Outbreak 突発的流行 (連載第448回)

 年明け早々、中国・武漢で謎の肺炎が発生しているとの短信をツイッターで見かけて嫌な予感がしていたが、あれよあれよという間に中国全土、日本を含む世界各地へと感染が広がり、coronavirus [pneumonia] outbreak(コロナウイルス[肺炎]の突発的流行)を伝える記事を連日報道で目にする。この新種の流行病(epidemic)は、日本語ではよく新型肺炎、英語ではnovel coronavirus(新型コロナウイルス)または発生源の地名を取ってWuhan coronavirus(武漢コロナウイルス)と呼ばれている。往時はこの類の報道でpandemic(パンデミック、爆発的感染拡大)という言葉を見かけたが、最近はそれほどでもない。そう呼ぶ段階には至っていないとの判断からか、徒に人々の不安を煽らないための配慮でもあるのだろう。

 2003年に同じく中国で発生してアジア各地で流行したSARS(severe acute respiratory syndrome, 重症急性呼吸器症候群)も新型コロナウイルスによる感染症(infectious disease)だったが、当時は今ほど人々の移動が多くなかったせいか、日本から出ない私などはさほど深刻に受け止めなかったように記憶している。海外への旅行者や出張者、留学生がほとんど無かったさらにその昔は、一地方で発生した疫病の多くは風土病(endemic)に留まったことだろう。だが夥しい数の中国人旅行者が世界各地を訪れる今日、感染の急拡大は門外漢の私でさえ容易に予想できた。折しも春節を迎えた中国は旅行のピーク期に当たり、武漢からのツアー客を乗せた観光バスの運転手やガイドもこのウイルスに感染したという。

 感染拡大は止まらず、海外の航空会社が中国便を当面運休するなどその影響は全世界に広がりつつある。

 繁華街から離れた都内の住宅地にあるわが家の近所のドラッグストアでもマスクや除菌剤などの消耗品が売り切れ(sold out)または在庫が品薄(running short of stock)で販売数を制限するなど影響が出始めた。とは言え、マスク姿の人はさほど多くない。テレビでニュースを見ていたら中国人留学生が実家に送るためにマスクをもっと買いたいと答えていたが、私も同じ立場なら買いに走るかもしれないと思うと、強くは咎められない。

 疫病の大流行は人類共通の危機だからこそ、パニックに陥ることなく、正しい情報を隣人と共有しながら助け合いたいものだ。

(『財界』2020年3月11日号掲載)


※掲載日:2020年4月1日
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