Russian ロシア人 (連載第424回)

 自分では一度も足を踏み入れたことのないロシアに私が多少なりとも関心を抱くのは、会社員時代に仕事で何度かロシア人と話したことがあるからだろうか。

 当時、ソビエト社会主義共和国連邦(USSR=the Union of Soviet Socialist Republics)と呼ばれていた彼の国は、共産主義を国是に周辺国を併呑して作った連邦国家の盟主として東欧をもその傘下に収め、民主主義と資本主義に立脚する欧米諸国と政治的・軍事的に対峙していた。日本語ではその略称のソ連またはソ連邦という呼称が定着しており、ロシアという国名は私の場合、歴史の教科書かスパイ映画007(Double O Seven)シリーズの作品名『ロシアより愛を込めて』(From Russia with Love)くらいでしか目にすることはなかった。もっとも、英語圏のマスメディアはその時代もソ連の通称としてRussiaを使う向きもあった。1991年にソ連が解体しロシアという国名が表舞台に復活すると、私などは不思議な感慨を覚えたものだ。

 私が通訳兼カバン持ちを務めていたソニー創業者の井深大氏(故人)にはソ連科学アカデミーが何かしら話を持ちかけてきたので、その幹部のソニー本社来訪の打合せでソ連の在日公館の職員と話す機会があった。当時、私のような市井の日本人には、「わが国固有の領土」である(と私も教わってきた)北方領土に軍事侵攻し不法占拠したソ連は、秘密警察KGBが暗躍する、得体の知れない怖い国というイメージが強かった。今でも元KGB職員が最高権力者の地位にあると聞くにつけて、相変らず油断ならない国だと個人的には思う。

 ソ連崩壊から四半世紀以上も経た今日、テレビやインターネットで見かけるロシア人の若者の中には英語や日本語を巧みに操る者もいれば、日本製アニメのファンも多い。一方、ロシアの国民性として、手段を問わず拡げた領土はけっして手放そうとしない。北方領土の返還についてもロシア人の多くは否定的らしい。だとすれば、日露間の領土問題については、無理に今すぐ話を進めて互いに不満や禍根を残すくらいなら、いっそ過去のしがらみのない将来の世代に委ねるのが賢明ではないか。彼らが国政を担う頃には、辺境の島々の帰属など気にすることなく良好な友好協力関係が築けるかもしれない。

(『財界』2019年3月12日号掲載)


※掲載日:2019年3月26日
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