Photo op 撮影会 (連載第409回)

 6月12日、シンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談のテレビ中継を朝から見ていた私には、歴史的な瞬間を目撃した感動よりも奇異な印象が残った。

 核実験やミサイル試射を巡って険悪な関係にあった米朝両首脳が打ち解けて握手したところまではよかったが、トランプ大統領が「これから署名する」と言ってサインする場面になっても、それがどのような内容の合意なのかがなかなか伝わってこない。北朝鮮が非核化に取り組み、米軍兵士の遺骨を返還する見返りにその体制の安全を保証するという内容の共同声明(joint communique)だと分かったのは、その後行われたトランプ大統領の記者会見の席上だった。金正恩委員長は会見には同席せず、質問を一切受けることなく会場を後にした。トランプ大統領が合意内容を説明するよりも早く握手や会談の映像を自身のツイッターに投稿したのも珍妙だった。

 演出が目立った割に具体的な成果に乏しいこの首脳会談を、英文メディアはphoto-op summit(マスコミ向けの撮影会に終始した首脳会談)、a glorified photo op(虚飾に満ちた撮影会)などと酷評した(photo opはphoto opportunityの略)。

 当のトランプ大統領のほうは、そんな非難はどこ吹く風とばかりに帰路にもツイッターでThe World has taken a big step back from potential Nuclear catastrophe! No more rocket launches, nuclear testing or research! (核戦争の惨事の可能性はこの世界から大きく遠のいた。ミサイル発射も核実験も核研究ももう無い)と強調しながら、Thank you to Chairman Kim, our day together was historic! (金委員長に感謝する。共に過ごした今日は歴史的な一日だった)と自画自賛を繰り返した。

 戦争の危機を回避したという意味で、今回の首脳会談の意義は確かに大きい。問題は、つい昨年まで世界を恫喝しまくっていた独裁国家の指導者から「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID = complete, verifiable and irreversible dismantlement)の確約を取れずに彼の体制の安全を保証して軍事演習中止の言質まで与えてしまったことにある。不用意な譲歩は相手を増長させかねない。ビジネスの世界で百戦錬磨のトランプ大統領ならそんな危険は百も承知だろうが、政治家はともすれば功名心や名誉欲からとんでもない墓穴を掘りやすい。

(『財界』2018年7月24日号掲載)


※掲載日:2018年7月24日
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