Complaint 苦情 (連載第400回)

 うちの猫の一方が愛用している小型のパネルヒーターが壊れた。スイッチを入れても暖かくならない。すぐ近くにコタツもあるから猫殿が自分で考えてそれに入ってくれたらいいのだが、辛抱強い彼は、点いてもいないヒーターの前をなかなか離れない。このところの寒気で風邪を引かれると面倒なので、代替品を急遽取り寄せることにした。

 壊れたヒーターは一昨年の冬に買ったばかり。いかに安物とはいえ、保証期間を過ぎて僅か2ヵ月で壊れるとは遺憾千万だ。

 このように無償修理(free repair)期間を過ぎて間もなく製品寿命が尽きる現象を「○○○(某社名)タイマー」と揶揄する向きがある。マーケティング用語で言う「計画的陳腐化」(planned obsolescence)の俗語的表現とされているが、後者は厳密にはメーカーが消費者に最新商品を買わせるための設計上の作為を指して言う。私が買うような昔ながらの日用品の故障の多くは(○○○タイマーもたぶんそうだが)単に設計技術または量産技術上の瑕疵に起因している。

 メーカーに対する自分の期待が高かった昔なら苦情(complaint)のひとことでも書いて送ったかもしれないが、安物を買った時点である程度のトラブルは覚悟していた。下手にメーカーに苦情を言うとクレーマー扱いされるかもしれず、かえって不快感が増すばかりだ。ちなみにこのような消費者の苦情という意味で「クレーム」というカタカナ語が使われているが、英語のclaimは権利の「要求」や保険金の「請求」の意味では使っても、「苦情」という意味は無い。いわゆるクレーマーは英語ではchronic complainer(苦情常習者)などと言う。

 苦情こそ入れなかったものの、他の消費者が自分と同じ轍を踏まないように、この商品が1年2ヵ月で故障したという客観的な事実のみ、それを買った通販サイトのレビュー欄に書き残した。すでに同様の不満が寄せられていたところを見ると、その機種に関する限り傾向不良があることは間違いない。

 今回壊れたヒーターは猫殿のお気に入りだったから改良版でもあればそれを買おうとも思ったが、他社製品があったのでそちらにした。取り寄せてみたら前のよりひと回り大きく、猫殿もすぐに気に入ってくれた。愛用品が壊れたこともおそらく知らず、そんなことでいちいちストレスを感じることもない猫は人間よりも幸せかもしれない。

(『財界』2018年3月13日号掲載)


※掲載日:2018年3月27日
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