Occupation 職業 (連載第404回)

 将来はユーチューバー(YouTuber)になりたいという子供が増えて親を困らせているという。それが企画、主演から撮影、編集までテレビ番組の制作をひとりでこなしているようなものだとすれば、仕事(work)としては有りだ。世の親御さんが問題視するのは、その就業形態が常勤(full-time employee)でも自営(self-employed)でもなく、その日暮らし(hand-to-mouth)の稼業だからだ。

 その意味では長年、フリーランスで翻訳業・文筆業を営んできた私も似たようなものだ。ひとくちに自由業といっても高度な専門職(profession)から私のような在宅稼業まで様々だ。

 もちろんサラリーマンにしても、自己紹介で会社員とだけ言うと漠然過ぎる。部長や課長は役職(position)であって職業ではない。何々を商っている○○という会社の営業部門の管理職とでも言えば具体的で分かりやすく、かつその○○社が有名企業であれば世間での通りも良い。

 さて私の場合、翻訳者(translator)のほうはまだ分かってもらえるが、もうひとつの文筆家(writer)はいささか通じにくい。作家と称するには知名度も実績も乏しいし、コラムニストというカタカナ語を使うのはどうも面映い。俗な言い方で物書きと名乗ろうものなら、相手によっては怪訝な顔をされかねない。そこで自分の名刺の裏、用箋や電子メールの署名欄には、かつて売れた本の著者(author)、『財界』 誌の寄稿者(contributor)と記してある。何やら虎の威を借る狐のようだが、これなら分かりやすいし世間体も良い。

 その点、ユーチューバーは曲がりなりにも職業として広く認知されているのだからたいしたものだ。もちろん、それで生計を立てていけるかどうかはまた別の問題だ。創作者(creator)としての私の経験から言うと、たとえ一時的には売れたとしても、読者や視聴者に受けるコンテンツを生涯にわたって制作し続けられる才能の持ち主はそうはいない。浮き沈みの激しい芸能界を見れば、そのことは容易に想像がつく。ユーチューバーという職業自体、十年後に存在しているかどうかも分からない。

 私がもしユーチューバーを目指す子供の親だったらそう言って、止めるように諭すだろう。もっとも若者の目には輝かしい未来しか映らないし、彼らの夢や情熱は大切にしたい。

(『財界』2018年5月15日号掲載)


※掲載日:2018年5月29日
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