RIP 安らかに眠れ (連載第420回)

 2018年は訃報に接する回数が心なしか多く、個人的には気鬱な一年だった。ツイッターでも物故者への哀悼の意を示す投稿でRIPの三文字をよく見たような気がする。

 RIP(R.I.P.)という頭字語(acronym)はかつて西洋の墓碑銘(epitaph)でしか見かけなかったが、近頃はツイッターなどのSNSで訃報を伝える投稿に使われている。英語のRest In Peaceを略したものと思っていたが、元はrequiescat in paceというラテン語に由来するらしい。いずれも「安らかに眠れ」という意味だが、遺族にお悔やみを伝えるための言葉ではなく、広く哀悼の意を表するのに使うネット上の俗語だ。一面識も無い著名人に格式張った表現で弔意を示す必要は無いから、これはこれでありだと思う。

 中学校で習って誰でも知っている死去を意味する英語に動詞die(死ぬ)や形容詞dead(死んでいる)があるが、これらは極めて直截的な言い方なのでお悔やみの手紙などでは避けて、その代わりにpass awayといった婉曲表現を使う。日本語で「死ぬ」「死亡する」の代わりに「逝く」「他界する」「永眠する」と言うようなものだ。

 本稿を書くにあたってGoogleにHe's deadという英文を入れて検索したところ、さる米国人俳優の画像が多く表示されることに気付いた。彼の名はデフォレスト・ケリー(DeForest Kelley)。私と同世代のテレビっ子にはSFテレビドラマ『スタートレック』(放送当時の邦題『宇宙大作戦』)に登場するドクター・マッコイ(Dr. McCoy)という役名のほうが知られている死体。宇宙船USSエンタープライズ号の船医役の彼が端役の殉職者を診ては口にするHe's dead, Jim(死んでいるぞ、ジム/Jimは船長の呼び名)という定番の台詞は今もネット上でスタートレックファン(Trekkie)に脈々と語り継がれている。その彼が生前に受けたインタビューで、自分の没後は墓石にHe's deadと刻まれるかもしれないとジョークを飛ばしていたのを思い出した。ただしこれもネットで調べてみたら、1999年に没した彼は太平洋に散骨されたという。とすればそのような墓碑銘はおそらく実在しない。

 ちなみに同じテレビドラマで共演していた故レナード・ニモイ(Leonard Nimoy)が演じた宇宙人ミスター・スポック(Mr. Spock)のLive long and prosper.(長寿と繁栄を)という決め台詞も、その役を代表するフレーズとしてネット上にその足跡を残している。

(『財界』2019年1月15日号掲載)


※掲載日:2019年1月30日
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