Stay at home! 家にいろ (連載第452回)

 新型コロナウイルスは発生から3ヵ月も経たないうちに全世界の様相を一変させた。ウイルス感染が拡大した多くの国々で事実上の外出禁止令(curfew)が出され、平時は観光客で賑わう街を歩く人の姿も今やまばらだ。

 外で多数の人々と接する機会が多い著名人(celebrities)や政治家の感染が相次いで報道される中、英国ではチャールズ皇太子に続いてボリス・ジョンソン首相が新型コロナウイルス検査で陽性(tested positive for novel coronavirus)と判明した。首相が自らその事実を発表する動画をツイッターに突然投稿するあたりは当世風だが、若干やつれた表情を浮かべつつも引き続き国を率いてこの難局を乗り切る決意を表明したその姿には昔ながらのジョンブル(John Bull)魂が垣間見える。その映像でも呼びかけていたが、海外では政府や地方自治体の長がStay at home(家にいなさい)という簡潔なメッセージを繰り返し発信して、特に若者など外出が多い人々に対して感染拡大防止への協力を強く求めている。

 欧米の指導者はこのパンデミック(pandemic)を戦争に匹敵する危機と認識して国民に自制と団結を訴えている。トランプ米大統領は記者会見の席で、自分は戦時下の大統領(wartime President)のようなものと宣言した。一方、われわれ戦後世代の日本人は、何であれ戦争に喩えることを嫌い、政治家もこのような言い方はしない。東日本大震災や原発事故のような天災・人災は幾度となく発生したが、自分の住む地域が甚大な被害を免れた東京などの都市住民は経験に乏しく、実感が湧かないのかもしれない。

 この国で一般に危機感が薄いのは、現時点で判明している感染者数や死者数が諸外国に比べてかなり少ないせいもあるだろう。テレビの報道番組で見ると、夜の繁華街を飲み歩く輩が今も絶えない。テレビやネットでは、欧州で大量に並べられた棺(coffin)や罹患の苦しみを訴える患者の映像を連日のように流しているのに、テレビは見ないしネットでは好きなコンテンツだけ選んで見る若者の一部はそもそも時局に無関心なのか、それとも想像力に欠けるのか、直接自分に危険が迫るまで普段の生活パターンを続けようとするらしい。

 直接被災した経験が無い私自身も偉そうなことは言えないが、人類史上稀に見る危機に直面した今、自分と家人は極力自宅から出ないつもりだ。愛する人々や社会をウイルスの病魔から守り抜くために。

(『財界』2020年5月13日号掲載)


※掲載日:2020年5月28日
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