載第456回)

 大統領就任以前から毎日のようにツイッターで政敵やマスコミに対する論難を繰り返してきたトランプ氏の投稿にツイッター社が藪から棒に注釈を貼りつけた。郵便投票には不正が多いという、一見これと言って問題無さそうな彼のツイートの下にGet the facts about mail-in ballots(郵便投票に関する事実を確認)という一文が表示され、それをクリックするとThese claims are unsubstantiated(これらの主張には根拠が無い)というコメントが現れた。私が知る限り、ツイッター社が政治家の発言にこのような注記をつけたことはかつて無かった。トランプ大統領がどれほど過激なことを書こうと、政治家のアカウントには公共性があるとして投稿を表示しないといった措置は取っていなかった。あれほど好き勝手にツイッターを使わせておきながら今になって事実確認、近頃のカタカナ語で言うファクトチェック(fact checking)を呼びかけるとは一体どういう風の吹き回しか。

 その数日後、ミネソタ州で警官が取り押さえた黒人の容疑者が死亡した事件が引き金となって米国各地で発生した暴動をめぐるトランプ大統領の投稿が暴力を賛美するとしてその表示が制限されると、大統領はすぐさまツイッターを含むSNSを規制すると威嚇した。新型コロナウイルスの流行拡大という空前絶後の危機の最中に米国の大統領とSNS最大手が泥仕合を演じている場合ではなかろう。

 一方、国内では某テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがSNSで誹謗中傷を受けたことが原因で自殺するという惨事が起きた。この種の有害な投稿に対してツイッター等のSNS運営者がどのような対策を取っていたかは知らない。そのテレビ番組の制作会社と放送局は番組の制作と放送を打ち切ったが、抜本的な対策の有無は不明だ。SNS投稿者の実名開示を容易にすべきとの主張もあるが、匿名性が損なわれることで言論の自由の抑圧につながる危険がある。

 いま求められるべきは当局やSNS運営者による恣意的な投稿規制ではなく、例えばネット上の情報の正誤は自分で判断せよとか、根拠も正当性も無く他人を非難する投稿はいけないといった常識をSNSユーザー全員に持たせるための啓蒙活動ではないか。若者が陰湿な中傷に走らないようにするには、健全な批判精神を育むことが何よりも肝要だ。善良な個人が差別や抑圧を受けることの無い安全快適なネット社会を目指したいものだ。

(『財界』2020年7月8日号掲載)

【注】本稿中の英語表現について筆者ブログに解説記事を載せてあるのでクリックしてご参照ください。→ fact checking 【ファクトチェック(事実確認)】


※掲載日:2020年7月23日
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