Step down 辞任する (連載第422回)

 かつて出演していたテレビ番組での決め台詞You're fired!(おまえはクビだ)を地で行くかのようなトランプ大統領による閣僚の解任は別に珍しいことではないが、昨年暮のマティス国防長官の突然の辞任表明には驚かされた。

 その報道があった12月下旬に大統領がツイッターに投稿したツイートには、国防長官が2月末で辞任する旨の発表と、過去2年間にわたる貢献への謝意が述べられていて、それを読む限り特に波風が立った様子は見られない。

 ところが、国防長官が大統領に宛てた辞任表明の書簡を読むと、その様相は異なる。曰く、Because you have the right to have a Secretary of Defense whose views are better aligned with yours on these and other subjects, I believe it is right for me to step down from my position.(これらの諸問題についてもっと考えが近い国防長官を起用する権限が閣下にはありますから、私としてはこの職を辞すことが適切であると考えます)。締めの件にはI very much appreciate this opportunity to serve the nation and our men and women in uniform.(祖国と軍人諸君に貢献する機会に恵まれたことに深く感謝します)とは書いてあったが、当の大統領に向けた感謝の言葉は無く、両者の間に何らかの対立があったことは容易に窺える。

 マティス氏といえば生粋の軍人で、忠誠心も自制心も人一倍強い人物だったはずだ。その彼を国防長官に指名したとき、観衆に向かってうれしそうに"Mad dog" Mattis!とあだ名で紹介していたトランプ大統領にしてみれば、あのような辞任表明を突き付けられては飼い犬に手を噛まれた心境だっただろう。よほど腹に据えかねたのか、後任への円滑な引き継ぎのため2月末まで職に留まる意向を示したマティス氏を年末までに追い出して国防副長官を長官代行に昇格させた。

 辞任をめぐるいざこざが大衆の耳目を集めるのは公人の立場上、止むを得まい。報道によるとシリアからの米軍撤収に反対したことが辞任の直接の理由だという。私のような門外漢は米国の国防政策を論じる立場にはないが、急激な軍事プレゼンス(military presence)の低下は地域の不安定化を招きかねないとする見方に立てば、ここは軍事専門家であるマティス氏の意見を尊重すべきではなかったかと思う。

(『財界』2019年2月12日号掲載)


※掲載日:2019年3月1日
※このページの無断複写・転載は固くお断りします。
©Yoshifumi Urade 2019  All rights reserved.