Commendation 表彰 (連載第439回)

 先日、ひょんなことから自分と家内の名前が入った表彰状(letter of commendation)を飼い猫がかかりつけの動物病院で受け取った。表彰状と言っても、犬猫を長年大切に飼育し(つまり体調が悪ければすぐ病院に連れて行き)15歳を迎えたら、飼い主が申請すれば東京都獣医師会から発行されるもので、最近できたばかりの制度だという。

 社会に大きく貢献したことも無ければスポーツもやらない凡人の私は、中学生時代に作文が佳作入選して以来、金色枠の賞状をもらったことが無かったせいか、この年になってそんなものを手にしていささか面映かったが、ちょっとうれしかった。本当に称えられるべきは私ではなく、それぞれ15歳、20歳まで頑張って生き長らえているわが家の猫どものほうかもしれないが。

 受賞とか栄典とかに全く縁が無い私も、ソニー創業者の井深大氏(当時名誉会長)の英語屋として秘書業務をこなしていた当時は、It is a great honor for me to be awarded〜(〜の受賞は私にとって大変名誉なことです)といった紋切り型の表現を幾度となく書いたものだ。

 その後聞いた話だが、勲章(decoration)はこの国の場合、一定期間公職にあった人なら申請すればもらえるものらしい。地方議員を長年務めた身内が亡くなったとき、議会事務局から電話があって没後叙勲(追叙、posthumous honor)を申請するかと聞かれたことがある。故人の生前の意向により辞退したが、仮に申請するとどれほどの勲章が授与されるのか後学のために尋ねたところ、けっこう高いランクのそれだったので驚いた記憶がある。

 社会的名士の高位叙勲が発表された日には、本人周辺はさあ大変だ。鉢植えの胡蝶蘭が山と届き、秘書は礼状を差し上げるのにこれまた残業の山。人によっては叙勲祝賀パーティーのひとつも開くことになり、そうなると結構な物入りだ。そういった面倒を好まない向きは最初から叙勲申請なんかしようと思わないだろうし、推薦されても辞退するのだろう。誰もが卓越した業績の持ち主と認める方が相当お年を召されても無位無官のままでいることがあるのは、それが所以かもしれない。

 もちろん長寿猫の飼い主たる私がかかりつけの獣医の先生から表彰状をいただいたところで、その類の心配は無用だ。

(『財界』2019年10月22日号掲載)


※掲載日:2019年10月22日
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