Takeout テイクアウト (連載第455回)

 早くから新型コロナウイルスの感染拡大で夥しい数の犠牲者を出した欧米諸国とこの国の一部地域では、流行のピークを過ぎたとの判断から外出制限の緩和に向けて動き出した。

 一方、流行の第二波、第三波の襲来に備えて、他者との距離確保(social distancing)や密な空間の回避を含む衛生対策が「新たな日常」(new normal)としてすべての市民に求められている。この国の政府の専門家会議がそれを「新しい生活様式」と称して発表したとき、東西冷戦時代に育った私などはかつて共産圏の政府が市民の行動を隅々まで監視していたことを思い出して嫌な印象を受けた。その内容はいちいちもっともだが、問題は語感の悪さだ。お役所的発想なのか、例によって珍妙なカタカナ語で言い換えようともしていたが、それもすぐに立ち消えた。

 新型コロナウイルスの感染力の強さを考えると、その新たな日常の下では他者との距離確保や十分な換気が不可能な飲食店は従来の形では営業継続が極めて困難だ。酌を交わしながら談笑する宴会や接待を目的とした飲食は到底無理だ。

 長引く営業自粛により客足が途絶えた飲食店はテイクアウト(takeout, 持ち帰り)の弁当販売やデリバリー(delivery, 出前)サービスの導入で糊口を凌いでいるが、利益率の高い酒類に比べればその収益は微々たるものだろう。それでも何もないよりはましだろうから、消費者のほうも買うなり口コミで宣伝するなりして少しでも協力したい。私も微力ながら昼・夕食時にテイクアウト弁当の販売を始めた近隣の飲食店をときどき利用している。もともと近所付き合いが悪く外食を好まない私は足を踏み入れたことさえ無い瀟洒なレストランだが、プロの料理人が良い食材で作っているだけあって実に美味だ。

 グローバリゼーションの行く末は分からない。悲観的な私は、物流は回復しても人の流れはそう簡単には元に戻らないと見ている。中産階級の庶民が安価な海外旅行を楽しむ時代は終わったかもしれない。外国人観光客、カタカナ語で言うインバウンドツーリスト(inbound tourists)に大きく依存してきた旅行・宿泊業界は当面、業績回復の見込みは無い。もともと資金余力が無い中小企業の多くは市場からの撤退を余儀無くされよう。徒らにその決断を遅らせることの無いように、業態転換や資産の売却、従業員の転職に向けた最大限の公的支援を望みたい。

(『財界』2020年6月24日号掲載)

【注】本稿中の英語表現について筆者ブログに解説記事を載せてあるのでクリックしてご参照ください。→ takeout/takeaway 【テイクアウト、[お]持ち帰り】


※掲載日:2020年6月26日
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