Rude 無礼な (連載第423回)

 ニュース専門放送局CNNを始め米国内の多くの報道機関に対する敵意を隠さないトランプ大統領が記者を指さしてYou're rude.(君は無礼だ)と言うのが前から気になっている。政権に批判的な報道機関と大統領の間に多少の軋轢や押し問答があっても別におかしくはないが、相手に対してrudeと言うのが政権の長に相応しい振舞いか。

 自分自身や第三者の言動について「礼を欠いている」という意味でrudeという形容詞を使うことはある。だが、相手に面と向かってこの言葉を言う人はあまりいないように思う。親が子供をたしなめるのに言うのならまだしも、他人に対してこの類の言葉は吐かないほうが無難だ。

 それに相当する日本語で考えると分かりやすい。時代劇に出てくるお武家様ならいざ知らず、現代社会でそれなりの地位や教養のある紳士淑女が(内心はどうあれ)相手を無礼者呼ばわりする姿はとんと見かけない。昔の小説に「失敬な奴だな、君は」という台詞があったが、軽口では言っても本気で口走ることはまず無い。

 さて報道機関をfake news(フェイクニュース)と呼んで非難しまくるトランプ大統領でも、相手をliar(嘘つき)と呼んで罵倒した話は聞かない。この言葉は英語圏の人々にとって最も侮蔑的な意味を持つ。そんな言葉を使った日には自分自身がrudeだとの謗りを免れない。

 民主主義社会で国民の信を得て政権を担う公職者とのやりとりにおいては、報道陣にもある程度の節度と礼儀があってしかるべきだ。真相を解明すべく質問するのがジャーナリストの仕事だろうが、共同記者会見で他社の記者と同じ質問を執拗に繰り返されたら聞かれるほうも苛立つ。

 トランプ大統領の支持者の中には、既成マスメディアの報道に耳を貸さないばかりか、陰謀論(conspiracy theory)に傾倒して、ありもしない悪の組織と大統領が戦っていると信じて止まない人々がいるという。テレビのニュースや討論番組がバラエティ番組と化し、あるいは一部の報道機関が自社または特定の勢力に不都合な真実の報道を避けることで大衆の不信を呼んでいるとしたら、それは民主主義社会に重大な危機を招きかねない。健全なジャーナリズムと公明正大な為政者が切磋琢磨し合う建設的な関係が培われることを願ってやまない。

(『財界』2019年2月26日号掲載)


※掲載日:2019年3月1日
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