Hong Kong 香港 (連載第444回)

 11月に行われた香港の区議会議員選挙では投票率が史上最高の70%超に達し、民主派が事前の予想を上回り全議席の8割以上を占める地滑り的な勝利(landslide victory)を収めた。権力側の不正によって選挙結果が歪められなかったのは、自由と民主主義を守ろうと声を上げ続けた香港の学生や市民の努力の賜物だろう。

 その昔まだ英領植民地(British colony)だった香港を出張や旅行で訪れた以外はブルース・リーが活躍する映画でしか馴染みが無い私にとっても、同地で6月から続く抗議活動は2019年最大の関心事だ。非力な元政治学徒たる私としては現地の状況をネット中継やツイッターで見守るくらいしかできないが、多数の逮捕者や死傷者を出してまで闘い続ける彼の地の人々に改めて深い敬意を表したい。

 テレビの情報バラエティ番組を眺めていたら、現地の抗議活動が交通を妨害するなど一時過激化したことについて、香港市民はいい迷惑だというコメントを耳にしたが、とんだ了見違いだ。抗議デモ参加者(protesters)の圧倒的多数は非暴力(non-violence)に徹している。路上で警官に話しかけた丸腰の市民の顔面にいきなり催涙スプレー(pepper gas spray)を吹き付け、所構わず催涙弾(tear gas canister)を乱射し、無抵抗の学生を警棒で殴打し、さらには無警告で胸部に銃撃するなど先に暴力をふるったのは香港警察のほうだ。暴漢による市民襲撃事件やデモ参加者に扮した不審者による破壊行為も目撃されている。独立調査委員会を設けて加害者の処罰を求める香港市民の要求は、今日の文明国なら至極当然だ。

 平和な日本で安穏な暮らしを営む私のような一般市民は、大きな犠牲を払って民主主義を実現してきた先人の苦難を忘れがちだ。香港の学生や市民が街頭で抗議の声を上げていなかったら、一行政区域の区議会選挙にこれほど注目が集まらなかっただろうし、民主主義の実現を求める彼らの声はほとんど聞こえてこなかっただろう。香港の人々は勇気ある行動を通して、選挙に無関心になりがちな私たちにその重要性を思い出させてくれた。

 世界はこれからも香港、さらにそれよりもっと非道な抑圧を受けている地域に目を向けるべきだ。民主主義や基本的人権は一地域、一国の国内問題ではなく、人類が団結して守るべき普遍的な共通理念なのだから。

(『財界』2020年1月15日号掲載)


※掲載日:2020年2月3日
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