Cashless payment キャッシュレス決済 (連載第426回)

 何でもこの国では今も現金(cash)払いが主流で、キャッシュレス決済の普及が一部の外国に比べて進んでいないという。

 なかなか時流に乗ろうとしない私などは、人類が営々と営んできた現金決済を慌てて止めることはないと思う。特に、様々な紙幣や貨幣が使える自動販売機(vending machine)やATM(automated teller machine)が著しく普及しているこの国では現金の利便性が非常に高く、従って現金決済の慣行から脱却する理由は、少なくとも個人的には見当たらない。

 そもそもキャッシュレス決済は消費者にとって本当に良いのか。自分自身の経験からすると、一長一短といったところだ。ネットで購入するにはクレジットカードが便利だが、セキュリティ面の不安がつねにつきまとう。

 近所のスーパーでの買い物はいつも現金払いだ。昨今の大手スーパーは独自の電子マネーを発行しているが、系列店や提携先でしか使えない汎用性の低いカードをわざわざ作っていちいち現金をチャージして持って歩くのは面倒だし、私のように懐具合が悪いオヤジにはそんな余裕も無い。それに、カードで払おうとしてもたついている他の買い物客の無様な姿を見ていると、手際よく現金で払ったほうが後ろに並んでいる人の迷惑にならないと思う。

 新手の決済手段が普及しない原因として高齢者を槍玉にあげる向きがあるが、そんな見方は安易に過ぎる。確かに、私自身も含めてスマホを持たない、持っていても使いこなせない中高年層ならモバイル決済(mobile payment)は利用しない。だが私の母などを見ていると、割引率などで特典が多いスーパーのプリペイドカードは使いこなしているし、交通機関の非接触型ICカード(contactless smart card)も持っている。それ以外を現金払いにしているのは、そのほうが便利だという合理的な理由があるからだ。

 キャッシュレス決済の普及を図ろうとして政治家がテレビカメラの前でにわかに電子マネーを使って見せたところで、パフォーマンスのために初めてそれを使ったのは見え見えで、何がどう良いのかが全く伝わってこない。キャッシュレス決済の利便性を訴えたいなら、本当に使い勝手が良い(user friendly)仕組に進化させ、その便利さを実感している者に語らせるべきだろう。

(『財界』2019年4月9日号掲載)


※掲載日:2019年4月23日
※このページの無断複写・転載は固くお断りします。
©Yoshifumi Urade 2019  All rights reserved.