Soapbox speech 街頭演説 (連載第394回)

 10月に行われた衆議院議員総選挙は、第一野党の分裂という珍事もあって意外に話題を呼んだ。投票率は53.68%と戦後2番目の低さだったが、投票日の数日前から大雨続きだったことも考えると上出来かもしれない。

 特定の支持政党がない無党派層(independent voters)に分類される私などは候補者が路傍に立っていても素通りしてしまうが、インターネットやテレビを通して見る限り、今回の選挙では街頭演説がなかなか盛況だったようだ。

 昔はよく候補者がひっくり返した牛乳またはビールのケースに立って演説していた。英語では「街頭演説する」という意味でsoapboxと言う。今でも選挙カーよりもこの種の「お立ち台」に立って演説する候補者が多いのは、少しでも有権者の目線に近づいて親近感を持たせたいからか。中には演説そっちのけで道行く人に片っ端から握手を求める候補者もいるが、そのような馴れ馴れしいアプローチを好まない私のような有権者もいるので注意したほうがいい。演説で聴衆の耳目を集めてこそ政治家だ。

 小池百合子東京都知事が政権を目指して新党を立ち上げた今回、焦りを感じた与党側は彼女に対する攻撃的な演説もしていたようだ。だがこのようなこき下ろしはコアな支持層には受けが良くても、下手にやると単なる中傷に聞こえて私のような無党派にはあまり響いてこない。

 ひとつ特筆すると、新党・立憲民主党の枝野幸男代表の演説は出色の出来だった。その評判を聞きつけて出不精の私もネット中継で見たが、日を追うごとに多くの聴衆を集めていた。枝野氏は演説で保守対リベラル、左派対右派という対立軸を否定して草の根民主主義(grassroots democracy)への参加を呼びかけた。リベラルという言葉には今や否定的なイメージが付きまとうだけに(連載第310回「リベラル」参照)これは賢明だ。民主主義の主役は皆さんだと訴えかけたあたりもジョン・F・ケネディ、オバマら雄弁で聞こえた米国大統領の演説を彷彿とさせる(連載第169回「雄弁な」参照)。今さらJFKもないだろうとおっしゃる向きもあろうが、優れた演説は何度聞いてもいいものだ。JFKの演説を聞きかじった私より上の世代には何かしら心の琴線に触れるものがある。

 若い政治家たちももっと弁舌に磨きをかけてプロの政治家らしい気骨を見せてほしい。

(『財界』2017年12月5日号掲載)

【補足説明】「街頭演説」を意味する英語には本稿に載せた soapbox speech のほかに stump speech があります。本稿ではビール瓶や牛乳の箱から連想しやすい soapbox speech を使いました。stump はもともと「木の切り株」という意味で、soapbox(石鹸の入った箱)と同様、これも昔はその上に立って演説したことに由来する言葉と思われます。


※掲載日:2017年12月18日
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