Productive talks 実りある対話 (連載第408回)

 6月12日にシンガポールで行われる史上初の米朝首脳会談を中止するとトランプ大統領がいったんは発表したものの、数日後には元の鞘に収まっていた。

 大統領が本気で怒っていなかったことは、会談中止の発表と同時に公表された金正恩氏宛の書簡に見て取れた。丁重なその文面はまるでビジネスレターの教科書に出ているお手本のようだ。冒頭でWe greatly appreciate your time, patience, and effort with respect to our recent negotiations and discussions relative to a summit long sought by both parties(双方が時間をかけて目指してきた首脳会談に関する交渉と協議に閣下が多大な時間を割き忍耐を重ねてご尽力くださったことに感謝申し上げます)と敬意を払いつつも、会談中止の通告とそれに至った理由を簡潔に述べている。

 さすがは強面のトランプ大統領、そのすぐ後でYou talk about your nuclear capabilities, but ours are so massive and powerful that I pray to God they will never have to be used.(貴国の核戦力について閣下が言及しておられますが、当方のそれは非常に強大ですから、それを使う必要が生じないことを神に祈っています)などと脅し文句を付け加えるのを忘れていないが、米国人の人質を解放してもらったことに再び感謝を表明して、全体的には低姿勢に終始している。

 締めはSome day, I look very much forward to meeting you.(いつの日かお会いできることをとても楽しみにしています)と紋切り型の文句だけでは終わらず、If you change your mind having to do with this most important summit, please do not hesitate to call me or write.(この最も重要な首脳会談にかける閣下のお考えが変わりましたら、どうぞご遠慮なくお電話またはお手紙をください)というくだりにも態度の軟化を促す姿勢が垣間見える。

 これに対し北朝鮮側もかつての強硬な態度はどこへやら、珍しく下手に出てきた。恭順の表明とも取れるその対応をトランプ大統領もツイッターでproductive talks(実りある対話)と評価し、当初の日程で首脳会談を実施することで一件落着と相成った。

 米朝両首脳の思惑や成算はどうあれ、交渉力にいまひとつ欠けるこの国の政治家も、こういった積極的なやり取りをもって範とすべきではなかろうか。 

(『財界』2018年7月10日号掲載)


※掲載日:2018年7月24日
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